宇治拾遺物語「児のそら寝」現代語訳・解説 児はどうして笑われたの?

古文

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今回は宇治拾遺物語から「児のそら寝」について現代語訳・解説をしていきます。
このお話はある宵、僧たちがぼたもちを作ろうと話しているのを聞いた児が、寝たふりをしてできあがりを待っていました。
いざできあがって僧に起こされた児は、すぐに返事をせずにもう一度呼ばれるのを待ちます。
しかし僧たちは児を起こすことをやめて、自分たちだけでぼたもちを食べ始めます。
すると児が「はい」と返事をしたので、僧たちは大笑いしたというお話です。

・児は何を期待して寝たふりをしたのか?
・児はなぜ1回で返事をしなかったのか?
・児はなぜ僧たちに大笑いされた?
・児の寝たふりはバレていたのか?

以上の内容に注目して本文を見ていきたいと思います。

「児のそら寝」現代語訳・解説

では早速、内容を見ていきましょう。
先ほどのチェック項目もおさえながら解説をしていきますので、内容を理解していきましょう。

本文と現代語訳(解説つき)

以下本文と現代語訳、そして解説となります。

本文(漢字のふりがなは現代仮名遣いで表記)
現代語訳
※青…単語、文法
※赤…敬語など解説
これもいまむかし比叡ひえやまちごありけり
これも今は昔のことだが、比叡山延暦寺に児がいた。
※けり…過去を表す助動詞「けり」の終止形

「児」という語について

①赤ん坊、幼児、子ども

②寺院などに学問などを習得するために預けられていた少年

③神社や寺院の祭礼などの行列に加わる児童

 

ここでは②の意味で用いられています。

ちなみに枕草子の「うつくしきもの」では「瓜にかきたる児の顔」「頭は尼そぎなる児」などという表現がありますが、これは①の意味で用いられています。

 

 

「今は昔」というのは昔話の語り出しの、お決まりのパターンです。
文末は「けり」という過去を表す助動詞になっていることも、
合わせておさえておきましょう。

そうたち、よのつれづれに、「いざ、かいもちせむ。」と言けるを、
このちごこころよせにきけり。
僧たちが、宵の退屈さに、「さあ、ぼたもちを作ろう。」と言ったのを、この児は期待して聞いた。
※よひ(宵)…日が暮れて間もない頃。または日が暮れてから、夜中までの間。

「よひ」って真夜中だと思ってました。
夜中にぼたもちを作るなんて、どんな状況だろうと思いました。

日が暮れて、大人たちが寝るまでの退屈しのぎにぼたもちを作ったということですね。

かいもちひ せ むを品詞分解
※かいもちひ…おはぎやぼたもちのたぐい。ここではぼたもち。
※せ…サ行変格活用動詞「す」の未然形
※む…意志の助動詞「む」の終止形

直訳すると「ぼたもちしよう」となります。
意訳すると「ぼたもちを作ろう」とできますね。

児が「心よせ」にしていたのは、自分もぼたもちが食べられることですね。

そうですね。
ここでは「一緒に作りたい」のではなく「できあがったぼたもちを食べたい」のですね。

さりとて、しいださむちてざらむも、わろかりなむおもて、
だからと言って、作り上がるのを待って寝ないのも、きっとみっともないだろうと思って、
しいださ むを品詞分解
※しいださ…作り出す、作り上げる
※む…婉曲の助動詞「む」の連体形

直訳すると
「作り上げるようなのを」となります。
日本語として不自然なので婉曲にあたる「ような」の部分は省略可能です。

 

寝 ざら むを品詞分解
…下二段活用動詞「」の未然形
※ざら…打消の助動詞「ず」の未然形
※む…仮定の助動詞「む」の連体形

直訳すると
「寝ないとしたらそのようなのも」となります。
これも省略して「寝ないのも」とすることが可能です。

わろかり な むを品詞分解
※わろかり…ク活用の形容詞「わろし」(良くない)の連用形
※な…強調の助動詞「ぬ」(きっと~)の未然形
※む…推量の助動詞「む」の終止形

「わろし」は「悪い」ではない
わろし(良くない) < し (悪い)
かたかたにりて、たるよしにて、いでくるをちけるに、すでにしいだしたるさまにて、ひしめきあひたり。
(部屋の)片隅に寄って、寝ているふりで、(ぼたもちが)できあがるのを待っていると、もう出来上がった様子で、僧たちが集まって騒ぎ立てている。
寝 たる よし を品詞分解
…下二段活用動詞「」の連用形
※たる…存続の助動詞「たり」の連体形
※よし…名詞(そぶり、様子、ふり)

「寝たるよし」で「寝ているふり」と訳し、
「そら寝」をしているのと同様の意味だとわかります。

次は会話文を除くと、ずいぶん長い一文ですね。

そうですね、細かく区切ってみていきましょう。

このちごさだめておどろかさむずらむたるに、
この児は、きっと(僧たちが自分のことを)起こすだろうと待っていたところ、

※さだめて…副詞(きっと、必ず)

おどろかさ むず らむ を品詞分解
※おどろかさ…サ行四段活用動詞「おどろかす」(起こす、目を覚まさせる)の未然形
※むず…推量の助動詞「むず」の終止形
※らむ…現在推量(今頃~だろう)の助動詞「らむ」の終止形

 

そうの、「ものもうしさぶらはおどろかせたま。」とを、うれしとはおもども、
僧が、「もしもし。目をお覚ましなさいませ。」と言うのを、(児は)うれしいとは思ったが、
もの 申し さぶらは む を品詞分解
※もの…名詞(もの)
※申し…四段活用動詞「申す」の連用形
※さぶらは…補助動詞「さぶらふ」の未然形
 丁寧の意を表す(僧たち→児への敬意)
※む…意志の助動詞「む」の終止形

直訳すると「ものを申し上げましょう」となります。
ここでは丁寧に呼びかける際の慣用表現「もしもし」として覚えてましょう。

おどろか せ たまへ を品詞分解
※おどろか…カ行四段活用動詞「おどろく」(目を覚ます)の未然形
※せ…尊敬の助動詞「す」の連用形
※たまへ…尊敬の補助動詞「たまふ」命令形
 いずれも尊敬の意を表す(僧たち→児への敬意)

僧たちが児に対して敬語を使っているのはなぜですか?

児とは?

平安時代「貴族が学問や行事の見習いのために寺院に預けた子ども」を指していた。
または観音菩薩の化身として扱われていたとも言われている。

つまり、良いところのお坊ちゃんをお預かりしているので、僧たちは児に対して敬語を使っていると考えられます。
いずれにしても僧たちにとって児は「尊い存在として扱う相手」でした。

ただ一度いちどいらも、待ちけるかともぞ思とて、いまひとこばれて、いらと、ねんたるほどに、
すぐ一度で返事をするのも、(起こされるのを)待っていたかと(僧たちが)思っては困ると考え、もう一度呼ばれて、返事をしようと、じっとこらえて寝ているうちに、
※いらへむ…下二段活用動詞「いらふ」(答える、返事をする)
※もぞ思ふ…係り結び 危惧(~しては大変だ。~しては困る)
※念じ…サ行変格活用動詞「念ず」(我慢する、じっとこらえる)の連用形

この児の考えていることをどう思いますか?

ぼたもちの完成を待ちわびていて、すぐにでも食べたいだろうに、1回で返事をしないのは、子どもらしくないと思いました。
「待っていたと思われるのが良くない」と言うのも、児のプライドのようなものを感じました。

ここで先ほどの「児=良いとこの坊ちゃん」というのがポイントになってきます。

僧たちから敬語を使われ、尊い者としての扱いを受ける一方、
児もその扱いにふさわしいような、優雅で高貴な振る舞いをしようという気持ちを持っているんですね。

だから自分から「ぼたもちできた?食べたいよ!」なんて言うことはもちろん、それを寝たふりをして待っているというのもみっともないことだと考えるんですね。

「できました。どうぞお召し上がりください。」と言われて、
「そうか、そういうなら食べてみようか」という余裕のある対応が望ましいと思ったのでしょう。

「や、こしたてまつりそさなき人は寝入ねいたまひにけり。」とのしければ、

あなわびしと思ひて、いま一度いちどこせかしおもけば、

「おい、お起こし申し上げるな。幼い人は寝入りなさってしまった。」と言う声がしたので、
ああ困ったことだと思って、もう一度起こしてくれよと思い寝て聞いていると、
な 起こし たてまつり そ を品詞分解
※な~そ…副詞「な」~終助詞「そ」 禁止(~するな)
※起こし…サ行四段活用動詞「起こす」(目を覚まさせる)の連用形
※たてまつり…補助動詞「たてまつる」の連用形
 謙譲語(僧たち→児への敬意)

※たまひ…補助動詞「たまふ」の連用形
 尊敬語(僧たち→児への敬意)

※あな…ああ。あら。まあ。
※わびし…困ったことだ。(失望、落胆、困惑の気持ち)
※かし…念押しの終助詞(~よ。)

児の思う通りにいかなかったみたいですね…

そうですね。「あなわびし」と嘆き、「いま一度起こせかし」と願います。
この「あな」は喜怒哀楽どの感情に対しても使うことができます。

「あな」「かし」から児の切なる思いが感じられます。
「頼むからもう一回起こしに来て!!」と言った感じでしょうか。

ひしひしとただ食ふくうおとのしければ、ずちなくて無期むごののちに、

「えい。」といらたりければ、そうたちわらことかぎりなし。

むしゃむしゃとひたすらに食べる音がしたので、どうしようもなくて、「はい。」と返事をしたので、僧たちは笑うことがこの上ない。

※ひしひしと…副詞(むしゃむしゃと)
※ただ…副詞(ひたすら~する)

「食ひに食ふ」は直訳すると「食べに食べる」です。
これは現代でも「笑いに笑った」「走りに走った」などと使います。
強調するときに使われる表現です。
ここでは「ただ」という「ひたすら~する」という語も使われているので、

「ひたすら食べる音がした」とシンプルに現代語訳してOKです。

児は「僧たちがぼたもちを食べ尽くしてしまうのではないか」と不安になってしまう状況だったことは間違いないですね!

※ずちなくて…ク活用 形容詞「ずちなし」(どうしようもない)の連用形
※無期…その状態が長く続いたこと。長時間がたったこと。

結局、我慢できずに自分から出て行っちゃいましたね。

そうですね。
立派な態度でぼたもちを待とうと思ったものの、思うようにいかず、
最終的には食べたい気持ちが勝って、返事をしました。

僧たちはどうして大爆笑したんですか?

一人の僧が児に「おどろかせたまへ。」と声をかけてしばらくたってから、
児が返事をしたことが、笑ったポイントです。
同時に児が寝たふりをしていたこともバレてしまいます。
ここでは「子どもの癖にかっこつけて我慢しようとするなんて」と馬鹿にする意味ではなく、「大人びた態度をとろうとしたけど、ぼたもち食べたさに返事をする児の子供らしさがかわいらしい」という状況ではないでしょうか。

児の寝たふりって僧たちにバレてたんですかね?

本文は児の視点から書かれているので、
僧たちが知っていたかは明確ではありません。
しかし僧たちが児の寝たふりに気付いていて、
「もう起こすな」と言って、児をからかっていたとしたらどうでしょう。
その後、児が「はい」と答えたら、
「キター!!」って大爆笑してしまう僧たちの気持ちも理解できます。

まとめ

いかがでしたでしょうか?
今回は宇治拾遺物語から「児のそら寝」を解説しました。
この作品は古文の入門としてよく取り扱われるので、
いつもよりも丁寧に読み方や語句についても説明しました。

・児は何を期待して寝たふりをしたのか?
→僧たちが作ったぼたもちができあがったら食べること
・児はなぜ1回で返事をしなかったのか?
→すぐに返事をするのは寝たふりをして待っていたと思われる、みっともないことだと考え、大人びた振る舞いをしようとしたから。・児はなぜ僧たちに大笑いされた?
→大人びた振る舞いをしようと我慢していた児が、僧に声をかけられてしばらくたった後に返事をしたから。
それらを僧たちは、子どもらしくてかわいらしいと思ったのではないか。
・児の寝たふりはバレていたのか?
→明言はないが、その可能性も大いにある。
古文は一文が長く読みにくかったり、
文法や単語など覚えることが多く苦手意識を持つ方も多いかもしれません。
一度あらすじを読み、ざっくりと内容をおさえてから細部にとりかかると意味が覚えやすいです。
また、余力ができたらぜひ「こんな読み方もできるよね」と味わってみて欲しいと思います。
この記事を書いた人
あずき

40代、一児の母
通信制高校の国語教員

生徒が「呪文にしか見えない」という古文・漢文に、少しでも興味を持ってもらえたらと作品についてとことん調べています。

自分の生徒には直接伝えられるけど、
聞きたくても聞けない…などと困っている方にも届けたくて、ブログを始めました。

≫詳しいプロフィールはこちら

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