竹取物語「火鼠の皮衣」現代語訳・解説 皮衣は本物?頑張った阿倍大臣の結末は!?

古文

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かぐや姫が言うのに従って皮衣を火の中にいれると、
めらめらと燃えてしまった…

大臣おとど、これを見給みたまひて、かおくさいろにてゐたまへり。

阿倍大臣はこれ(皮衣がめらめらと焼ける様子)をご覧になって、顔が草の葉の色で座っていらっしゃる。

※(見)給ひ…ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連用形
※(ゐ)給へ…ハ行四段活用補助動詞「給ふ」已然形
いずれも尊敬(作者→阿倍大臣への敬意)
※り…存続の助動詞「り」終止形

なんだか大臣がかわいそうになってきますね。
顔色が「草の葉の色」って…

あまりなじみがないかもしれませんが、血の気の失せて真っ青になった顔色を「草の葉の色」と表現します。
ここでは大金をはたいて手に入れた皮衣は本物だと信じて疑っていなかったのに、あっさりとめらめらと燃える様子を見てショックを受けている様子が分かります。

かぐやひめは、「あな、うれし。」とよろこびてゐたり。

かぐや姫は、「ああ、うれしいことだわ。」と喜んでいる。

対照的にかぐや姫は、なぜ喜んでいるのでしょうか?

もともと結婚する気がなかったので、難題を課したかぐや姫です。
火鼠の皮衣が偽物とわかり、結婚する理由がなくなりせいせいしたので「喜びて」となったのです。

大臣がかわいそうで見てられないです…

かのたまひけるうたかえし、はこれてかえす。

(かぐや姫は)あの(阿倍大臣が)お詠みになった歌の返歌を、(皮衣が入っていた)箱に入れて返す。

※給ひ…ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連用形
 尊敬(作者→阿倍大臣への敬意)
※ける…過去の助動詞「けり」の連体形

「かの詠み給ひける歌」…阿倍大臣が皮衣に添えて渡した歌。
かぎりなき思ひに焼けぬ皮衣 袂かわきて今日こそは着め
(限りない私の思いに焼けない皮衣。涙に濡れた袂も乾いて、今日こそは皮衣を着ましょう)
と結婚への強い想いを伝えた歌。

名残なごりなくゆとりせば皮衣かわごろもおもひのほかにきてましを

跡形もなく燃えると知っていたならば、この皮衣を(燃えないようにと)思い、火の外に置いて見たのに。

※名残なく…跡形もない
※せ…過去の助動詞「き」未然形
※ば…接続助詞
※思ひのほか…「ひ」が「火」と掛詞

「思ひのほか(予想外)」に燃えてしまったという事実と「ひのほか(火の外)」に置いておけば燃えずに済んだというどうすることもできない仮定の状況を詠んでいます。

まし…反実仮想の助動詞「まし」終止形

〇〇せば△△まし…反実仮想
反実仮想とは…まだ起こっていないことだけど、起きないことが確定している事柄について「仮に起こったとすると」と仮定した表現
「〇〇であったならば、△△だったのに」と訳します。
仮定は「まだ起きていないことであり、起きる可能性もある」というのが反実仮想との違い
とぞありける。されば、かえりいましにけり。

とあった。それで、阿倍大臣はお帰りになった。

※いまし…サ行四段活用補助動詞「います」連用形
 尊敬(作者→阿倍大臣への敬意)
※に…完了の助動詞「ぬ」連用形
※けり…過去の助動詞「けり」終止形

人々ひとびと、「阿倍大臣あべのおとど火鼠ひねずみ皮衣かわぎぬていまして、かぐやひめたまふとな。ここにやいます。」などふ。

世間の人々は、「阿倍大臣が火鼠の皮衣を持っていらっしゃって、かぐや姫(のところ)にお住まいになるとな。ここにいらっしゃるのか。」と尋ねる。

※いまし…サ行四段活用補助動詞「います」連用形
※給ふ…「給ふ」終止形
※います…「います」終止形
 尊敬(いずれも世の人々→阿倍大臣への敬意)

あるひとはく、「かわは、にくべてきたりしかば、めらめらとけにしかば、かぐやひめあひたまはず。」とひければ、

ある人が言うことには、「皮衣は、火にくべて焼いたならば、めらめらと焼けてしまったので、かぐや姫は結婚されない。」と言ったので、

※給は…「給ふ」未然形
 尊敬(世の人々→かぐや姫への敬意)
※ず…打消の助動詞「ず」終止形

これをきてぞ、とげなきものをば、あへなしといひける。

これを聞いて(からのち、世間の人々は)、物事を成し遂げないものを、「あへなし」と言うようになった。

※とげ…ガ行下二段活用動詞「遂ぐ」(成し遂げる。目的などを果たす。)の連用形
※なき…ク活用形容詞「なし」の補助形容詞的用法(~でない)

まとめ

いかがでしたでしょうか。
数々の男性に求婚され、結婚したくないが故に無理難題を結婚の条件とするかぐや姫。
それに対して、かぐや姫と結婚したい一心で大金をはたいて火鼠の皮衣を手に入れた阿倍大臣。


この世にない衣は本物だと思いなさい。(阿倍大臣との結婚を決めて欲しい)
阿倍大臣
苦労して大金はたいて手に入れたんだから、本物だよ!!
かぐや姫
素晴らしい衣に見えるけど、本物っていう決め手に欠けるわ。
燃やして確かめよう。本物は燃えないんだし。→皮衣は火にくべると、あっという間に燃えるのを見て喜ぶ。
世の人々
この一件から物事を成し遂げないことを阿倍大臣の名にかけて「あへなし」と言うようになった
「かぐや姫が求婚を断るために無理難題を出したのは、相手に配慮してのことだ」という説もありますが、やりとりを見ていると、かぐや姫が性悪女に見えてしまうのは私だけでしょうか。
この記事を書いた人
あずき

40代、一児の母
通信制高校の国語教員

生徒が「呪文にしか見えない」という古文・漢文に、少しでも興味を持ってもらえたらと作品についてとことん調べています。

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