平家物語より「木曽の最期①義仲と兼平の別れ」について解説をしていきます。
平家物語とは、鎌倉時代前期に成立した文学作品です。
大まかには事実に基づいて書かれていますが、単なる歴史物語ではありません。
・戦に負けた平家一門の人間らしいすばらしさ
・源義経の武勇伝
など、物語として人々の共感を呼びました。
今回のお話は、現在の北陸地方にあたる木曽で挙兵した源義仲と、その家来の今井四郎とのやりとりの場面です。
大きな功績を挙げた義仲でしたが、横暴な振る舞いが原因で、源頼朝を敵に回してしまいます。
それによって孤立した義仲。
最終的には義仲と兼平との二騎だけになってしまいます。
あらすじはこちらこご覧ください。
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どのようなやりとりが行われたのか、読んでいきましょう。
この記事では
・本文(読み仮名付き)
・品詞分解と語句解説
・現代語訳
・本文の解説
以上の内容を順番にお話していきます。
平家物語「木曽の最期①義仲と兼平の別れ」品詞分解・現代語訳・解説

本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳
今井四郎、木曾殿、主従二騎になつてのたまひけるは、
| 語句 | 意味 |
| 今井四郎、 | 名詞(兼平。義仲の養育役だった人物の子) |
| 木曽殿、 | 名詞(源義仲) |
| 主従 | 名詞(主君と家来) |
| 二騎 | 名詞 |
| に | 格助詞 |
| なつ | ラ行四段活用動詞「なる」連用形の促音便 |
| て | 接続助詞 |
| のたまひ | ハ行四段活用動詞「のたまふ」(おっしゃる)連用形【尊敬】作者→義仲への敬意 |
| ける | 過去の助動詞「けり」連体形 |
| は、 | 係助詞 |
【訳】今井四郎と、木曽殿は、主君と家来の二騎になっておっしゃったことには、
「日ごろは何とも覚えぬ鎧が、今日は重うなつたるぞや。」
| 語句 | 意味 |
| 日ごろ | 名詞(普段) |
| は | 係助詞 |
| 何 | 代名詞 |
| と | 格助詞 |
| も | 係助詞 |
| おぼえ | ヤ行下二段活用動詞「おぼゆ」(自然に思われる)未然形 |
| ぬ | 打消の助動詞「ず」連体形 |
| 鎧 | 名詞 |
| が、 | 格助詞 |
| 今日 | 名詞 |
| は | 係助詞 |
| 重う | ク活用の形容詞「重し」連用形「重く」のウ音便。 |
| なつ | ラ行四段活用動詞「ナル」連用形の促音便 |
| たる | 完了の助動詞「たり」連体形 |
| ぞ | 終助詞【念押し】 |
| や。」 | 間投助詞 |
【訳】「普段は何とも思わない鎧が、今日は重くなったことよ。」

鎧の重さは義仲の精神的、肉体的疲労の大きさを表しています。
横暴で有名だった武将が、疲れを見せたり弱音を吐いたりしています。

家来としてもさぞ驚いたと思います。
ショックも受けたでしょうね…
今井四郎申しけるは、
| 語句 | 意味 |
| 今井四郎 | 名詞 |
| 申し | サ行四段活用動詞「申す」連用形【謙譲】作者→義仲への敬意 |
| ける | 過去の助動詞「けり」連体形 |
| は、 | 係助詞 |
【訳】今井四郎が申し上げたことには、
「御身もいまだ疲れさせ給はず。
| 語句 | 意味 |
| 「御身 | 名詞(お身体) |
| も | 係助詞 |
| いまだ | 副詞(まだ) |
| 疲れ | ラ行下二段活用動詞「疲る」未然形 |
| させ | 尊敬の助動詞「さす」連用形 兼平→義仲への敬意 |
| 給は | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」未然形 【尊敬】兼平→義仲への敬意 |
| ず。 | 打消の助動詞「ず」終止形 |
【訳】お身体はまだお疲れになっていません。
御馬も弱り候はず。
| 語句 | 意味 |
| 御馬 | 名詞 |
| も | 係助詞 |
| 弱り | ラ行四段活用動詞「弱る」連用形 |
| 候は | ハ行四段活用補助動詞「候ふ」(~ございます)未然形【丁寧】兼平→義仲への敬意 |
| ず。 | 打消の助動詞「ず」終止形 |
【訳】お乗りになっている馬も弱ってはございません。
何によつてか、一領の御着背長を重うは思し召し候ふべき。
| 語句 | 意味 |
| 何 | 代名詞 |
| に | 格助詞 |
| よつ | ラ行四段活用動詞「よる」連用形「よる」の促音便 |
| て | 接続助詞 |
| か、 | 【反語】(どうして~か、いや~ではない)係助詞 ※結び:べき |
| 一領 | 名詞(一着。領…鎧などを数える時に用いる) |
| の | 格助詞 |
| 御着背長 | 名詞(大将の着用する鎧のこと) |
| を | 格助詞 |
| 重う | ク活用の形容詞「重し」連用形「重く」のウ音便。 |
| は | 係助詞 |
| 思し召し | サ行四段活用動詞「思し召す」(お思いになる)連用形【尊敬】兼平→義仲への敬意 |
| 候ふ | ハ行四段活用補助動詞「候ふ」終止形【丁寧】兼平→義仲への敬意 |
| べき。 | 当然の助動詞「べし」連体形 【係り結び】 |
【訳】どうして一着の鎧を重くお思いになるはずがありましょうか、いやありません。
それは御方に御勢が候はねば、臆病でこそさは思し召し候へ。
| 語句 | 意味 |
| それ | 代名詞 |
| は | 係助詞 |
| 御方 | 名詞(御+方…味方) |
| に | 格助詞 |
| 御勢 | 名詞(御+勢…軍勢) |
| が | 格助詞 |
| 候は | ハ行四段活用補助動詞「候ふ」未然形【丁寧】兼平→義仲への敬意 |
| ね | 打消の助動詞「ず」已然形 |
| ば、 | 接続助詞 |
| 臆病 | 名詞 |
| で | 格助詞 |
| こそ | 係助詞【強意】 ※結び:候へ |
| さ | 副詞(そのように) |
| は | 係助詞 |
| 思し召し | サ行四段活用動詞「思し召す」(お思いになる)連用形【尊敬】兼平→義仲への敬意 |
| 候へ。 | ハ行四段活用補助動詞「候ふ」已然形 【係り結び】【丁寧】兼平→義仲への敬意 |
【訳】それは味方に軍勢がございませんので、そのようにお思いになるのでございます。

「さ(そう)」は、普段は何とも思わない鎧が今日は重くなったように感じたことを指します。
兼平一人候ふとも、余の武者千騎と思し召せ。
| 語句 | 意味 |
| 兼平 | 名詞 |
| 一人 | 名詞 |
| 候ふ | ハ行四段活用補助動詞「候ふ」終止形【丁寧】兼平→義仲への敬意 |
| とも、 | 【逆接仮定条件】(たとえ~としても)接続助詞 |
| 余 | 名詞(そのほか、それ以外) |
| の | 格助詞 |
| 武者 | 名詞(武士) |
| 千騎 | 名詞 |
| と | 格助詞 |
| 思し召せ。 | サ行四段活用動詞「思し召す」(お思いになる)命令形【尊敬】兼平→義仲への敬意 |
【訳】たとえ兼平一人でございましても、そのほかの武士千騎だとお思い下さい。

兼平は、すっかり弱気になっている義仲を必死で励ましていますね。

臆病な態度を取ることは、武士にとって恥ずべきことです。
「武士として最期までしっかりしなさい!」とも聞こえますね。
矢七つ八つ候へば、しばらく防き矢つかまつらん。
| 語句 | 意味 |
| 矢 | 名詞 |
| 七つ | 名詞 |
| 八つ | 名詞 |
| 候へ | ハ行四段活用補助動詞「候ふ」已然形【丁寧】兼平→義仲への敬意 |
| ば、 | 接続助詞 |
| しばらく | 副詞(少しの間) |
| 防き矢 | 名詞(敵の攻撃を防ぐために矢を射ること) |
| つかまつら | ラ行四段活用動詞「つかまつる」(~し申し上げる)未然形【謙譲】兼平→義仲への敬意 |
| ん。 | 意志の助動詞「む」終止形 |
【訳】矢が七、八本ございますから、少しの間敵の攻撃を防ぎ申し上げましょう。
あれに見え候ふ、粟津の松原と申す、あの松の中で御自害候へ。」
| 語句 | 意味 |
| あれ | 代名詞(あちら) |
| に | 格助詞 |
| 見え | ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」(見える)連用形 |
| 候ふ、 | ハ行四段活用補助動詞「候ふ」連体形【丁寧】兼平→義仲への敬意 |
| 栗津 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| 松原 | 名詞(粟津の松原…地名。今の滋賀県大津市膳所の辺り) |
| と | 格助詞 |
| 申す、 | サ行四段活用動詞「申す」連体形【丁寧】兼平→義仲への敬意 |
| あ | 代名詞 |
| の | 格助詞 |
| 松 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| 中 | 名詞 |
| で | 格助詞 |
| 御自害 | 名詞。自害…自ら命を絶つこと |
| 候へ。」 | ハ行四段活用補助動詞「候ふ」命令形【丁寧】兼平→義仲への敬意 |
【訳】あちらに見えます粟津の松原と申します、あの松の中でご自害ください。」

兼平が義仲に自害を勧めるのは、なぜなのですか?

兼平は冷静に戦況を見て、勝ち目がないことを悟ります。
主人である義仲に無様な死に方ではなく、高名な武将らしい立派な死を選んで欲しいという思いからでした。
次ページ:とて、打つて行くほどに~



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