大鏡「道長の剛胆(豪胆)①四条の大納言の~」現代語訳・解説

古文

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大鏡より「道長の剛胆(豪胆)」について解説をしていきます。
内容に入る前に、簡単に『大鏡』について確認しましょう。

大鏡とは

大鏡
成立:平安時代後期
作者:不詳
ジャンル:歴史物語
内容: 藤原道長を中心とした藤原氏の栄華について書かれている。
二人の翁が語り手となり、若侍に語っている。

今回のお話の登場人物は、以下の通りです。
関係性を押さえた方が、内容を理解しやすくなります。

登場人物

今回のお話に登場する人たちは、以下の通りです。

四条の大納言…藤原公任(才能あふれる人物。「三船の才」では主人公として描かれる)
大入道殿…藤原兼家
中関白殿…藤原道隆
粟田殿…藤原道兼
入道殿…藤原道長
内大臣殿…藤原教通(道長の子であり、公任の娘婿となる人物)

※兼家には兼通かねみちという兄がいる。
しかし、二人は常に出世争いをして不仲。
頼忠は、兼家の兄である兼通を頼りにしていたこともあり、兼家にとってはライバル。
そして、その子供同士も比較してみていたと考えられる。

※道長と公任は同い年

あらすじ(あずき的超意訳)

今回のお話を、ざっくり簡単にまとめると以下の通りです。

藤原公任は、漢詩・和歌・音楽の才能があり、なんでもできちゃうスーパーマンだった。
それを道隆・道兼・道長の三人の父である藤原兼家は、うらやましがっていた。

「我が子は影さえ踏めない」と息子たちの前で、愚痴る始末…。

道隆道兼は、父のその発言を聞いてしょんぼり。
それに対して道長は、「影なんか踏まないで、顔を踏んでやるぜ!」と言った。
本当にその言葉通りになって、公任は道長の子の教通でさえも近くで見られないくらい高い位になってしまった。

「剛胆/豪胆」とは、「肝がすわる、度胸がある」という意味
「影を踏む」とは「接近すること、近づくこと」

それでは道長の豪胆っぷりを、しっかりと読み取っていきましょう。

 

大鏡「道長の豪胆①四条の大納言~」品詞分解・現代語訳・解説

本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳

四条しじょう大納言だいなごんのかく何事なにごともすぐれ、めでたくおしますを、

四条の大納言がこのようにどんなことにも優れ、立派でいらっしゃるのを、

語句 意味
四条の大納言 名詞(人名。藤原公任を指す)
格助詞
かく 副詞(このように)
何事 名詞(どんなこと)
係助詞
すぐれ、 ラ行下二段活用動詞「すぐる」(優れる)連用形
めでたく ク活用形容詞「めでたし」(立派である)連用形
おはします サ行四段活用動詞「おはします」(いらっしゃる)連体形 【尊敬】作者/語り手→四条の大納言への敬意
を、 格助詞

 

大入道殿おおにゅうどうどの、「いかでかかからむ。うらやましくもあるかな。

大入道殿が、「どうしてこうなのだろうか。うらやましいなあ。

語句 意味
大入道殿、 名詞(人名。藤原兼家を指す)
「いかで 副詞(どうして)
係助詞【疑問】 ※結び:む
かから ラ行変格活用動詞「かかり」(このようである→ここでは公任が優れていることを指す)未然形
む。 推量の助動詞「む」連体形 ※係り結び
うらやましく シク活用形容詞「うらやまし」(うらやましい、妬ましい)連用形
係助詞
ある ラ行変格活用「あり」連体形
かな。 終助詞【詠嘆】(~だなあ、~なことだ)

 

わがどもの、かげだにむべくもあらぬこそ口惜くちおしけれ。」もうさせ給ひたまいければ、

私の子どもたちが、(四条の大納言の)影さえも踏むことができそうにないのは残念だ。」と申し上げなさったところ、

語句 意味
代名詞(私)
格助詞
子ども 名詞「子等」(子どもたち)
の、 格助詞
名詞
だに 副助詞(さえ)
踏む マ行四段活用動詞「踏む」終止形
べく 可能の助動詞「べし」連用形
係助詞
あら ラ行変格活用動詞「あり」未然形
打消の助動詞「ず」連体形
こそ 係助詞【強意】 ※結び:口惜しけれ
口惜しけれ。」 シク活用形容詞「口惜し」(残念だ)已然形 ※係り結び
格助詞
申さ サ行四段活用動詞「申す」未然形 【謙譲】作者/語り手→子どもたち(中関白殿・粟田殿・入道殿)への敬意
尊敬の助動詞「す」連用形 作者/語り手→大入道殿への敬意
給ひ ハ行四段活用動詞「給ふ」連用形 【尊敬】作者/語り手→大入道殿への敬意
けれ 過去の助動詞「けり」已然形
ば、 接続助詞

 

 「口惜し」には、「期待した通りにならない悔しさ」が含まれています。

わが子の不甲斐なさを、「情けない」と言っているように聞こえます。
とはいえ、自分の父親によその子と比較されて「あの子は優秀でうらやましい」なんて言われたら凹みますよね…

 

 

中関白なかのかんぱく殿どのあわ殿どのなどは、げにさもとやおぼすらと、づかしげなるおおん気色けしきにてものもたまぬに、

中関白殿、粟田殿などは、(大入道殿は)本当にそのようにお考えになっているのだろうかと、恥ずかしそうなご様子で、何もおっしゃらないのに、

語句 意味
中関白殿・ 名詞(人名。藤原道隆を指す)
粟田殿 名詞(人名。藤原道兼を指す)
など 副助詞
は、 係助詞
げに 副詞(本当に)
副詞(そのように)
係助詞
格助詞
係助詞【疑問】 ※結び:らむ
思す サ行四段活用動詞「思す」(お考えになる)終止形 【尊敬】中関白殿・粟田殿→大入道殿への敬意
らむ 現在推量の助動詞「らむ」連体形 ※係り結び
と、 格助詞
恥づかしげなる ナリ活用形容動詞「恥ずかしげなり」(恥ずかしそうだ)連用形
御気色 名詞(ご様子)
断定の助動詞「なり」連用形
接続助詞
もの 名詞
係助詞
のたまは ハ行四段活用動詞「のたまふ」(おっしゃる)未然形 【尊敬】作者/語り手→中関白殿・粟田殿への敬意
打消の助動詞「ず」連体形
に、 接続助詞

やっぱりしょんぼりしちゃってますね…

ここは敬意の方向もわかりにくいので、詳しく見ていきましょう。

中関白殿(道隆)と粟田殿(道兼)は「(大入道殿)は本当に『そのようだ(うちの子たちは公任にかなり遅れをとっている)』とお考えになっているだろうか」と(思って)、恥ずかしい様子で何も言えなかった

ということです。

すると「思す」は、中関白殿・粟田殿から父である大入道殿への敬意となるのではないでしょうか。

そうですね。
ですがここは厳密にいうと、会話文ではなく地の文です。
作者/語り手から大入道殿への敬意となるでしょう。

 

この入道にゅうどう殿どのはいとわかくおはしますおんにて、「かげをばまで、つらをやまぬ。」とこそおおせられけれ。

この入道殿は、たいそう若くいらっしゃる御身で、「(四条の大納言=公任殿の)影など踏まないで、顔を踏まないだろうか、いや踏む。」とおっしゃった。

語句 意味
代名詞
格助詞
入道殿 名詞(人名。藤原道長を指す)
係助詞
いと 副詞(たいそう)
若く ク活用形容詞「若し」連用形
おはします サ行四段活用動詞「おはします」(いらっしゃる)連体形 【尊敬】作者/語り手→入道殿への敬意
御身 名詞(身)
断定の助動詞「なり」連用形
て、 接続助詞
「影 名詞
格助詞
係助詞
踏ま マ行四段活用動詞「踏む」未然形
で、 接続助詞【打消の接続】(~ないで、~ずに)
名詞(顔)
格助詞
係助詞【反語】 ※結び:ぬ
踏ま マ行四段活用動詞「踏む」未然形
ぬ。」 打消の助動詞「ず」連体形 ※係り結び
格助詞
こそ 係助詞【強意】 ※結び:けれ
仰せ サ行下二段活用動詞「仰す」(おっしゃる)未然形 【尊敬】作者/語り手→入道殿への敬意
られ 尊敬の助動詞「らる」連用形 【尊敬】作者/語り手→入道殿への敬意
けれ。 過去の助動詞「けり」已然形 ※係り結び

まわりくどい表現ですね。

要するに「影なんて言わないで、俺は顔を踏んでやるぜ!」と強気な発言をしたということです。
それが単なるハッタリでなかったことが、次の文章からわかります。

 

まことにこそさおはしますめれ。

今では本当にそのようでいらっしゃるようだ。

語句 意味
まことに 副詞(本当に)
こそ 係助詞【強意】 ※結び:めれ
副詞(そのように→道長が言った通り=道長が公任の地位を追い抜いたことを指す)
おはします サ行四段活用動詞「おはします」終止形 【尊敬】作者/語り手→入道殿への敬意
めれ。 推定の助動詞「めり」(~ようだ)已然形 ※係り結び

 

内大臣殿うちのおとどどのをだにちかくてえたてまつたまぬよ。

(公任は)内大臣殿をさえ近くで拝見なさることはできなくなっていらっしゃることよ。

語句 意味
内大臣殿 名詞(人名。藤原教通ノリミチのこと。道長の子であり、公任の娘婿)
格助詞
だに 副助詞(さえ)
近く ク活用形容詞「近し」連用形
接続助詞
副詞
マ行上一段活用動詞「見る」連用形
奉り ラ行四段活用動詞「奉る」連用形 【謙譲】作者/語り手→内大臣殿への敬意
給は ハ行四段活用動詞「給ふ」未然形 【尊敬】作者/語り手→四条の大納言への敬意
打消の助動詞「ず」連体形
よ。 間投助詞【詠嘆】(~なあ、~ことよ)

 

文法上のポイント

  • 呼応の副詞
    「え~ぬ」…【不可能】訳:~できない
  • 二方面への敬意「見奉り給ふ」
    「奉る」…見られる側の内大臣殿(教通)への敬意を表す
    「給ふ」…見る側の四条の大納言(公任)への敬意を表す

 

道長は若いから、怖いものなしでイキッたようでしたが、有言実行!
さすがでございます。

兼家パパが嘆いたときは、下の図のような状況でした。

それが、下の図のようになったのです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回は大鏡より「道長の豪胆①四条の大納言の~」を解説しました。

兼家は公任のすばらしさをうらやましがり、息子たちの前で「公任くんは才能あふれるスーパースターだから、うちの子たちが近寄れないよ…」と愚痴ってしまいます。

それを聞いた兄二人(道隆と道兼)はしょんぼり。
対する末っ子、道長はと言うと「影なんて言ってないで、俺は顔を踏んでやるぜ!」と言い切ります。

若さゆえの発言かと思われましたが、実際に公任は道長に追い抜かれ、道長の息子である教通ですらも近くで見られないほどに差がついてしまいました。

道長の豪胆な(何事にも動じず、肝がすわっている)様子が、感じ取れるお話でした。

この記事を書いた人
あずき

40代、一児の母
通信制高校の国語教員

生徒が「呪文にしか見えない」という古文・漢文に、少しでも興味を持ってもらえたらと作品についてとことん調べています。

自分の生徒には直接伝えられるけど、
聞きたくても聞けない…などと困っている方にも届けたくて、ブログを始めました。

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