本居宣長の『玉勝間』より「兼好法師が詞のあげつらひ」について解説をしていきます。
本居宣長とは、江戸時代の国学者です。
古事記や源氏物語についても研究し、『古事記伝』『源氏物語玉の小櫛』などの作品も残しています。
国学とは、日本の古典文献を研究して日本の文化や精神を明らかにした学問です。
『玉勝間』は、江戸時代に本居宣長によって書かれた随筆です。
内容は、古典文献の研究から分かったことや、学問や思想についての自分の考えを述べたりしています。
勝間…竹で編んだカゴ
→玉がカゴにたくさん入っているような作品であることを表現
「古典作品研究の宝石箱や~」とでも言いたかったのでしょうか。
今回のお話は、本居宣長が兼好法師の『徒然草』にある「花は盛りに」についての批判したものです。
江戸時代の作品として有名な『徒然草』。
それを「あげつら」うというのです。
どのような内容なのか、読み取っていきましょう。
この記事では
・品詞分解と語句解説
・現代語訳
・本文の解説
以上の内容を、順番にお話していきます。
玉勝間「兼好法師が詞のあげつらひ」品詞分解・現代語訳・解説
本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳
兼好法師が徒然草に、
語句 | 意味 |
兼好法師 | 名詞(人名) |
が | 格助詞 |
徒然草 | 名詞(兼好法師の作品) |
に、 | 格助詞 |
【訳】兼好法師の『徒然草』に、
「花は盛りに、月は隈なきをのみ見るものかは。」
語句 | 意味 |
「花 | 名詞(ここでは桜を指す) |
は | 係助詞 |
盛りに、 | ナリ活用の形容動詞「盛りなり」(盛んである)連用形 |
月 | 名詞 |
は | 係助詞 |
隈なき | ク活用の形容詞「隈なし」(影になるところがない)連体形 |
を | 格助詞 |
のみ | 副助詞 |
見る | マ行上一段活用動詞「見る」連体形 |
もの | 名詞 |
かは。」 | 【反語】終助詞 |
【訳】「桜の花は満開の時に、月は影になる所がない満月の時にだけ見るものだろうか、いやそうではない。」
これは、徒然草の内容です。
とか言へるは、いかにぞや。
語句 | 意味 |
と | 格助詞 |
か | 【疑問】係助詞 |
言へ | ハ行四段活用動詞「言ふ」已然形 |
る | 【存続】助動詞「り」連体形【係り結び】 |
は、 | 係助詞 |
いかに | ナリ活用形容動詞「いかなり」(どんなだ)連用形 |
ぞ | 終助詞 |
や | 【疑問】係助詞 |
(あらむ)。 | 省略されている |
【訳】とか言っているのは、どんなものだろうか。
「どうだろうかねぇ~」と、納得がいかない雰囲気が出ています。
いにしへの歌どもに、花は盛りなる、月は隈なきを見たるよりも、
語句 | 意味 |
いにしへ | 名詞(遠い昔) |
の | 格助詞 |
歌ども | 名詞(歌々。「ども」は体言について々ものが複数であることを表す) |
に、 | 格助詞 |
花 | 名詞 |
は | 係助詞 |
盛りなる、 | ナリ活用形容動詞「盛りなり」連体形 |
月 | 名詞 |
は | 係助詞 |
隈なき | ク活用形容詞「隈なし」連体形 |
を | 格助詞 |
見 | マ行上一段活用動詞「見」連用形 |
たる | 完了の助動詞「たり」連体形 |
(歌) | 省略されている |
より | 格助詞 |
も、 | 係助詞 |
【訳】遠い昔の歌々に、桜の花は満開の時に、月は影になる所がない満月の時にだけ見た歌よりも、
花のもとには風をかこち、月の夜は雲を厭ひ、
語句 | 意味 |
花 | 名詞 |
の | 格助詞 |
もと | 名詞(下の方) |
に | 格助詞 |
は | 係助詞 |
風 | 名詞 |
を | 格助詞 |
かこち、 | タ行四段活用動詞「かこつ」(嘆く)連用形 |
月 | 名詞 |
の | 格助詞 |
夜 | 名詞 |
は | 係助詞 |
雲 | 名詞 |
を | 格助詞 |
厭ひ、 | ハ行四段活用動詞「厭ふ」(嫌がる)連用形 |
【訳】桜の花の下では風を嘆き、月の夜は雲を嫌がり、
桜の下で風が吹き散ってしまうのを嘆き、月が出ている夜に雲が月を隠してしまうことを嫌がっているということを言っています。
あるは、待ち惜しむ心づくしを詠めるぞ多くて、
語句 | 意味 |
あるは、 | 接続詞(または) |
待ち | タ行四段活用動詞「待つ」連用形 |
惜しむ | マ行四段活用動詞「惜しむ」(残念がる)連体形 |
心づくし | 名詞(あれこれ気を揉むこと) |
を | 格助詞 |
詠め | マ行四段活用動詞「詠む」已然形 |
る | 【完了】助動詞「り」連体形 |
(歌) | 省略されている |
ぞ | 係助詞 ※結びは流れている |
多く | ク活用形容詞「多し」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
【訳】または、(桜が咲いたり月が出たりすることを)待ち(桜が散ったり月が隠れることを)残念がる思いを詠んだ歌が多くて、
心深きも、殊にさる歌に多かるは、
語句 | 意味 |
心深き | ク活用形容詞「心深し」(趣が深い)連体形 |
(歌) | 省略されている |
も、 | 係助詞 |
殊に | 副詞(特に) |
さる | 連体詞(そういう) |
歌 | 名詞 |
に | 格助詞 |
多かる | ク活用形容詞「多し」連体形 |
は、 | 係助詞 |
【訳】趣が深い歌も、特にそういう歌に多いのは、
「さる歌」とは、その前に書かれている「花のもとには風をかこち、月の夜ヨは雲を厭ひ、あるは、待ち惜しむ心づくしを詠める」歌のことを言っています。
そういう歌に、趣深いものが多いということですね。
みな、花は盛りをのどかに見まほしく、
語句 | 意味 |
みな、 | 名詞(すべて、みんな) |
花 | 名詞 |
は | 係助詞 |
盛り | 名詞 |
を | 格助詞 |
のどかに | ナリ活用形容動詞「のどかなり」(のんびりしている) |
見 | 上一段活用動詞「見る」(眺める、見物する)未然形 |
まほしく、 | 【願望】助動詞「まほし」連用形 |
【訳】みんな、桜が満開に咲いているのをのんびりと眺めたく、
月は隈なからんことを思ふ心のせちなるからこそ、
語句 | 意味 |
月 | 名詞 |
は | 係助詞 |
隈なから | ク活用形容詞「隈なし」未然形 |
ん | 【婉曲】助動詞「ん」連体形 |
こと | 名詞 |
を | 格助詞 |
思ふ | ハ行四段活用動詞「思ふ」(望む、願う)連体形 |
心 | 名詞 |
の | 格助詞 |
せちなる | ナリ活用形容動詞「せちなり」(切実だ、痛切だ)連体形 |
から | 接続助詞 |
こそ、 | 係助詞 |
【訳】月は影になる所がないことを願う心が切実であるからこそ、
さもえあらぬを嘆きたるなれ。
語句 | 意味 |
さ | 副詞(そう) |
も | 係助詞 |
え | 副詞 |
あら | ラ行変格活用動詞「あり」未然形 |
ぬ | 【打消】助動詞「ず」連体形 |
※え~ぬ | 【不可能】~することができない |
(こと) | 省略されている |
を | 格助詞 |
嘆き | カ行四段活用動詞「嘆く」連用形 |
たる | 【存続】助動詞「たり」連体形 |
なれ。 | 【断定】助動詞「なり」已然形【係り結び】 |
【訳】そうはありえないことを嘆いているのである。
「さ」は「花は盛りをのどかに見まほしく、月は隈なからんことを思ふ」を指しています。
「さもえあらぬ」は直訳すると「そうあることができない」となりますが、ここでは「そうはありえない」と訳しました。
いづこの歌にかは、花に風を待ち、月に雲を願ひたるはあらん。
語句 | 意味 |
いづこ | 代名詞(どこ) |
の | 格助詞 |
歌 | 名詞 |
に | 格助詞 |
かは、 | 係助詞【反語】 |
花 | 名詞 |
に | 格助詞 |
風 | 名詞 |
を | 格助詞 |
待ち、 | タ行四段活用動詞「待つ」連用形 |
月 | 名詞 |
に | 格助詞 |
雲 | 名詞 |
を | 格助詞 |
願ひ | ハ行四段活用動詞「願ふ」(願う、望む)連用形 |
たる | 【完了】助動詞「たり」連体形 |
(歌) | 省略されている |
は | 係助詞 |
あら | ラ行変格活用動詞「あり」未然形 |
ん。 | 【推量】助動詞「ん」連体形【係り結び】 |
【訳】どこの歌に、桜の花に風(が吹くのを)を待ち、月に雲(がかかること)を、願う歌があるだろうか、いやない。
さるを、かの法師が言へるごとくなるは、人の心に逆ひたる、
語句 | 意味 |
さるを、 | 接続詞(そうであるのに、それなのに) |
か | 代名詞 |
の | 格助詞 |
法師 | 名詞 |
が | 格助詞 |
言へ | ハ行四段活用動詞「言ふ」已然形 |
る | 【存続】助動詞「り」連体形 |
ごとくなる | 【例示】助動詞「ごとし」連体形 |
(こと) | 省略されている |
は、 | 係助詞 |
人 | 名詞 |
の | 格助詞 |
心 | 名詞(情趣) |
に | 格助詞 |
逆ひ | ハ行四段活用動詞「逆ふ」(逆らう)連用形 |
たる、 | 【存続】助動詞「たり」連体形 |
【訳】それなのに、あの法師が言っているようなことは、人の情趣に逆らっている、
兼好法師を「かの法師(あの法師)」と言ってるんですね。
後の世のさかしら心の作り雅びにして、まことの雅び心にはあらず。
語句 | 意味 |
後 | 名詞 |
の | 格助詞 |
世 | 名詞 |
※後の世 | 後世(『古事記』や『万葉集』より後の時代ということ) |
の | 格助詞 |
さかしら心 | 名詞(利口ぶる心、かしこぶった心) |
の | 格助詞 |
作り雅び | 名詞(「作る」は「見せかける」という意味があることから、「見せかけの風流」と訳) |
に | 【断定】助動詞「なり」連用形 |
して、 | 接続助詞 |
まこと | 名詞(本当、真実) |
の | 格助詞 |
雅び心 | 名詞(風流心) |
に | 【断定】助動詞「なり」連用形 |
は | 係助詞 |
あら | ラ行変格活用補助動詞「あり」未然形 |
ず。 | 【打消】助動詞「ず」終止形 |
【訳】後世の利口ぶる心(が原因)の見せかけの風流であって、本当の風流心ではない。
本居宣長は平安時代の文学は好きですが、鎌倉時代の兼好法師のような作品は好きではないようです。
兼好法師の考えを、「さかしら心」による「作り雅び」と言っています。
「あの坊主がかしこぶって、風流っぽいこと言ってるけど、ちがうし」と言わんばかりですね…
かの法師が言へる言ども、この類ひ多し。
語句 | 意味 |
か | 代名詞 |
の | 格助詞 |
法師 | 名詞 |
が | 格助詞 |
言へ | ハ行四段活用動詞「言ふ」已然形 |
る | 【存続】助動詞「り」連体形 |
言ども、 | 名詞(「言」は「言葉」、「ども」は同じものが複数であることを表すことから「言葉たち」と訳した) |
こ | 名詞 |
の | 格助詞 |
類ひ | 名詞(似たようなこと、同じようなもの) |
多し。 | ク活用形容詞「多し」終止形 |
【訳】あの法師が言う言葉たちは、この類のことが多い。
みな、同じことなり。
語句 | 意味 |
みな、 | 副詞(すべて) |
同じ | シク活用形容詞「同じ」連体形 |
こと | 名詞 |
なり。 | 【断定】助動詞「なり」終止形 |
【訳】すべて同じことである。
すべて、なべての人の願ふ心に違へるを雅びとするは、
語句 | 意味 |
すべて、 | 副詞(だいたい、総じて) |
なべて | 副詞(普通) |
の | 格助詞 |
人 | 名詞 |
の | 格助詞 |
願ふ | ハ行四段活用動詞「願ふ」連体形 |
心 | 名詞 |
に | 格助詞 |
違へ | ハ行四段活用動詞「違ふ」(違う、一致しない)已然形 |
る | 【存続】助動詞「り」連体形 |
を | 格助詞 |
雅び | 名詞(風流) |
と | 格助詞 |
する | サ行変格活用動詞「す」連体形 |
は、 | 係助詞 |
【訳】だいたい、普通の人が願う心と違っているのを風流とするのは、
作りことぞ多かりける。
語句 | 意味 |
作りこと | 名詞(見せかけのこと、ごまかしで作り上げたこと) |
ぞ | 係助詞 |
多かり | ク活用形容詞「多し」 |
ける。 | 過去の助動詞「けり」連体形【係り結び】 |
【訳】ごまかしで作り上げたことが多いのだ。
恋に、あへるを喜ぶ歌は心深からで、
語句 | 意味 |
恋 | 名詞(恋愛) |
に、 | 格助詞 |
あへ | ハ行四段活用動詞「あふ」(出会う)已然形 |
る | 【完了】助動詞「り」連体形 |
を | 格助詞 |
喜ぶ | バ行四段活用動詞「喜ぶ」連体形 |
歌 | 名詞 |
は | 係助詞 |
心深から | ク活用形容詞「心深し」(思いが深い)未然形 |
で、 | 接続助詞 |
【訳】恋愛(の歌)で、(恋人に)会うことを喜ぶ歌は思いが深くなく、
あはぬを嘆く歌のみ多くして心深きも、
語句 | 意味 |
あは | ハ行四段活用動詞「あふ」未然形 |
ぬ | 【打消】助動詞「ず」連体形 |
を | 格助詞 |
嘆く | カ行四段活用動詞「嘆く」連体形 |
歌 | 名詞 |
のみ | 副助詞【限定】(~だけ、~ばかり) |
多く | ク活用形容詞「多し」連用形 |
して | 接続助詞 |
心深き | ク活用形容詞「心深し」連体形 |
も、 | 係助詞 |
【訳】会わないことを嘆く歌ばかりが多くて思いが深いのも、
あひ見んことを願ふからなり。
語句 | 意味 |
あひ見 | 上一段活用動詞「あひ見」(契りを交わす)未然形 |
ん | 【婉曲】助動詞「ん」連体形 |
こと | 名詞 |
を | 格助詞 |
願ふ | ハ行四段活用動詞「願ふ」連体形 |
から | 接続助詞 |
なり。 | 【断定】助動詞「なり」終止形 |
【訳】契りを交わすことを願うからである。
人の心は、うれしきことはさしも深くはおぼえぬものにて、
語句 | 意味 |
人 | 名詞 |
の | 格助詞 |
心 | 名詞 |
は、 | 係助詞 |
うれしき | シク活用形容詞「うれし」(嬉しい)連体形 |
こと | 名詞 |
は | 係助詞 |
さしも | 副詞(それほど) |
深く | ク活用形容詞「深し」(深い)連用形 |
は | 係助詞 |
おぼえ | ヤ行下二段活用動詞「おぼゆ」(思われる、感じられる)連体形 |
ぬ | 【打消】助動詞「ず」連体形 |
もの | 名詞 |
に | 【断定】助動詞「なり」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
【訳】人の心は、嬉しいことはそれほど深くは感じられないもので、
ただ、心にかなはぬことぞ深く身にしみてはおぼゆるわざなれば、
語句 | 意味 |
ただ、 | 副詞 |
心 | 名詞 |
に | 格助詞 |
かなは | ハ行四段活用動詞「かなふ」(思い通りになる)未然形 |
ぬ | 【打消】助動詞「ず」連体形 |
こと | 名詞 |
ぞ | 係助詞 |
深く | ク活用形容詞「深し」連用形 |
身 | 名詞 |
に | 格助詞 |
しみ | マ行四段活用動詞「しむ」(染みる)連用形 |
て | 接続助詞 |
は | 係助詞 |
おぼゆる | ヤ行下二段活用動詞「おぼゆ」連体形 |
わざ | 名詞(こと) |
なれ | 【断定】助動詞「なり」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
【訳】ただ、思い通りにならないことは深く身に染みて思われることだから、
すべて、うれしきを詠める歌には、心深きは少なくて、
語句 | 意味 |
すべて、 | 副詞(総じて、全般的に) |
うれしき | シク活用形容詞「うれし」連体形 |
(こと) | 省略されている |
を | 格助詞 |
詠め | マ行四段活用動詞「詠む」已然形 |
る | 【完了】助動詞「り」連体形 |
歌 | 名詞 |
に | 格助詞 |
は、 | 係助詞 |
心深き | ク活用形容詞「心深し」連体形 |
(もの) | 省略されている |
は | 係助詞 |
少なく | ク活用形容詞「少なし」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
【訳】総じて、嬉しいことを詠んだ歌には、思いが深いものは少なくて、
心にかなはぬ筋を悲しみ憂へたるに、
語句 | 意味 |
心 | 名詞 |
に | 格助詞 |
かなは | ハ行四段活用動詞「かなふ」未然形 |
ぬ | 【打消】助動詞「ず」連体形 |
筋 | 名詞(事柄) |
を | 格助詞 |
悲しみ憂へ | ハ行下二段活用動詞「悲しみ憂ふ」(悲しみ嘆く)連用形 |
たる | 【完了】助動詞「たり」連体形 |
(歌) | 省略されている |
に、 | 格助詞 |
【訳】思い通りにならない事柄を悲しみ嘆いた歌に、
あはれなるは多きぞかし。
語句 | 意味 |
あはれなる | ナリ活用形容動詞「あはれなり」(しみじみとした趣がある)連体形 |
(もの) | 省略されている |
は | 係助詞 |
多き | ク活用形容詞「多し」連体形 |
ぞ | 終助詞 |
かし。 | 終助詞 |
【訳】しみじみとした趣があるものが多いのだよ。
しかりとて、わびしく悲しきを雅びたりとて願はんは、人のまことの情ならめや。
語句 | 意味 |
しかりとて、 | 接続詞(そうであっても) |
わびしく | シク活用形容詞「わびし」(つらい)連用形 |
悲しき | シク活用形容詞「悲し」(悲しい)連体形 |
(こと) | 省略されている |
を | 格助詞 |
雅び | バ行上二段活用動詞「雅ぶ」連用形 |
たり | 【存続】助動詞「たり」終止形 |
とて | 格助詞 |
願は | ハ行四段活用動詞「願ふ」未然形 |
ん | 【仮定】助動詞「ん」連体形 |
は、 | 係助詞 |
人 | 名詞 |
の | 格助詞 |
まこと | 名詞(本当) |
の | 格助詞 |
情 | 名詞(感情) |
なら | 【断定】助動詞「なり」未然形 |
め | 【推量】助動詞「む」已然形 |
や。 | 【反語】係助詞 |
【訳】そうであっても、つらく悲しいことを風流であるとして願うようなことは、人の心の本当の感情だろうか、いやそうではないだろう。
「しかりとて」は「すべて、うれしきを詠める歌には、心深きは少なくて、心にかなはぬ筋スジを悲しみ憂へたるに、あはれなるは多き」の部分を指しています。
本居宣長の主張
『徒然草』における兼好法師の考え
・桜は満開のとき、月は満月のときだけを見るものではない
→桜が見られないこと、月に雲がかかることが趣深いのだ
・結婚し思いを遂げることだけが、よいわけではない。
→結婚できずに終わった辛さや、成就しなかった恋を思うことで情緒を理解することができる
(徒然草:花は盛りに)
宣長の主張
・本来、人は「満開の桜」や「満月」を見たいものである
→兼好法師が言っていることは、人の心に逆らっている「さかしら心の、作り雅び」
・思いがかなわず悲しみ悩む方が、強い思いが込められたいい歌である
→だからと言って悲しいことが風流だからって、望むのは違う
「人が求める本当の心」に着目
しかし兼好法師は…
・「満開の桜」や「満月」以外にも、風情があると言っている(咲いていない梢、満開を見れなかった悔しさ、桜が散った庭)
→「満開の桜」や「満月」に風情がないとは言っていない
「人が求めるもの以外にもある風情」に着目
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は玉勝間より「兼好法師が詞のあげつらひ」を解説しました。
本居宣長は、兼好法師の考えを「さかしら心の、作り雅び」と批判していました。
しかしよく読むと、着目するポイントが違うだけで言っていることは同じのようです。
宣長は、よっぽど兼好法師が嫌いだったのでしょうか?
なんでも面白がっている兼好を、まじめな宣長は嫌だったのかもしれませんね。
みなさんは、どのように感じましたか?
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