古典作品を読んでいると、避けて通れないのが和歌です。
五・七・五・七・七の音で構成されるもので、現在は「短歌」と呼ばれています。
『万葉集』や『古今和歌集』といった和歌集に集められた和歌だけでなく、『伊勢物語』などの歌物語に登場する和歌は、物語を読み解く上でも必要不可欠です。
表現技法を理解して、より深く味わっていきましょう。
和歌の表現技法
枕詞(まくらことば)
2. 5音である
3. 基本的に現代語訳はしない
代表的な枕詞一覧
枕詞 | 導く語 | メモ | |
1 | 茜さす | 日・昼・紫・君 | 朝日が昇る時に東の空が赤くなる様子を、茜色と表したことに由来する。 |
2 | 秋津島 | 大和(日本のこと) | 秋津島…大和国の別称 |
3 | 足引きの | 山・峰 | 足引き…足を引きずって山などを登ること |
4 | 梓弓 | 引く・張る・射る・音 | 梓弓…梓の木で作られた弓。狩猟にも使われたが、神具の印象が強い。 |
5 | 新玉の | 年・月・日・春 | |
6 | 青丹よし | 奈良 | 奈良は青丹の産地だった |
7 | 石上 | 古・降る・振る | 石上…石上の布留一帯の地 |
8 | 石走る | 滝・垂水 | 岩の上を水が勢いよく流れる様子を表す。 |
9 | 空蝉の | 命・世・人・身・空し | 空蝉…蝉の抜け殻→儚いもの |
10 | 唐衣 | 着る・裁つ・袖 | 唐衣…唐風の衣服 |
11 | 草枕 | 旅・度・結ぶ・夕 | 草を結んで枕にする=野宿することを指す |
12 | 敷栲/白妙の | 床・枕・衣・袖・雲・雪 | 敷栲/白妙…白い布を指す |
13 | 垂乳根の | 母・親 | 垂乳根…「垂れた乳」や「満ち足りた母乳」という説がある |
14 | 千早振る | 神・氏・宇治 | ちはやぶ…猛々しい、荒々しい |
15 | 射干玉(ウバタマ/ムバタマ)の | 黒・闇・夜・夢・月 | 射干玉…ひおうぎの実を指す。その身は黒くて丸い。 |
16 | 久方の | 光・天・空・月・雨・雲 | 天に関する語にかかる。 理由については「日が射す方」という説、「久方/久堅」として、天を永久に確かなものとしたという説などがあるが、はっきりしていない。 |
17 | 若草の | 夫・妻・新 | 若草…新しく芽吹いた草→初々しさを連想することから、新婚夫婦の愛や新しい生活を表現するのに用いられる。 |
例として、『万葉集』から小野老の和歌を見ていきましょう。
青丹よし 奈良の都は 咲く花の にほふがごとく 今盛りなり
意味:奈良の都は、咲く花が美しく輝くように、今真っ盛りである
「青丹よし」が「奈良」の枕詞となっています。

ちなみにこの和歌は小野老が、奈良の都から大宰府(現在の福岡県に置かれた役所)に異動になり、歓迎会で詠んだ和歌です。
大宰府にいながら、奈良のすばらしさを詠んでいるので、奈良の都を離れて寂しく思う気持ちも込められていると考えられます。
序詞(じょことば)
2. 7音以上である
3. 特定の語はなく、作者が強調したい語のためにつける、飾りと言える。
4. 訳すときは「~のように」などとすると活かしやすい
例として、『拾遺和歌集』から柿本人麻呂の和歌を見てみましょう。
あしひきの(あしびきの) 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を 一人かも寝む
意味:山鳥の長く垂れ下がった尾のように、長い長い夜を一人で寝るのだろうかなぁ。
「あしひきの(あしびきの) 山鳥の尾の しだり尾の」が「ながながし」を導く序詞です。
ちなみに「あしひきの(あしびきの)」は、「山」を導く枕詞になっています。

この和歌で詠まれている「山鳥」のオスは、とても尾が長いのです。
秋の夜長を、「山鳥の尾のようになが~い」と例えています。
同時に、女性を想って一人寝る夜の寂しさを詠んでいます。
掛詞(かけことば)
花の色は 移りにけりな いたづらに 我が身世にふる ながめせしまに
意味:桜の花の色は色あせてしまったことよ、無駄に長雨が降る間に。そして私の美しさも衰えてしまったことよ、むなしく世間のことや恋愛で物思いにふけるあいだに。
この和歌の掛詞は、
「ふる」→「降る」「経る(時間が経過する)」
「ながめ」→「長雨」「眺め(物思いにふける)」
です。
また「花の色」という言葉には、「桜の花の色」「女性の若さや美しさ」という二つの意味が含まれています。
そして「世」という言葉は、「世間、世の中」「男女の仲」という二つの意味を持っています。

世界三大美人と言われている、小野小町。
多くの男性に思いを寄せられながらも、自分が思いを寄せた人と添い遂げることができませんでした。
色あせた桜に、自分を重ねて詠んでいます。
縁語(えんご)
2. 和歌にちりばめることで、統一感を持たせる効果がある
3. 連想ゲームのように余韻が広がる
例として、『新古今和歌集』から式子内親王の和歌を見ていきましょう。
玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば 忍ぶることの 弱りもぞする
意味:わたしの命よ、絶えるのならば絶えてしまえ。生きながらえていると、秘めていることができなくなるかもしれないのです。
「緒」とは、ここでは「魂と肉体をつなぐ糸」を意味しています。
それがはかない一本の糸で命をつないでいるというイメージから、「絶ゆ(命が尽きる)」「ながらへ(生き永らえる)」「弱り」が「緒」の縁語となっています。

「このまま生きていると、思いが募って秘密の恋を隠しておけないかもしれない。そうなるくらいなら、私の命は絶えてしまえ!」と言っているのです。
式子内親王は、神に仕える身でした。
本来、恋愛をしてはいけない立場でありながら、思いが抑えられなくなっている女性の激しい気持ちが詠まれています。
まとめ
いかがでしたか?
今回は、和歌の表現技法を解説しました。
短い音数の中に、さまざまな技法をちりばめた昔の人の技術を感じ取ることはできたでしょうか?
平安時代のモテ要素の一つに「和歌がうまいこと」が挙げられます。
その理由も、わかる気がしますね。
和歌を楽しみたい方は、こんな本も是非読んでみてください。
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