今回は枕草子より「雪のいと高う降りたるを」について現代語訳・解説をしていきます。
成立:平安時代中期
作者:清少納言
内容:類聚的章段(ものづくし)…「ありがたきもの」などのあるあるシリーズ
随想的章段…自然や人間観察をして感じたことを自由に語る。
日記的章段…中宮定子に仕えた時のこと。出来事や感じたことをつづる。
今回のお話は、日記的章段にあたります。
ある雪の降る日の、定子とのやり取りについて語られています。
どのようなやり取りが行われたのでしょうか?
読み取っていきましょう。
この記事では
・品詞分解と語句解説
・現代語訳
・本文の解説
以上の内容を順番にお話していきます。
枕草子「雪のいと高う降りたるを」品詞分解・現代語訳・解説
本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳
雪のいと高う降りたるを、
語句 | 意味 |
雪 | 名詞 |
の | 格助詞 |
いと | 副詞(大変) |
高う | ク活用形容詞「高し」連用形のウ音便 |
降り | ラ行四段活用動詞「降る」連用形 |
たる | 存続(完了)の助動詞「たり」連用形 |
を、 | 接続助詞 |
【訳】雪が大変高く降っている(降った)時に、
例ならず御格子参りて、
語句 | 意味 |
例 | 名詞(普段、いつも) |
なら | 断定の助動詞「なり」未然形 |
ず | 打消の助動詞「ず」連用形 |
※例ならず | いつもと違う |
御格子 | 「御」+名詞「格子」(格子状になった戸。上下に分かれている。) |
参り | ラ行四段活用動詞「参る」連用形 【謙譲】作者→中宮定子への敬意 |
て、 | 接続助詞 |
【訳】いつもと違って格子を下ろし申し上げて、
炭櫃に火おこして、
語句 | 意味 |
炭櫃 | 名詞(角火鉢のこと) |
に | 格助詞 |
火 | 名詞 |
おこし | サ行四段活用動詞「おこす」(火をつける)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
【訳】炭櫃に火をつけて、
物語などして集まり候ふに、
語句 | 意味 |
物語 | 名詞(世間話) |
など | 副助詞 |
し | サ行変格活用動詞「す」連用形 |
て | 接続助詞 |
集まり | ラ行四段活用動詞「集まる」連用形 |
候ふ | ハ行四段活用動詞「候ふ」(お仕えする)連体形 【謙譲】作者→中宮定子への敬意 |
に、 | 接続助詞 |
【訳】話などして集まり(中宮様に)お仕えしているときに、
「少納言よ。香炉峰の雪いかならむ。」
語句 | 意味 |
「少納言 | 名詞(清少納言のことを指す) |
よ。 | 間投助詞 |
香炉峰 | 名詞(中国にある廬山の峰の一つを指す) |
の | 格助詞 |
雪 | 名詞 |
いかなら | ナリ活用形容動詞「いかなり」(どのようである)未然形 |
む。」 | 推量の助動詞「む」終止形 |
【訳】「清少納言よ、香炉峰の雪はどうであろうか。」
と仰せらるれば、
語句 | 意味 |
と | 格助詞 |
仰せ | サ行下二段活用動詞「仰す」(おっしゃる)未然形 【尊敬】作者→中宮定子への敬意 |
らるれ | 尊敬の助動詞「らる」已然形 【尊敬】作者→中宮定子への敬意 |
ば、 | 接続助詞 |
【訳】と(定子様が)おっしゃるので、

ここでは主語が書かれていませんが、「仰せ」+「らる」と二重尊敬になっていることから、天皇やそれに準ずる地位の人のセリフだと推測できます。
ここでは、中宮定子がそれにあたるというわけです。
御格子上げさせて、
語句 | 意味 |
御格子 | 名詞 |
上げ | ガ行下二段活用動詞「上ぐ」(上げる) |
させ | 使役の助動詞「さす」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
【訳】(清少納言は部屋の外にいる女官に)格子を上げさせて、

なぜ、清少納言は自分で格子を上げないのですか?

格子は、外側から上げることが多いです。
ここでは、外に控えている女官に上げさせたと考えられます。
御簾を高く上げたれば、
語句 | 意味 |
御簾 | 名詞(貴族の部屋にかかるすだれ) |
を | 格助詞 |
高く | ク活用形容詞「高し」連用形 |
上げ | ガ行下二段活用動詞「上ぐ」連用形 |
たれ | 完了の助動詞「たり」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
【訳】御簾を高く上げたところ、
笑わせ給ふ。
語句 | 意味 |
笑わ | ハ行四段活用動詞「笑ふ」未然形 |
せ | 尊敬の助動詞「す」連用形 作者→中宮定子への敬意 |
給ふ。 | ハ行四段活用動詞「給ふ」終止形 |
【訳】お笑いになる。

なぜ、定子様は笑ったんですか?

それにはまず、ここで「香炉峰」が出てきたことから説明しましょう。
香炉峰とは、中国にある廬山という山の峰の一つを指します。

なぜ定子様は突然、中国の山を言ったのですか?

白居易の「香炉峰下、新卜山居草堂初成、偶題東壁」という詩の一節に、以下ものがありました。
「遺愛寺の鐘は枕を欹てて聴き、香炉峰の雪は簾を撥げて看る(遺愛寺の鐘の音は、枕から頭を上げて耳を澄ませて聞き、香炉峰の雪はすだれをあげてながめる)」
この詩に関する解説はコチラ

おしゃべりに夢中で、格子を上げない女房たちに、定子は「格子を上げて雪が見たいわ」とストレートには言わなかったのです。

そこで清少納言に、「香炉峰の雪はどうなの?」という謎かけをしたのですね。

それに対して清少納言は、しっかりと期待に応えたわけです。
定子はその様子に満足して、笑ったということです。
人々も、「さることは知り、
語句 | 意味 |
人々 | 名詞 |
も、 | 係助詞 |
「さる | 連体詞(そのような) |
こと | 名詞 |
は | 係助詞 |
知り、 | ラ行四段活用動詞「知る」の連用形 |
【訳】人々も、「そのようなこと(「香炉峰」が中国の山の峰であること)は知っておりますし、
歌などにさへ歌へど、
語句 | 意味 |
歌 | 名詞 |
など | 副助詞 |
に | 格助詞 |
さへ | 副助詞(その上~までも) |
歌へ | ハ行四段活用動詞「歌ふ」(詩に詠む)已然形 |
ど、 | 接続助詞 |
【訳】歌(白居易の詩を指す)にまで詠んでますが、
思ひこそ寄らざりつれ。
語句 | 意味 |
思ひ | ハ行四段活用動詞「思ふ」連用形 |
こそ | 係助詞【強意】 ※結び:つれ |
寄ら | ラ行四段活用動詞「寄る」未然形 |
ざり | 打消の助動詞「ず」連用形 |
つれ。 | 完了の助動詞「つ」已然形 【係り結び】 |
【訳】(御簾を上げるという行動をするとは)思いもよらなかった。

この白居易の詩の一節は『和漢朗詠集』にも取り上げられており、多くの人が知っていたのです。
なほこの宮の人には、
語句 | 意味 |
なほ | 副詞(やはり) |
こ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
宮 | 名詞(中宮定子を指す) |
の | 格助詞 |
人 | 名詞 |
に | 格助詞 |
は、 | 係助詞 |
【訳】やはりこの中宮様の(もとにお仕えする)人としては、
さ(ん)べきな(ん)めり。」と言ふ。
語句 | 意味 |
さ | ラ行変格活用動詞「さり」連体形「さる」の撥音便「さん」の「ん」が無表記になっている |
べき | 当然の助動詞「べし」連体形 |
※さるべき | ふさわしい |
(人) | 省略されている |
な | 断定の助動詞「なり」連体形「なる」の撥音便「なん」の「ん」が無表記になっている |
めり。」 | 推定の助動詞「めり」終止形 |
と | 格助詞 |
言ふ。 | ハ行四段活用動詞「言ふ」終止形 |
【訳】ふさわしい(人)であるようだ」と言う。

出ましたね~、清少納言のシレっと自慢!
自分が褒められたことを、書いちゃうんですよね。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は枕草子より「雪のいと高う降りたるを」を解説しました。
中宮定子からの問いに、しっかりと応えたというエピソードでした。
「私の対応に、定子様は満足してくださったのよ~」
「みんなも褒めてくれた~」
と自慢をシレっと書いてしまうのが、清少納言の面白さかなと思います。
みなさんは、どのように感じましたか?
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