今回は源氏物語の冒頭の章である「桐壺」から「光源氏の誕生」を取り上げます。
このお話は「光る君誕生」とも呼ばれています。
登場人物が帝をはじめとして身分の高い人ばかりなので、
敬語表現が多いです。
その上係り結びの結びの語が省略されていたり、主語が省略されていたりと読み解くには難易度が高めです。
「光源氏?あ~聞いたことあるわ」と軽い気持ちで読み始めると、なんとなく概要が理解できても、何を言っているのか肝心なことが見えなくはないですか?
今回は全てを網羅し、内容をおさえましょう。
源氏物語「光源氏の誕生」現代語訳・解説
「光源氏の誕生」というお話ですが、内容のほとんどが光源氏の母である桐壺の更衣についてです。
帝の寵愛を受け、男の子をもうけるまでになった桐壺は、大変辛い思いをしていました。
こんなにも帝に愛されたのに「幸せすぎる~!!」と手放しで喜べない理由とは?
解説をしていきます。
本文と現代語訳
以下、本文と現代語訳をしていきます。
単語や文法はもちろん、敬語表現が多いです。
敬意の方向についても確認しながら読んでいきます。
※青…単語、文法
※赤…敬語、指示語の解説
どの帝の御代であったか、
※いづれ…どれ、どの、いつ、だれ
※御時…天皇が治めている時代、御代
※に…断定の助動詞「なり」
※か…疑問の係助詞+結びの語が省略
省略されているのは「ありけむ」と考えると、
※あり…ラ変動詞「あり」の連用形
※けむ…過去推量の助動詞「けむ」(~ただろう)の連体形
※候ひ…謙譲語(作者→帝に対する敬意)
※給ひ…尊敬語(作者→女御・更衣に対する敬意)
※ける…過去の助動詞「けり」の連体形
大して重々しく扱うほどでない家柄の(女性)で、
※いと~なし(否定・打消)…大して~ない
※やんごとなき…ク活用形容詞「やんごとなし」(重々しく扱う、大切だ)連体形
※際…身分、家柄
※ぬ…打消しの助動詞「ず」連体形
「あらぬ」と連体形になっていることから、「人」や「女」がそのあとに省略されていることがわかります。
とりわけ寵愛を受けていらっしゃる方がいた。
※すぐれて…副詞(とりわけ)
【男性】時流に乗って政治的に栄える
【女性】寵愛を受ける(帝にかわいがられる)
※けり…過去の助動詞「けり」終止形
ここでも「給ふ」と連体形になっており先ほど同様に「人」または「女」が省略されています。
桐壺の更衣のことを指しているということをおさえましょう。
※給へ…「給ふ」已然形 尊敬語(作者→女御たちへの敬意)
※る…完了の助動詞「り」連体形
「我は」の後には「時めかむ」が省略されていると考えます。
※時めく+む(意志)…寵愛を受けよう
「は」強意の係助詞にも注目すると
「私こそは帝の寵愛を受けるぞ」と気負っている様子がわかりますね。
気に食わない者として(桐壺の更衣を)見下して恨みなさった。
※めざましき…シク活用形容詞「めざまし」(気に食わない)連体形
※おとしめ…マ行下二段活用動詞「おとしむ」(見下す)連用形
※そねみ…マ行四段活用動詞「そねむ」(妬む、うらやましくて恨む)
※給ふ…「給ふ」終止形 尊敬語(作者→女御たち)
(桐壺の更衣と)同じ身分、それより身分の低い更衣たちは、言うまでもなく心中おだやかでない。
※ほど…身分
※下﨟…身分の低い者
※まして…言うまでもなく
※やすからず…心中おだやかでない、おもしろくない
女の嫉妬は怖いですね…
これがもし桐壺の父親の身分が高く、
後ろ盾がしっかりしていたら誰も何も言えなかったでしょうね。
宮中での身分は父親の役職に応じて決められていたのです。
朝晩の宮仕えにおいても、ひたすら人の心を動揺させ、恨みを受けることが積み重なったためであろうか、
※ただ…ひたすら~である(強調)
※に…断定の助動詞「なり」の連用形
※や…疑問の係助詞(~か)
※けむ…過去推量の助動詞「けむ」(~ただろう)連体形
※心動く…動揺する、思い乱れる
※動く…動かす
という意味から
「心を動かす」は「動揺させる」と訳しました。
(桐壺の更衣は)たいそう病気がちになっていき、なんとなく頼りなく不安で実家に下がっていることが多いのを、
※もの…なんとなく
※心細げに…ナリ活用形容動詞「心細げなり」(頼りなく不安だ)連用形
(帝は)ますます満足せずに気の毒だとお思いになって、
※いよいよ…ますます
※飽か…カ行四段動詞「飽く」(満足する)未然形
※ず…打消の助動詞「ず」
※あはれなる…ナリ活用形容動詞「あはれなり」(かわいそうだ、気の毒だ)連体形
※思ほし…「思ほす」(お思いになる)の連用形
「思ふ」の尊敬語(作者→帝への敬意)
男の人ってか弱い女性に、ますます惹かれちゃうんですかね~。
人の非難も遠慮なさることがおできにならず、
※譏り…非難
※え~ず…~できない(不可能)
※憚ら…ラ行四段動詞「憚る」(気兼ねする、遠慮する)未然形
※せ…尊敬の助動詞「す」連用形
※給は…「給ふ」未然形
最高敬語(作者→帝への敬意)
「せ給ふ」という形は地の文においては最高敬語です。
最高敬語が使われる対象は大臣以上となっています。
世の中の先例になってしまうだろうご待遇である。
※例…先例
※ぬ…強意の助動詞「ぬ」終止形
※べき…推量の助動詞「べし」連体形
1. 推量(きっと~てしまうだろう)
2. 意志(きっと~しよう)
3. 可能(きっと~することができる)
4. 当然(きっと~するはずだ)
5. 適当(~するのがよい) ここでは 1. 推量
帝の態度は周りからすると火に油ですよね…
「愛は盲目状態」に見えます。
ここで言う「先例」というのも「悪い意味で先例になっちゃうよ」という意味ですね。
上達部、殿上人などもただもう何度も目をそむけながらも、見ていられないほどの帝の(桐壺の更衣に対する)ご寵愛である。
※あいなく…ク活用形容詞「あいなし」(ただもう)
※目をそばめ…マ行下二段活用動詞「そばむ」(目をそむける)連用形
※つつ…反復(+逆接)(~ながらも)
※まばゆき…ク活用形容詞「まばゆし」(見ていられないほど程度がはなはだしい)連体形
※人…帝のことを指す
※御おぼえ…ご寵愛
中国でもこのようなことが起こったので、世の中が乱れて悪くなったと、
※唐土…中国の古い呼び方。
※こそ…係助詞(強調)
※けれ…過去の助動詞「けり」已然形(係り結び)
「かかること」は帝が一人の女性に夢中になっていることを指します。
しだいにこの世の中でも、道理に合わないと人々の悩みの種になって、
※やうやう…しだいに。
※天の下…この世の中。
※あぢきなう…ク活用形容詞「あじきなし」(道理に合わない)連用形ウ音便化
※もて悩みぐさ…悩みの種
楊貴妃の先例も引き合いに出してしまいそうになっていくので、
※つ…強意の助動詞「つ」終止形
※べく…推量の助動詞「べし」連用形
唐の玄宗皇帝が楊貴妃に夢中になり、政治を顧みず宮廷が腐敗した。
その結果安史の乱を招いたと言われている。
たいそうきまりが悪いことが多いけれど、
※はしたなき…ク活用形容詞「はしたなし」(きまりが悪い)連体形
「はしたなきこと」は桐壺の更衣にとってのことです。
帝の寵愛が強まれば強まるほど、
周りからの目は厳しくなり、
「きまりが悪い」と感じているということです。
この女だらけの宮中で、帝ももう少し考えればいいのに…
夢中になりすぎて周りが見えてないなんて、政治もまともにできなそうだと世間の人が思うのは当然です。
恐れ多い(帝の)心遣いが比べるものがないのを頼りにして、(他の女御たちと)宮仕えをなさる。
※かたじけなき…恐れ多い
※御心ばへ…お心づかい(御:作者→帝への敬意)
※類ひなき…ク活用形容詞「類ひなし」(比べるものがない)連体形
※頼み…頼ること、当てにすること。
※交じらひ…ハ行四段動詞「交じらふ」(付き合う、宮仕えをする) 連用形
※給ふ…「給ふ」終止形 尊敬語(作者→桐壺の更衣への敬意)
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