平家物語「木曽の最期①義仲と兼平の別れ」品詞分解・現代語訳・解説

古文

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とて、打つうっくほどに、また新手あらて武者むしゃ五十騎ごじゅっきばかりたり。

語句 意味
とて、 格助詞
打つ タ行四段活用動詞「打つ」(馬にむち打つ)連用形の促音便
接続助詞
行く カ行四段活用動詞「行く」(進んで行く)連体形
ほど 名詞(うち)
に、 格助詞
また 副詞
新手 名詞(まだ戦闘に参加していない軍勢のこと)
格助詞
武者 名詞(武士)
五十騎 名詞
ばかり 副助詞(ほど)
出て来 カ行変格活用動詞「出で来」(出て来る、現れる)連用形
たり。 完了の助動詞「たり」終止形

【訳】と言って、馬にむち打って進んで行くうちに、また新手の武士が五十騎ほど現れた。

 

きみはあの松原まつばららせたま兼平かねひらはこのかたきふせそうらん。」

語句 意味
「君 名詞(あなた)
係助詞
代名詞
格助詞
松原 名詞
格助詞
入ら ラ行四段活用動詞「入る」未然形
尊敬の助動詞「す」連用形
給へ。 【尊敬】ハ行四段活用補助動詞「給ふ」命令形
兼平 名詞
係助詞
代名詞
格助詞
名詞
防き カ行四段活用動詞「防く」連用形
候は ハ行四段活用補助動詞「候ふ」未然形【丁寧】兼平→義仲への敬意
ん。」 意志の助動詞「む(ん)」終止形

【訳】殿はあの松原へお入りください。兼平はこの敵を防ぎましょう。」

 

もうしければ、木曾殿きそどののたまひけるは、

語句 意味
格助詞
申し サ行四段活用動詞「申す」連用形【謙譲】作者→義仲への敬意
けれ 過去の助動詞「けり」已然形
ば、 接続助詞
木曽殿 名詞
のたまひ ハ行四段活用動詞「のたまふ」連用形【尊敬】作者→義仲への敬意
ける 過去の助動詞「けり」連体形
は、 係助詞

【訳】と申し上げたところ、木曽殿がおっしゃったことには、

 

義仲よしなかみやこにていかにもなるべかりつるが、

語句 意味
義仲、 名詞
名詞
にて 格助詞
いかに 副詞
係助詞
なる ラ行四段活用動詞「なる」終止形
※いかにもなる 【連語】亡くなる、死ぬ
べかり 意志の助動詞「べし」連用形
つる 完了の助動詞「つ」連体形
が、 接続助詞

【訳】「義仲は、都で死ぬつもりであったが、

 

これまでのがるは、なんぢと一所いっしょなんとおもためなり。

語句 意味
これ 代名詞(ここ)
まで 副助詞
逃れ来る カ行変格活用動詞「逃れ来」連体形
は、 係助詞
なんぢ 代名詞(お前)
格助詞
一所 名詞(同じ場所)
格助詞
死な ナ行変格活用動詞「死ぬ」未然形
意志の助動詞「む」終止形
格助詞
思ふ ハ行四段活用動詞「思ふ」連体形
ため 名詞
なり。 断定の助動詞「なり」終止形

【訳】ここまで逃げてきたのは、お前と同じ場所で死のうと思ったからである。

 

所々ところどころたれんよりも、ひとところでこそにをもせめ。」

語句 意味
所々 名詞(別々の場所)
格助詞
討た タ行四段活用動詞「討つ」(殺す)未然形
受身の助動詞「る」未然形
婉曲の助動詞「む」未然形
より 格助詞
も、 係助詞
ひと所 名詞(同じ場所)
格助詞
こそ 係助詞【強意】 ※結び:め
討ち死に 名詞
格助詞
係助詞
サ行変格活用動詞「す」未然形
め。」 意志の助動詞「む」已然形 ※係り結び

【訳】別々の場所で殺されるよりも、同じ場所で討ち死にをしよう。」

  

とて、うまはなならべてけんとしたまば、

語句 意味
とて、 格助詞
名詞
格助詞
名詞
格助詞
並べ バ行下二段活用動詞「並ぶ」連用形
接続助詞
駆け カ行下二段活用動詞「駆く」(馬に乗って走る、敵中に攻め入る)
意志の助動詞「ん」終止形
格助詞
サ行変格活用動詞「す」連用形
給へ ハ行四段活用補助動詞「給ふ」已然形【尊敬】作者→義仲への敬意
ば、 接続助詞

【訳】と言って、馬の鼻を並べて敵中に攻め入ろうとなさるので、

 

しかし義仲は、「戦に負けた後もお前に会うためにここまできたんだ!死ぬときは一緒がいい!」と言っています。

主人と家来というより、強い友情・絆を感じます。

「馬の鼻を並べる」とは同じ方向に進むことを表します。

義仲は、兼平と一緒にいたかったのですね。

兼平は嬉しかったでしょうね。

 

今井四郎いまいのしろううまよりり、しゅううまくちりついてもうしけるは、

語句 意味
今井四郎、 名詞
名詞
より 格助詞
飛び降り、 ラ行上二段活用動詞「飛び降る」連用形
名詞(主君)
格助詞
名詞
格助詞
名詞
格助詞
取りつい カ行四段活用動詞「取りつく」(しがみつく)連用形「取りつき」のイ音便
接続助詞
申し サ行四段活用動詞「申す」連用形【謙譲】作者→義仲への敬意
ける 過去の助動詞「けり」連体形
は、 係助詞

【訳】今井四郎は馬から飛び降り、主君の馬の口にしがみついて申し上げたことには、

 

弓矢ゆみやりは、としごろごろいかなる高名こうみょうそうらども、

語句 意味
「弓矢取り 名詞(武士のことを指す)
は、 係助詞
年ごろ 名詞(長年)
日ごろ 名詞(普段)
※年ごろ日ごろ 【連語】常日頃
いかなる ナリ活用の形容動詞「いかなり」(どのような)連体形
高名 名詞(手柄を立て、名を挙げること)
候へ ハ行四段活用補助動詞「候ふ」已然形【丁寧】兼平→義仲への敬意
ども、 接続助詞

【訳】「武士は常日頃どのような高名がございましても、

 

最期さいごとき不覚ふかくしつれば、ながきずにてそうろなり。

語句 意味
最期 名詞(死に際)
格助詞
名詞
不覚し サ行変格活用動詞「不覚す」(思わぬ失敗をすること)連用形
つれ 完了の助動詞「つ」已然形
ば、 接続助詞
長き ク活用の形容詞「長し」(長い、永久である)連体形
名詞(不名誉)
断定の助動詞「なり」連用形
接続助詞
候ふ ハ行四段活用補助動詞「候ふ」連体形【丁寧】兼平→義仲への敬意
なり。 断定の助動詞「なり」終止形

【訳】死に際の時に思わぬ失敗をしてしまうと、永久に不名誉なことでございます。

 

ここでの「不覚」とは無名の武士に討ち取られることを指します。

 

御身おんみつかれさせたまそうろつづせいそうらず。

語句 意味
御身 名詞
係助詞
疲れ ラ行下二段活用動詞「疲れる」未然形
させ 尊敬の助動詞「さす」連用形 兼平→義仲への敬意
給ひ ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連用形【尊敬】兼平→義仲への敬意
接続助詞
候ふ。 ハ行四段活用補助動詞「候ふ」終止形【丁寧】兼平→義仲への敬意
続く ハ行四段活用動詞「続く」連体形
名詞(軍勢)
係助詞
候は ハ行四段活用補助動詞「候ふ」未然形【丁寧】兼平→義仲への敬意
ず。 打消の助動詞「ず」終止形

【訳】お身体はお疲れになっていらっしゃいます。あとに続く軍勢はございません。

 

先ほどは「あなたは疲れていない」「私を千騎の味方だと思ってくれ」と力強く励ましていたのに、ここでは真逆のことを言っていますね。

主人に対して「あたなは弱っている、もう勝てない」と冷静に状況を伝えています。

 

 

かたきへだてられ、いふかなきひと郎等ろうどうとされさせたまて、

語句 意味
名詞
格助詞
押し隔て タ行下二段活用動詞「押し隔つ」(無理に遮る)未然形
られ、 受身の助動詞「らる」連用形
いふかひなき ク活用の形容詞「いふかひなし」(取るに足りない)連体形
名詞
格助詞
郎等 名詞(家来)
格助詞
組み落とさ サ行四段活用動詞「組み落とす」(組み合って馬から落とす)未然形
受身の助動詞「る」未然形
させ 尊敬の助動詞「さす」連用形 兼平→義仲への敬意
給ひ ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」連用形【尊敬】兼平→義仲への敬意
て、 接続助詞

【訳】敵に無理に遮られ、取るに足りない誰かの家来に組み合って馬から落とされなさって、

 

たれさせたまなば、

語句 意味
討た タ行四段活用動詞「討つ」未然形
受身の助動詞「る」未然形
させ 尊敬の助動詞「さす」連用形 兼平→義仲への敬意
給ひ ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」連用形【尊敬】兼平→義仲への敬意
完了の助動詞「ぬ」未然形
ば、 接続助詞

【訳】殺されなさったならば、

 

『さばかり日本国にっぽんごくこえさせたまつる木曾殿きそどのをば、それがしが郎等ろうどうたてまたる。』

語句 意味
『さばかり 副詞(あれほど)
日本国 名詞
格助詞
聞こえ ヤ行下二段活用動詞「聞こゆ」(評判になる)未然形
させ 助動詞「さす?」連用形 【尊敬】兼平→義仲への敬意
給ひ ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」連用形【尊敬】兼平→義仲への敬意
つる 完了の助動詞「つ」連体形
木曽殿 名詞
格助詞
ば、 係助詞
それがし 代名詞(だれそれ)
格助詞
郎等 名詞
格助詞
討ち タ行四段活用動詞「討つ」連用形
奉つ タ行四段活用の補助動詞「奉る」の連用形「奉り」の変化した形
たる。』 完了の助動詞「たり」連体形

【訳】『あれほど日本国中に評判になっている木曽殿を、だれそれの家来が討ち取り申し上げた。』

 

なんどもうさんことこそ口惜くちおしうそうらへ。

語句 意味
なんど 副助詞(など)
申さ サ行四段活用動詞「申す」未然形【謙譲】兼平→義仲への敬意
仮定の助動詞「む(ん)」連体形
こと 名詞
こそ 係助詞【強意】 ※結び:候へ ※申さんことこそ…申すとしたらそれこそ
口惜しう シク活用の形容詞「口惜し」(残念だ、がっかりだ)連用形
候へ。 ハ行四段活用補助動詞「候ふ」已然形【丁寧】兼平→義仲への敬意
※係り結び

【訳】などと申すとしたらそれこそ残念でございます。

 

ただあの松原まつばららせたま。」

語句 意味
ただ 副詞 (ただもう)
代名詞
格助詞
松原 名詞
格助詞
入ら ラ行四段活用動詞「入る」未然形
尊敬の助動詞「す」連用形兼平→義仲への敬意
給へ。」 ハ行四段活用補助動詞「給ふ」命令形【尊敬】兼平→義仲への敬意

【訳】ただもうあの松原へお入りください。」

 

もうしければ、木曾きそ

語句 意味
格助詞
申し サ行四段活用動詞「申す」連用形【謙譲】作者→義仲への敬意
けれ 過去の助動詞「けり」已然形
ば、 接続助詞
木曽、 名詞(木曽殿、義仲のこと)

【訳】と申し上げたので、木曽殿は、

 

「さらば。」とて、粟津あわづ松原まつばらへぞたも

語句 意味
「さらば。」 接続詞(そういうことならば)
とて、 格助詞
栗津 名詞
格助詞
松原 名詞
格助詞
係助詞 ※結び:給ふ
駆け カ行下二段活用動詞「駆く」(馬に乗って疾走する、駆ける)連用形
給ふ。 ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連体形【尊敬】作者→義仲への敬意 ※係り結び

【訳】「そういうことならば。」と言って、粟津の松原へ馬に乗って駆けて行かれた。

 

 

兼平の強い思いに打たれ、義仲は従うしかなくなったのですね。

続き:平家物語「木曽の最期②兼平の最後の戦い」

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回は平家物語より「木曽の最期①義仲と兼平の別れ」を解説しました。

兼平が義仲に自害を促す場面でした。
二人が単なる主従の関係ではなく、強い絆で結ばれていることが感じられるお話でした。

兼平と別れた義仲。
このあとどうなるのでしょうか?

この記事を書いた人
あずき

40代、一児の母
通信制高校の国語教員

生徒が「呪文にしか見えない」という古文・漢文に、少しでも興味を持ってもらえたらと作品についてとことん調べています。

自分の生徒には直接伝えられるけど、
聞きたくても聞けない…などと困っている方にも届けたくて、ブログを始めました。

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