今回は菅原道真の漢詩である、「旅雁を聞く」について解説をしていきます。
タイトルにある「旅雁」とは、遠くへ飛んで行く雁のことを言います。
その「旅雁」の鳴き声を聞き、感じたことを詠みました。
どのような思いが込められている詩なのか、読み取っていきましょう。
また、漢詩といえば「中国のもの」というイメージですが、日本も古くは漢文が公用語として用いられていたのです。
また漢詩を詠むことは、貴族の教養でした。
『枕草子』の「うつくしきもの」でも、漢詩を読んでいる男の子の描写がありましたね。
この記事では
・書き下し文(読み仮名付き)
・語句の意味
・現代語訳
・詩の解説
以上の内容を、順番にお話していきます。
内容を読む前に、事前に背景などを知っておきたい人は、後半から読むことをオススメします。
下記の作品はフィクションですが、道真が主人公となっています。
読みやすいお話となっています。
歴史物語を読みなれていない方にも、読み進めやすい作品ではないでしょうか。
「旅雁を聞く」現代語訳・解説
白文
① 我為遷客汝来賓
② 共是蕭蕭旅漂身
③ 欹枕思量帰去日
④ 我知何歳汝明春
書き下し文(読み仮名付き)・語句の意味・現代語訳
① 我は遷客たり 汝は来賓
【訳】私は左遷された者であり、おまえはお客様だ
語句 | 意味/解説 |
我 | 私(ここでは道真自身を指している) |
遷客 | 左遷された人 |
たり | 断定の助動詞「~である」と訳。※助動詞のため、書き下しはひらがな。 |
汝 | おまえ(ここでは雁を指す) |
来賓 | 招かれてやってきた客 |
② 共に是れ蕭蕭として 旅漂の身
【訳】お互いにものさびしく、さまよう身の上だ
語句 | 意味/解説 |
共に | 一緒に、お互いに |
是 | 強調の意味を表す ※訳には反映させていない |
蕭蕭として | もの寂しい様子 |
旅漂 | 旅漂…旅に漂う=旅にさまよう |
身 | 身の上 |
③ 枕を欹てて 帰り去らん日を思ひ量るに
【訳】(しかし)横になって、故郷に帰るだろう日に思いを巡らせると
語句 | 意味/解説 |
枕を欹てて | 枕に頭を乗せる、横たわる |
帰り去らん日 | 「帰る」連用形 + 「去る」未然形 + 推量の助動詞「ん」連体形 →(自分がこの地から)去って帰るだろう日 |
思ひ量る | 思いを巡らせる |
に | 接続助詞(~と) |
④ 我は何れの歳なるかを知らん 汝は明春
【訳】私はいつの年か分からないが、おまえは来年の春だ
語句 | 意味/解説 |
何れの~か | いつの~か |
知らん | 「知る」(分かる)+打消の助動詞「ず」の連体形「ぬ」が変化したもの |
明春 | 来年の春 |
詩の解説
現代語訳を見ただけで、この詩の内容が理解できましたか?
ここからは、この詩が詠まれた背景などに触れながら、詩に込められた思いを読み取っていきましょう。
詩の形式・技法
詩の形式…七言絶句
押韻…賓 hin、身 shin、春 syun(第四句の「春」は押韻か微妙なところです)
作者について
作者である菅原道真は、和歌や漢詩の優れ、政治家としても右大臣まで登りつめた才能ある人物でした。
しかし、「我遷客為り」とあるように、道真は京の都から大宰府に左遷されています。
その理由については、詳しくは『大鏡』の「道長の左遷」というお話を読んでいただくとわかります。
道真は出世争いでライバルである藤原時平からあらぬ罪を被せられ、天皇を怒りを買い、左遷されてしまったのでした。
詩の内容
絶句の特徴である「起承転結」にあてはめると、各句では下記のような内容になっています。
第二句(承)… お互いにここが本来の居場所ではないことが共通である
第三句(転)… 改めて横になりながら、自分の状況を考える
第四句(結)… やはり全然違う(自分はいつ帰れるのかわからないが、雁は春が来たら帰る)
詩にこめられた思いとは?
自分と雁は、「この地が本来の居場所ではない」という共通点があるものの、決定的な違いがある。
雁は春になれば自分の居場所に帰れるが、私はいつになれば帰れるのか分からない。
それに雁は良い知らせを運んで来る渡り鳥と言われているが、私が都に帰れるという良い知らせはいつ持って来てくれるのだ?私はいつになったら京へ帰れるのだ?
→いつ京に帰れるのか分からない不安や寂しさ
この詩のポイント
「遷客」は、左遷された人という意味でした。
この地に来たのは、自分の意志ではないことが分かります。
それに対して「来賓」は、本来は招待されたお客様を指しますが、「来」という文字からも分かるように、自分の意志でこの地にやってきたことが表現されています。
A. この地に来ることが、自分の意志であるか否かを明確にしている
また、中国の故事で、前漢の蘓武という武将が匈奴に囚われていた際に、自分の無事を伝える手紙を雁の足につけて送ったという話があります。
そこから雁は、「良い知らせを運ぶ鳥」というイメージがつき、物語や漢詩に用いられてきました。
そこから雁は「お客様」として、来訪を喜ばれる存在であると言いたかったのかもしれません。
色々な解釈があるようです。
今回は、単に枕の上に頭を乗せている状態(横になっている)として解釈しました。
しかし、「外の物音に耳を澄ましたり、周囲の会話をひっそりと聞こうとする様子」を表す場合もあります。
それで解釈すると、「自分はいつになったら京都に帰れるのか、他の職員が話していないかな?」などと、周囲に対して聞き耳を立てていると読み取ることができます。
A. 横になっている / 枕を高くして聞き耳を立てている
「我」と「汝」の比較
我 | 汝 | |
誰のこと? | 菅原道真 | 雁 |
どのような存在? | 遷客 | 来賓 |
ここに来たのは? | 自分の意志ではない | 自分の意志である |
元の場所に帰る予定は? | いつになるのかわからない | 春 |
A. いつ京に帰れるのか分からない不安や寂しさ
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は菅原道真の「旅雁に聞く」を解説しました。
道真が雁の声を聞いて思ったことは、「自分はいつになったら京に帰れるのか」ということでしたね。
いつ京に帰れるのかわからないという、不安や寂しさが詠まれていました。
漢文は平安時代の貴族の教養として、重視されていました。
しかし、すばらしい漢詩は和歌ほど多くはありません。
その中で、これだけ端的に心情を表現できる道真の才能は、すばらしいものです。
結局、道真はこの大宰府の地で亡くなってしまいました。
この詩を読んで道真の思いを知ると、いかに無念だったかが分かります。
道真が死後、怨霊となった話などにも納得できるのではないでしょうか。
コメント