今回は枕草子より「九月ばかり」について現代語訳・解説をしていきます。
枕草子とは、平安時代中期の作品です。
作者である清少納言は、中宮定子に仕えた女房でした。
そこで見聞きしたことや、日々感じることなどをつづっています。
今回のお話は、作者が九月頃に感じた「をかし」なことがつづられています。
「をかし」は「趣深い、おもしろい」という重要古語です。
作者はどのようないことを「をかし」と言ったのでしょうか?
読み取っていきましょう。
この記事では
・品詞分解と語句解説
・現代語訳
・本文の解説
以上の内容を順番にお話していきます。
枕草子「ありがたきもの」
枕草子「うつくしきもの」
枕草子「中納言参り給ひて」
枕草子「宮に初めて参りたるころ」
枕草子「ふと心劣りとかするものは」
枕草子「野分のまたの日こそ」
枕草子「九月ばかり」品詞分解・現代語訳・解説
本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳
九月ばかり、夜一夜降り明かしつる雨の、
語句 | 意味 |
九月 | 名詞 |
ばかり、 | 副助詞(~ぐらい、~ほど) |
夜一夜 | 名詞(一晩中) |
降り明かし | サ行四段活用動詞「降り明かす」(一晩中降る)連用形 |
つる | 完了の助動詞「つ」連体形 |
雨 | 名詞 |
の、 | 格助詞【主格】 |
【訳】九月ぐらいに、一晩中降り続いた雨が、
今朝はやみて、朝日いとけざやかにさし出でたるに、
語句 | 意味 |
今朝 | 名詞 |
は | 係助詞 |
やみ | マ行四段活用動詞「やむ」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
朝日 | 名詞 |
いと | 副詞(とても) |
けざやかに | ナリ活用の形容動詞「けざやかなり」(あざやかだ)連用形 |
さし出で | ダ行下二段活用動詞「さし出づ」(輝きだす) |
たる | 完了の助動詞「たり」連体形 |
に、 | 格助詞 |
【訳】今朝は止んで、朝日がとても鮮やかに輝き出した時に、
前栽センザイの露はこぼるばかり濡れかかりたるも、いとをかし。
語句 | 意味 |
前栽 | 名詞(庭先の草木) |
の | 格助詞 |
露 | 名詞 |
は | 係助詞 |
こぼる | ラ行下二段活用動詞「こぼる」(こぼれる)終止形 |
ばかり | 副助詞(~ぐらい、~ほど) |
濡れかかり | ラ行四段活用動詞「濡れかかる」連用形 |
たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
も、 | 係助詞 |
いと | 副詞 |
をかし。 | シク活用の形容詞「をかし」(趣がある)終止形 |
【訳】庭先の草木の露がこぼれるほどに濡れてかかっている様子も、とても趣がある。
透垣の羅文、軒の上などはかいたる蜘蛛の巣のこぼれ残りたるに、
語句 | 意味 |
透垣 | 名詞(竹で作った囲い) |
の | 格助詞 |
羅文、 | 名詞(透垣の上部に作られた飾り模様) |
軒 | 名詞(屋根の下の方で建物の外に出ている部分) |
の | 格助詞 |
上 | 名詞 |
など | 副助詞 |
は | 係助詞 |
かい | カ行四段活用動詞「かく」(かける)連用形「かき」のイ音便 |
たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
蜘蛛の巣 | 名詞 |
の | 格助詞【主格】 |
こぼれ | ラ行下二段活用動詞「こぼる」(壊れる、破れる)連用形 |
残り | ラ行四段活用動詞「残る」連用形 |
たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
に、 | 格助詞 |
【訳】透垣の羅文や、軒の上などには、かけてある蜘蛛の巣が破れ残っているところに、
雨のかかりたるが、白き玉を貫きたるやうなるこそ、いみじうあはれにをかしけれ。
語句 | 意味 |
雨 | 名詞 |
の | 格助詞【主格】 |
かかり | ラ行四段活用動詞「かかる」(降りかかる)連用形 |
たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
が、 | 格助詞 |
白き | ク活用の形容詞「白し」連体形 |
玉 | 名詞 |
を | 格助詞 |
貫き | カ行四段活用動詞「貫く」連用形 |
たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
やう なる | 比況の助動詞「やうなり」連体形 |
こそ、 | 係助詞 ※結び:をかしけれ |
いみじう | シク活用の形容詞「いみじ」(程度がはなはだしい※良い場合も良くない場合にも用いる)連用形 |
あはれに | ナリ活用の形容動詞「あはれなり」(しみじみとした風情がある)連用形 |
をかしけれ。 | シク活用の形容詞「をかし」已然形【係り結び】 |
【訳】雨が降りかかっているのが、白い玉を(蜘蛛の巣で)貫いているようであるのは、とてもしみじみとし風情があって趣深い。
少し日たけぬれば、萩などの、いと重げなるに、露の落つるに、枝うち動きて、
語句 | 意味 |
少し | 副詞 |
日 | 名詞 |
たけ | カ行下二段活用動詞「たく」(高くなる)連用形 |
ぬれ | 完了の助動詞「ぬ」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
萩 | 名詞 |
など | 副助詞 |
の、 | 格助詞 |
いと | 副詞 |
重げなる | ナリ活用の形容動詞「重げなり」(重そうだ)連体形 |
に、 | 接続助詞 |
露 | 名詞(水滴) |
の | 格助詞【主格】 |
落つる | タ行上二段活用動詞「落つ」連体形 |
に、 | 接続助詞 |
枝 | 名詞 |
うち動き | カ行四段活用動詞「うち動く」(ちょっと動く)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
【訳】少し日が高くなると、萩(の枝)などが、とても重そうであるのに、水滴が落ちると(萩の)枝がちょっと動いて、
人も手触れぬに、ふと上ざまへ上がりたるも、いみじうをかし。
語句 | 意味 |
人 | 名詞 |
も | 係助詞 |
手 | 名詞 |
触れ | ラ行下二段活用動詞「触フる」(ふれる)未然形 |
ぬ | 打消の助動詞「ず」連体形 |
に、 | 接続助詞 |
ふと | 副詞(不意に) |
上ざま | 名詞(上の方) |
へ | 格助詞 |
上がり | ラ行四段活用動詞「上がる」連用形 |
たる | 完了の助動詞「たり」連体形 |
も、 | 係助詞 |
いみじう | シク活用の形容詞「いみじ」連用形(程度がはなはだしい)「いみじく」のウ音便 |
をかし。 | シク活用の形容詞「をかし」終止形 |
【訳】人も手を触れないのに、不意に上の方に上がったのも、とても趣がある。
と言ひたることどもの、人の心には、つゆをかしからじと思ふこそ、またをかしけれ。
語句 | 意味 |
と | 格助詞 |
言ひ | ハ行四段活用動詞「言ふ」連用形 |
たる | 完了の助動詞「たり」連体形 |
ことども | 名詞「こと」+接尾語「ども(体言について同類のものが複数であることを表す)」 |
の、 | 格助詞 |
人 | 名詞(他の人) |
の | 格助詞 |
心 | 名詞 |
に | 格助詞 |
は、 | 係助詞 |
つゆ | 副詞(少しも) |
をかしから | シク活用の形容詞「をかし」未然形 |
じ | 打消推量の助動詞「じ」終止形 |
と | 格助詞 |
思ふ | ハ行四段活用動詞「思ふ」連体形 |
こそ、 | 係助詞【強調】 ※結び:をかしけれ |
また | 副詞(やはり) |
をかしけれ。 | シク活用の形容詞「をかし」(おもしろい)已然形【係り結び】 |
【訳】と(私が)言ったことなどは、他の人の心には、少しもおもしろくないのだろうと(私が心の中で)思うのが、やはりおもしろい。
副詞の「つゆ」に「露」(はかないものの象徴)が掛けられています。
「他の人は面白くないかもしれないけど、私には面白いと感じるんだ」という、自分の感覚を大切にしている印象をうけます。
でもこれまでの作品から考えると、「みんなこれの面白さがわからないでしょ!私は気付いちゃうけどね」と言っているようにも感じられませんか?
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は枕草子より「九月ばかり」を解説しました。
作者が「をかし」と感じるものが挙げられていました。
自分の感覚を大切にし、「をかし」と感じるものを述べていました。
それを「こういうことに気付ける私ってすごいでしょ」というマウントに聞こえるかどうかは、あなた次第…!?
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