はじめに
引き続き『枕草子』の「すさまじきもの」の解説の続きをします。
「すさまじ」とは「興ざめだ」という意味です。
興ざめとは「興=楽しげな気分や盛り上がり」が「さめて」しまうことです。
清少納言は様々な観点から、「興ざめなもの」を語っています。
今回解説する部分では、また少し違ったニュアンスの「すさまじきもの」が語られています。
清少納言の着眼点を、味わっていきましょう。
成立:平安時代中期
作者:清少納言
ジャンル:随筆
内容:宮仕えをしていた時の宮中での出来事や、人間模様、季節の自然などを鋭い感性で描いている。「をかし」の文学と言われる。
枕草子「すさまじきもの②」現代語訳・解説

験者の、物の怪調ずとて、いみじうしたり顔に独鈷や数珠など持たせ、蝉の声しぼり出だしてよみ居たれど、
修験者が、物の怪を調伏すると言って、ひどく得意顔で独鈷や数珠などを(よりましに)持たせ、蝉のような声をしぼりだして経を読んでいるけれども、
| 験者 |
名詞(修験者のこと。加持祈祷によって物の怪を調伏したり、病気を治す)
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| の、 | 格助詞 |
| 物の怪 |
名詞(怨霊、死霊、生霊などのこと。妖怪を指すことも。人にとりついて病気にさせたり、死に至らしめることもある)
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| 調ず |
サ行変格活用動詞「調ず」(調伏する…力でねじ伏せて従わせること)終止形
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| とて、 | 格助詞 |
| いみじう |
シク活用の形容詞「いみじ」(ひどい)連用形「いみじく」のウ音便
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| したり顔に |
ナリ活用の形容動詞「したり顔なり」(得意顔だ)連用形
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| 独鈷 |
名詞(仏教の流派である密教の法具。煩悩を打破するもの)
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| や | 係助詞 |
| 数珠 |
名詞(加持祈祷の際に数を数えたり、霊力を高めたりするための道具)
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| など | 副助詞 |
| 持た | タ行四段活用動詞「持つ」未然形 |
| せ、 | 使役の助動詞「す」連用形 |
| 蝉 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| 声 | 名詞 |
| しぼり出だし |
サ行四段活用動詞「しぼり出だす」(しぼり出す)連用形
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| て | 接続助詞 |
| よみ居 |
ワ行上一段活用動詞「よみ居る」(経を読んでいる)連用形
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| たれ | 存続の助動詞「たり」已然形 |
| ど、 | 接続助詞 |

誰が何に「独鈷や数珠など持たせ」たのですか?

験者(修験者)が「よりまし」に持たせたのです。
「よりまし」は、加持祈祷の際に護法童子を乗り移らせる存在のことを言います。物の怪を一時的に乗り移らせることもありました。女性や子どもであったそうです。
いささかさりげもなく、護法もつかねば、
全く物の怪が退散する気配もなく、御法童子もよりましに取りつかないので、
| いささか | 副詞+「なし」(全く~ない) |
| 去りげ | 名詞(退散する気配 ※ここでは病人にとりついた物の怪が出ていく気配のこと) |
| も | 係助詞 |
| なく、 | ク活用の形容詞「なし」連用形 |
| 護法 |
名詞(護法童子のこと。修験者や高徳の僧に使われる鬼神。子どもの姿をしていることから「童子」と呼ばれる)
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| も | 係助詞 |
| つか |
カ行四段活用動詞「つく」(取りつく ※ここではよりましに取りつくことを指す)未然形
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| ね | 打消の助動詞「ず」已然形 |
| ば、 | 接続助詞 |
集まり居念じたるに、男も女もあやしと思ふに、
集まり座って祈っていたが、男も女もおかしいと思っていると、
| 集まり居 |
ワ行上一段活用動詞「集まり居る」(集まって座る)連用形
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| 念じ |
サ行変格活用動詞「念ず」(祈る)連用形
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| たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
| に、 | 接続助詞 |
| 男 | 名詞(名詞) |
| も | 係助詞 |
| 女 | 名詞(名詞) |
| も | 係助詞 |
| あやし |
シク活用の形容詞「あやし」(おかしい)終止形
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| と | 格助詞 |
| 思ふ | ハ行四段活用動詞「思ふ」 |
| に、 | 接続助詞 |

ここでは、病人の家族も集まって座り、祈っています。その家族たちが、状況が全く変わらないことを不審に思い始めた場面ですね。
時の変はるまでよみ困じて、「さらにつかず。立ちね。」とて、数珠取り返して、
(修験者は)所定の時間が過ぎるまで経を読み疲れ果てて、「いっこうに(護法童子がよりましに)取りつかない。立ちなさい。」と言って、(よりましから)数珠を取り返して、
| 時 | 名詞(刻限) |
| の | 格助詞 |
| 変はる |
ラ行四段活用動詞「変はる」(変わる ※ここでは、所定の時間が過ぎると解釈。しかし、「1刻=2時間程度」であることから、「2時間が経つまで」という解釈もあるようだ)連体形
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| まで | 副助詞 |
| よみ |
マ行四段活用動詞「よむ」(経を読む)連用形
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| 困じ |
サ行変格活用動詞「困ず」(疲れ果てる)連用形
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| て、 | 接続助詞 |
| 「さらに | 副詞+「ず」(いっこうに~ない) |
| つか |
カ行四段活用動詞「つく」(取りつく ※ここではよりましに取りつくことを指す)未然形
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| ず。 | 打消の助動詞「ず」終止形 |
| 立ち | タ行四段活用動詞「立つ」連用形 |
| ね。」 | 強意の助動詞「ぬ」命令形 |
| とて、 | 格助詞 |
| 数珠 | 名詞 |
| 取り返し | サ行四段活用動詞「取り返す」連用形 |
| て、 | 接続助詞 |

あらまあ…
得意顔で登場したのに、ずいぶんと投げやりな態度になっちゃいましたね
「あな、いと験なしや。」とうち言ひて、額より上ざまにさくり上げ、あくびおのれよりうちして、寄りふしぬる。
「ああ、全く効き目がないことよ。」とつぶやいて、ひたいから上の方に髪を撫で上げ、あくびを自分からちょっとして、寄りかかって横になってしまったこと(は興ざめである)。
| 「あな、 | 感動詞(ああ) |
| いと | 副詞(全く) |
| 験 | 名詞(効き目) |
| なし | シク活用の形容詞「なし」終止形 |
| や。」 | 【詠嘆】間投助詞(~よ) |
| と | 格助詞 |
| うち言ひ |
ハ行四段活用動詞「うち言ふ」(何気なく言う ※ここではボソッと言うと解釈)連用形
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| て、 | 接続助詞 |
| 額 | 名詞(ひたい) |
| より | 格助詞 |
| 上ざま | 名詞(上の方) |
| に | 格助詞 |
| さくり上げ、 |
ガ行下二段活用動詞「さくり上ぐ」(顔にかかった髪を下から撫で上げる)連用形
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| あくび | 名詞 |
| おのれ | 代名詞(自分) |
| より | 格助詞 |
| うちし |
サ行変格活用動詞「うちす」(ちょっとする)連用形
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| て、 | 接続助詞 |
| 寄りふし |
サ行四段活用動詞「寄りふす」(寄りかかって横になる)連用形
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| ぬる。 | 完了の助動詞「ぬ」連体形 |
いみじうねぶたしと思ふに、いとしもおぼえぬ人の押し起こして、せめてもの言ふこそいみじうすさまじけれ。
とても眠たいと思う時に、それほど思っていない人が揺り起こして、無理に話しかけてくるのは、非常に興ざめだ。
| いみじう |
シク活用の形容詞「いみじ」(非常に、とても)連用形「いみじく」ウ音便
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| ねぶたし |
ク活用の形容詞「ねぶたし」(眠たい)終止形
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| と | 格助詞 |
| 思ふ | ハ行四段活用動詞「思ふ」連体形 |
| に、 | 接続助詞 |
| いと | 副詞+打消(それほど~ない) |
| しも | 【強調】副助詞 |
| おぼえ |
ヤ行下二段活用動詞「おぼゆ」(思われる ※ここでは尊敬や愛情の思いがなんにもない人のことを「おぼえぬ人」と解釈)未然形
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| ぬ | 打消の助動詞「ず」連体形 |
| 人 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| 押し起こし |
サ行四段活用動詞「押し起こす」(揺り起こす、揺すったり押したりしておこす)連用形
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| て、 | 接続助詞 |
| せめて | 副詞(無理に) |
| もの | 名詞 ※「もの言ふ」…口をきく、話す |
| 言ふ | ハ行四段活用動詞「言ふ」連体形 |
| こそ | 係助詞 ※結び:すさまじけれ |
| いみじう |
シク活用の形容詞「いみじ」(非常に、とても)連用形「いみじく」のウ音便
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| すさまじけれ。 |
シク活用の形容詞「すさまじ」已然形【係り結び】
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今回紹介した「すさまじきもの」は、「期待外れ」+「思いやりや配慮のなさ」という共通点があるのよ。
まずは、修験者の言動はひどいでしょ!?自信満々にやって来たのに、効果もなく、心配する家族が目の前にいるってのにあきらめて寝ちゃうんだから…
良くなると思って頼んだのに…「わたくしの力不足で申し訳ありません」とか、家族に対する配慮があれば、私だって「すさまじき」なんて言わないわよ。
そして、「いとしもおぼえぬ人」がクッソ眠たいときにわざわざ起こしてきて話しかけてくること!
こっちの気持ちもおかまいなしで、自分のことだけのヤツなんて「いみじうすさまじけれ」なわけよ。
続き:除目に司得ぬ人の家~


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