平家物語「壇ノ浦の合戦(能登殿の最期)①」品詞分解・現代語訳・解説

古文

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平家物語より「壇ノ浦の合戦(能登殿のとどのの最期)①」について解説をしていきます。

平家物語とは、
ジャンルは、軍記物語で鎌倉時代前期に成立した文学作品です。
琵琶法師による語りで知られています。

大まかには事実に基づいて書かれていますが、単なる歴史物語ではありません。
戦に負けた平家一門については人間らしいすばらしさ、源義経の武勇伝など、物語として人々の共感を呼びました。

今回のお話は、平家物語の中でも有名で、一番心を動かされる場面です。
平家滅亡となる壇ノ浦の合戦です。
この戦いで、源氏と平氏が海の上で戦いました。
平氏は水上での戦いが得意で、最初は平氏が優位だったものの、潮の流れの変化とともに源氏に流れがいきます。
味方が源氏に寝返ったこともあり、平家の重要人物が入水し命を絶っていく中、一人で戦いを続けたのが今回の主役である平教経(能登殿)でした。

この記事では

・本文(読み仮名付き)
・品詞分解と語句解説
・現代語訳
・本文の解説

以上の内容を順番にお話していきます。

平家物語「壇ノ浦の合戦(能登殿の最期)①」品詞分解・現代語訳・解説

本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳

およそ能登守のとのかみ教経のりつね矢先やさきまわものこそなかりけれ。

語句 意味
およそ 副詞+打消(全く~ない)
能登守 名詞(現在の石川県北部を治める役職)
教経 名詞(人名。平清盛たいらのきよもりの弟である教盛のりもりの次男。当時25歳。)
格助詞
矢先 名詞(矢が飛ぶその先)
格助詞
回る ラ行四段活用動詞「回る」連体形
名詞
こそ 係助詞/結び…けれ
なかり ク活用の形容詞「なし」連用形
けれ。 過去の助動詞「けり」已然形【係り結び】

【訳】全く能登守教経の正面に立ちはだかる者はいなかった。

 「矢先に回る者」とは「矢の正面に立ちはだかる者」です。
ここでは、面と向かって能登殿と戦おうとする者ということを指します。

教経は平氏の中で最強と言われ、都で一番の弓の達人として有名だった。

 

だねのあるほどくして、今日きょう最後さいごとやおもれけん、

語句 意味
矢だね 名詞(手持ちの矢)
格助詞
ある ラ行変格活用動詞「あり」連体形
ほど 名詞(~だけ)
射尽くし サ行四段活用動詞「射尽くす」連用形
て、 接続助詞
今日 名詞
格助詞
最後 名詞
格助詞
係助詞【疑問】
思は ハ行四段活用動詞「思ふ」未然形
尊敬の助動詞「る」連用形【尊敬】作者→能登殿への敬意
けん、 過去推量の助動詞「けん」連体形

【訳】手持ちの矢をあるだけ射尽くして、今日を最後と思いなさったのだろうか、

 

 手元にある矢を全て射尽くしてしまい、覚悟をしたということですね。

 

赤地あかじにしき直垂ひたたれに、唐綾縅からあやおどしよろいて、

語句 意味
赤地 名詞(赤い織物)
格助詞
名詞
格助詞
直垂 名詞(鎧直垂のこと)
に、 格助詞
唐綾縅 名詞(中国から伝わった綾絹から作ったもの)
格助詞
名詞
カ行上一段活用動詞「着る」連用形
て、 接続助詞

【訳】赤地の錦の鎧直垂に、唐綾縅の鎧を着て、

これは、能登殿が軍の大将だとすぐわかる出で立ちであることを表現しています。

真っ赤で、きらびやかな目立つ格好ですもんね。

別の場所での戦いでは、この格好ではありませんでした。

能登殿にとってこれが最後の戦であり、大切なものになるという覚悟が感じられます。

大将を見つけた源氏軍は、手柄を挙げるために能登殿のもとに集まって来るんですよね。

そうです。
そんな源氏軍に対して、能登殿はどのように応戦したのか続きを読みましょう。

いかものづくりの大太刀おおだちき、白柄しらえ大長刀おおなぎなたさやをはづし、

語句 意味
いかものづくり 名詞(外装がいかめしく立派に作られてあること)
格助詞
大太刀 名詞(大きくて長く、反りのある刀のこと)
抜き、 カ行四段活用動詞「抜く」連用形
白柄 名詞(白木のつか
格助詞
大長刀 名詞(長い柄に長い刃をつけて、なぎ払う武器)
格助詞
名詞(刀をおさめるもの)
格助詞
はづし、 サ行四段活用動詞「はづす」(外す)連用形

【訳】外側がいかめしく立派に作られた大太刀を抜き、白木の柄の大長刀の鞘を外し、

 

左右そう持つもってなぎまわたもに、おもてするものぞなき。

語句 意味
左右 名詞
格助詞
持つ タ行四段活用動詞「持つ」連用形「持ち」の促音便
接続助詞
なぎ回り ラ行四段活用動詞「なぎ回る」(なぎ倒して回る)連用形
給ふ ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連体形【尊敬】作者→能登殿への敬意
に、 格助詞
名詞(正面)
格助詞
合はする サ行下二段活用動詞「合はす」(合わせる)連体形
名詞
係助詞  結び…なき
なき。 ク活用の形容詞「なし」連体形【係り結び】

【訳】左右(の手)に(大太刀と大長刀を)持ってなぎ倒して回りなさると、正面から立ち向かう者はいない。

 「面を合はす」とは「正面から立ち向かう」という意味です。

自分を倒そうとたくさんの人が斬りかかって来るのに対して、自分は両手に大太刀と長刀ともって、なぎ倒していったということですね。
ワイルドですね~。

 

おおくのものどもたれにけり。

語句 意味
多く 副詞
格助詞
者ども 名詞
討た タ行四段活用動詞「討つ」未然形
受身の助動詞「る」連用形
完了の助動詞「ぬ」連用形
けり。 過去の助動詞「けり」終止形

【訳】多くの者たちが討たれてしまった。

本来教経は、こんな無謀な戦いをする人物ではありません。
自分の部下が討たれたときに、打ちひしがれ、撤退したこともあります。

明らかに平氏が負けているのに、無茶なことをしているのは、自分にとってだけでなく、平氏にとってこの戦いが最後になることを強く印象づけているのです。

 

新中納言しんじゅうなごん使者ししゃてて、「能登殿のとどの、いつみつくたまそ。さりとてよきかたきか。」

語句 意味
新中納言、 名詞(人名。平知盛とももり。清盛の四男。教経より8歳ほど年上。この戦いの指揮官の役割を果たす。)
使者 名詞(使いの者)
格助詞
立て タ行下二段活用動詞「立つ」(出す)連用形
て、 接続助詞
「能登殿、 名詞(人名。教経のことを指す)
いたう ク活用の形容詞「いたし」+打消(それほど)の連用形「いたく」のウ音便
名詞
副詞
作り ラ行四段活用動詞「作る」連用形
給ひ 尊敬の補助動詞「給ふ」連用形【尊敬】新中納言→能登殿への敬意
そ。 終助詞【禁止】
さりとて 接続詞(そうかといって)
よき ク活用の形容詞「よし」連体形
名詞
か。」 係助詞【反語】

【訳】新中納言が、使いの者を出して、「能登殿、それほど罪を作りなさるな。討ち取るのにふさわしい敵なのか。いやそうではない。」

な~そ:副詞の呼応【禁止】~するな、~しないでくれ

当時は仏教の教えが浸透している時代です。
武士とは言え、無駄な殺生は罪作りだと言っているのです。

新中納言も能登殿と同じように、平氏の敗北を悟っているのですね。

しかし新中納言が能登殿と異なる点は、負けが確定しているのだから、無駄に人の命を奪うことはするべきではないとと言っているところです。

新中納言…負けを静かに受け入れよう
能登殿…負けが分かっていたとしても、最後まで戦うのが武士というものだ!

 

とのたまければ、さては大将軍たいしょうぐんめごさんなれとこころて、

語句 意味
格助詞
のたまひ ハ行四段活用動詞「のたまふ」(おっしゃる)連用形【尊敬】作者→新中納言への敬意
けれ 過去の助動詞「けり」已然形
ば、 接続助詞
さては 接続詞(それでは)
大将軍 名詞(総大将)
格助詞
組め マ行四段活用動詞「組む」(組み合って討ち取る)命令形
ごさんなれ 連語(~なのだな)
格助詞
心得 ア行下二段活用動詞「心得ウ」(理解する、さとる)連用形
て、 接続助詞

【訳】とおっしゃったので、それでは(私が討ち取るにふさわしい)敵軍の総大将と組み合って討ち取れと言うことなのだなと理解して、

 

組めごさんなれ…「組めにとこそあるなれ」の縮まった形

 

打物うちもの茎短くきみじか取つとって、源氏げんじふねうつうつり、めきさけんでたたか

語句 意味
打物 名詞(打ち合って戦う武器)
茎短に ナリ活用の形容動詞「茎短なり」(短めに持つ)連用形
取つ ラ行四段活用動詞「取る」(持つ)連用形「取り」の促音便
て、 接続助詞
源氏 名詞
格助詞
名詞
格助詞
乗り移り乗り移り、 ラ行四段活用動詞「乗り移る」連用形を繰り返したもの
をめき叫ん バ行四段活用動詞「をめき叫ぶ」(大声で叫ぶ)連用形「をめき叫び」の撥音便
接続助詞
攻め戦ふ。 ハ行四段活用動詞「攻め戦ふ」終止形

【訳】武器を短めに持って、源氏の舟に次々と乗り移って、大声で避けんで攻め戦う。

 

判官ほうがんたまねば、もののよき武者むしゃをば判官ほうがんかとをかけて、まわる。

語句 意味
判官 名詞(源義経よしつねを指す。頼朝の弟。この戦いの源氏側の総大将)
格助詞
見知り ラ行四段活用動詞「見知る」(見てわかる)連用形
給は ハ行四段活用補助動詞「給ふ」未然形【尊敬】作者→能登殿に対する敬意
打消の助動詞「ぬ」已然形
ば、 接続助詞
物の具 名詞(鎧やかぶとなどの武具を指す)
格助詞
よき ク活用形容詞「よし」連体形
武者 名詞
格助詞
係助詞
判官 名詞
係助詞【疑問】
格助詞
名詞
書かう女子
かけ カ行下二段活用動詞「かく」(連用形
て、 接続助詞
馳せ回る。 ラ行四段活用動詞「馳せ回る」(かけまわる、走りまわる)終止形

【訳】義経の顔を見てもお分かりにならないので、武具の良い武士を義経かと思って(舟から舟へと)走り回る。

 

判官ほうがんさきこころて、おもてうにはしけれども、とかくたが能登殿のとどのにはまれず。

語句 意味
判官 名詞
係助詞
先に 副詞(すでに)
心得 ア行下二段活用動詞「心得」(理解する)連用形
て、 接続助詞
名詞(前、正面)
格助詞
立つ タ行四段活用動詞「立つ」連体形
やうに 比況の助動詞「やうなり」連用形
係助詞
サ変格活用動詞「す」連用形
けれ 過去の助動詞「けり」已然形
ども、 接続助詞
とかく 副詞(あれやこれやと)
違ひ ハ行四段活用動詞「違ふ」(行き違う)連用形
接続助詞
能登殿 名詞
格助詞
係助詞
組ま マ行四段活用動詞「組む」(組み合って討ち取る)未然形
尊敬の助動詞「る」未然形(作者→判官への敬意)
ず。 打消の助動詞「ず」終止形

【訳】判官もすでに(能登殿が組み合おうとしていることを)理解して、正面にたつようにはしたけれども、あれやこれやと行き違って能登殿とは組まれない。

 

されどもいかがしたりけん、判官ほうがんふねて、あやとをかけてんでかかるに、

語句 意味
されども 接続詞(しかし)
いかが 副詞(どうして)
サ行変格活用動詞「す」連用形
たり 完了の助動詞「たり」連用形
けん、 過去推量の助動詞「けん」連体形
判官 名詞
格助詞
名詞
格助詞
乗り当たつ ラ行四段活用動詞「乗り当たる」(直面する、接触する)連用形「乗り当たり」の促音便
て、 接続助詞
あはや 感動詞(あぁと驚いたり緊張したときに発する)
格助詞
名詞
格助詞
かけ カ行下二段活用動詞「かく」(目標にする)連用形
接続助詞
飛ん バ行四段活用動詞「飛ぶ」連用形「飛び」の撥音便
接続助詞
かかる ラ行四段活用動詞「かかる」連体形
に、 接続助詞

【訳】しかしどうしたことだったのだろうか、判官の舟に直面して、「あぁっ!」と(判官を)目がけて飛びかかると、

 

お~、すれ違っていた二人がばったり遭遇!
これはドキドキする場面ですね。

 

判官ほうがんかなじとやおもれけん、長刀なぎなたわきにかいはさみ、味方みかたふね二丈にじょうばかりのいたりけるに、ゆらりとたまぬ。

語句 意味
判官 名詞
かなは ハ行四段活動揺し「かなふ」(対抗できる、敵う)未然形
打消推量の助動詞「じ」終止形
格助詞
係助詞【疑問】
思は ハ行四段活用動詞「思ふ」未然形
尊敬の助動詞「る」連用形(作者→判官への敬意)
けん、 過去推量の助動詞「けん」連体形
長刀 名詞
名詞
格助詞
かい挟み、 マ行四段活用動詞「かい挟む」(抱えるように挟む)連用形
味方 名詞
格助詞
名詞
格助詞
二丈 名詞(長さの単位、訳6m)
ばかり 副助詞(ほど)
のい カ行四段活用動詞「のく」(離れる)連用形「のき」のイ音便
たり 存続の助動詞「たり」連用形
ける 過去の助動詞「けり」連体形
に、 格助詞
ゆらりと 副詞(ひらりと)
飛び乗り ラ行四段活用動詞「飛び乗る」連用形
給ひ ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連用形
ぬ。 完了の助動詞「ぬ」終止形

【訳】判官は(能登殿に)かなわないと思われたのだろうか、長刀を脇に抱えるようにして挟んで、味方の舟で6mほど離れていたものに、ひらりと飛び乗りなさった。

 

しかしここは「牛若丸」と言われる身軽な義経が、ひらりとかわしました。

義経の八艘はっそう飛びと言われる必殺技ですね。

 

能登殿のとどの早業はやわざおとられたりけん、やがてつづいてもたまず。

語句 意味
能登殿 名詞
係助詞
早業 名詞(跳躍力を使った武芸のこと)
係助詞
劣ら ラ行四段活用動詞「劣る」未然形
尊敬の助動詞「る」連用形(作者→能登殿への敬意)
たり 存続の助動詞「たり」連用形
けん、 過去推量の助動詞「けん」連体形
やがて 副詞(すぐに)
続い カ行四段活用動詞「続く」連用形「続き」連用形
接続助詞
係助詞
飛び バ行四段活用動詞「飛ぶ」連用形
給は ハ行四段活用補助動詞「給ふ」未然形【尊敬】作者→能登殿への敬意
ず。 打消の助動詞「ず」終止形

【訳】能登殿は早業では劣っていらっしゃったのだろうか、すぐには続いて飛びなさらない。

 

能登殿はパワー勝負のタイプだから、すばやさは義経に劣ってしまうんですね。

惜しくも能登殿は、義経を打つことができませんでした。

 

義経に逃げられてしまった能登殿。
このあといよいよ「最期」の場面となります。

 

続き:平家物語「壇ノ浦の合戦(能登殿の最期)②」今はかうと思はれければ~

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回は平家物語より「壇ノ浦の戦い(能登殿の最期)①」を解説しました。

平家の大将である能登殿が、平家の敗北を悟り、武士として勇ましく戦う姿が描かれている場面でした。

新中納言の冷静さとは対照的に描かれていましたね。

続きも読んでみてください。

続き:平家物語「壇ノ浦の合戦(能登殿の最期)②」今はかうと思はれければ~

この記事を書いた人
あずき

40代、一児の母
通信制高校の国語教員

生徒が「呪文にしか見えない」という古文・漢文に、少しでも興味を持ってもらえたらと作品についてとことん調べています。

自分の生徒には直接伝えられるけど、
聞きたくても聞けない…などと困っている方にも届けたくて、ブログを始めました。

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