宇治拾遺物語「空を飛ぶ倉」現代語訳・解説

古文

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『宇治拾遺物語』より「空を飛ぶ倉」について解説していきます。

宇治拾遺物語
成立:鎌倉時代初期
作者:不詳
ジャンル:説話集
内容:読みやすく面白さもある。魅力的で多彩な話で構成されている。(全197話)
民間説話(登場人物は、帝王・貴族・武士・庶民と様々。昔話や笑い話、貴族的な文化に関する話、怪談のようなものまで)
仏教説話(僧が体験した不思議な話、信仰に関する話など。布教の意図は乏しい。)

今回は、信濃国(現在の長野県にあたる場所)にいた聖のお話です。
奈良の東大寺で受戒したが、信濃へは帰らずに奈良県にある信し貴ぎ山さんで熱心に修行をしていました。
すると、聖は小さな毘沙門天像を出現させるほどの力を手に入れるまでになっていたのです。
そんな不思議な力を持つ聖が、一体なにをしたのか読んでいきましょう。

合わせて読みたい

この記事では

・本文(読み仮名付き)
・品詞分解と語句解説
・現代語訳
・本文の解説

以上の内容を、順番にお話していきます。

宇治拾遺物語「空を飛ぶ倉」品詞分解・現代語訳・解説

本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳

そこに小ちいさき堂どうを建たてて、据すゑえ奉たてまつりて、

語句 意味
そこ 名詞
に 格助詞
小さき ク活用形容詞「小さし」連体形
堂 名詞
を 格助詞
建て タ行下二段活用動詞「建つ」連用形
て、 接続助詞
据ゑ ワ行下二段活用動詞「据う」(置く、据える)連用形
奉り ラ行四段活用補助動詞「奉る」(~し申し上げる)連用形 【謙譲】作者→毘沙門天像への敬意
て、 接続助詞

【訳】そこに小さな堂を建てて、(毘沙門天像を)安置申し上げて、

 

えもいはず行おこなひいて、年月としつきを経ふるほどに、

語句 意味
え 副詞
も 係助詞
いは ハ行四段活用動詞「言ふ」(言葉で表現する)未然形
ず 打消の助動詞「ず」連用形
行ひ ハ行四段活用動詞「行ふ」(修行をする)連用形
て、 接続助詞
年月 名詞
を 格助詞
経る ハ行下二段活用動詞「経」(年月が過ぎる)連体形
ほど 名詞
に、 格助詞

【訳】表現のしようがない修行をして、年月を過ごすうちに、

 

この山やまのふもとに、いみじき下種げす徳人とくにんありけり。

語句 意味
こ 代名詞
の 格助詞
山 名詞
の 格助詞
ふもと 名詞
に、 格助詞
いみじき シク活用形容詞「いみじ」(たいへん ※程度がはなはだしいこと)連体形
下種徳人 名詞(身分の低い金持ち)
あり ラ行変格活用動詞「あり」連用形
けり。 過去の助動詞「けり」終止形

【訳】この山のふもとに、身分は低いがたいそうな金持ちがいた。

 

そこに、聖ひじりの鉢はちは常つねに飛とび行ゆきつつ、物ものは入いれて来きけり。

語句 意味
そこ 名詞
に、 格助詞
聖 名詞(法師、僧のこと)
の 格助詞
鉢 名詞(僧尼の食器。施しを受けるのに使う器。托鉢)
は 係助詞
常に 副詞(いつも)
飛び行き カ行四段活用動詞「飛び行く」(飛んでいく)連用形
つつ、 接続助詞
物 名詞
は 係助詞
入れ ラ行下二段活用動詞「入る」連用形
て 接続助詞
来 カ行変格活用動詞「来」連用形
けり。 過去の助動詞「けり」終止形

【訳】そこ(下種徳人のところ)に、聖の鉢がいつも飛んで行っては、物を入れて来た。

すごい力を手に入れた聖は、自分で行かなくても、鉢だけが施しを受けに行ってくれるのですね…

 

大おおきなる校倉あぜくらのあるを開あけて、物もの取とり出いだすほどに、

語句 意味
大きなる ナリ活用形容動詞「大きなり」(大きい)連体形
校倉 名詞(木材を組み合わせて作った倉のこと)
の 格助詞
ある ラ行変格活用動詞「あり」連体形
を 格助詞
開け カ行下二段活用動詞「開く」連用形
て、 接続助詞
物 名詞
取り出だす サ行四段活用動詞「取り出だす」(取り出す)連体形
ほど 名詞(間、うち)
に、 格助詞

【訳】(ある時この下種徳人が)大きな倉があるのを開けて、物を取り出しているうちに、

 

この鉢はち飛とびて、例れいの物もの乞こひいに来きたりけるを、

語句 意味
こ 代名詞
の 格助詞
鉢 名詞
飛び バ行四段活用動詞「飛ぶ」連用形
て、 接続助詞
例 名詞
の 格助詞
物 名詞
乞ひ ハ行四段活用動詞「乞ふ」連用形
に 格助詞
来たり ラ行四段活用動詞「来たる」(やって来る)連用形
ける 過去の助動詞「けり」連体形
を、 接続助詞

【訳】この鉢が飛んで、いつものように物乞いにやってきたのを、

 

「例れいの鉢はち、来きにたり。ゆゆしく、ふくつけき鉢はちよ。」

語句 意味
「例 名詞
の 格助詞
鉢、 名詞
来 カ行変格活用動詞「来」連用形
に 完了の助動詞「ぬ」連用形
たり。 完了の助動詞「たり」終止形
ゆゆしく、 シク活用形容詞「ゆゆし」(ひどい)連用形
ふくつけき ク活用形容詞「ふくつけし」(欲深い)連体形
鉢 名詞
よ。」 間投助詞

【訳】「あの鉢が、来てしまった。ひどく、欲深い鉢だよ。」

 

とて、取とりて、倉くらの隅すみに投なげ置おきて、とみに物ものも入いれざりければ、

語句 意味
とて、 格助詞
取り ラ行四段活用「取る」(手に取る)連用形
て、 接続助詞
倉 名詞
の 格助詞
隅 名詞
に 格助詞
投げ置き カ行四段活用動詞「投げ置く」連用形
て、 接続助詞
とみに 副詞(すぐには)
物 名詞
も 係助詞
入れ ラ行下二段活用動詞「入る」未然形
ざり 打消の助動詞「ず」連用形
けれ 過去の助動詞「けり」已然形
ば、 接続助詞

【訳】と言って、(鉢を)手に取って、倉の隅に投げ置いて、すぐには物も入れなかったので、

何度も鉢だけが来て、物をやらねばならないという状況が嫌になってしまったんですね…

 

鉢はちは待ちまゐいたりけるほどに、物ものどもしたため果はてて、

語句 意味
鉢 名詞
は 係助詞
待ちゐ ワ行上一段活用動詞「待ちゐる」(待っている)連用形
たり 存続の助動詞「たり」連用形
ける 過去の助動詞「けり」連体形
ほど 名詞
に、 格助詞
物ども 名詞(物+複数を表す接尾語)
したため果て タ行下二段活用動詞「したため果つ」(片付け終わる)連用形
て、 接続助詞

【訳】鉢は待っている間に、物を片付け終わって、

 

この鉢はちを忘わすれて物ものも入いれず、取とりも出いださで、

語句 意味
こ 代名詞
の 格助詞
鉢 名詞
を 格助詞
忘れ ラ行下二段活用動詞「忘る」連用形
て 接続助詞
物 名詞
も 係助詞
入れ ラ行下二段活用動詞「入る」未然形
ず、 打消の助動詞「ず」連用形
取り ラ行四段活用動詞「取る」連用形
も 係助詞
出ださ サ行四段活用動詞「出だす」未然形
で、 接続助詞

【訳】この鉢(のこと)を忘れて物も入れないで、(倉から)取り出すこともしないで、

 

倉くらの戸とを鎖さして立たち帰かえりぬるほどに、とばかりありて、

語句 意味
倉 名詞
の 格助詞
戸 名詞
を 格助詞
鎖し サ行四段活用動詞「鎖す」(鍵をかける)連用形
て 接続助詞
立ち帰り ラ行四段活用動詞「立ち帰る」(戻る)連用形
ぬる 完了の助動詞「ぬ」連体形
ほど 名詞
に、 格助詞
とばかり 副詞(しばらくの間)
あり ラ行変格活用動詞「あり」連用形
て、 接続助詞

【訳】倉の戸に鍵をかけて戻って、しばらくすると、

 

この倉くら、すずろにゆさゆさと揺ゆるぐ。

語句 意味
こ 代名詞
の 格助詞
倉、 名詞
すずろに ナリ活用形容動詞「すずろなり」(思いがけない)連用形
ゆさゆさと 副詞
揺るぐ。 ガ行四段活用動詞「揺るぐ」(揺れ動く、揺らぐ)終止形

【訳】この倉が、思いがけずゆさゆさと揺れ動いた。

 

「いかに、いかに。」と見み騒さわぐほどに、

語句 意味
「いかに、 副詞(どうして)
いかに。」 副詞
と 格助詞
見騒ぐ ガ行四段活用動詞「見騒ぐ」(見る+騒ぐ)連体形
ほど 名詞
に、 格助詞

【訳】「どうした、どうした。」と見て動揺しているうちに、

 

揺ゆるぎ揺ゆるぎて、土つちより一尺いっしゃくばかり揺ゆるぎ上あがるときに、

語句 意味
揺るぎ ガ行四段活用動詞「揺るぐ」(揺れ動く、揺らぐ)連用形
揺るぎ ガ行四段活用動詞「揺るぐ」(揺れ動く、揺らぐ)終止形
て、 接続助詞
土 名詞(地面)
より 格助詞
一尺 名詞(長さの単位。約30cmを指す)
ばかり 副助詞
揺るぎ上がる ラ行四段活用動詞「揺るぎ上がる」(揺れながら上に上がる)連体形
とき 名詞
に、 格助詞

【訳】揺れに揺れて、地面から一尺ほど揺れ上がる時に、

 

「こはいかなることぞ。」とあやしがりて騒さわぐ。

語句 意味
「こ 代名詞
は 係助詞
いかなる ナリ活用形容動詞「いかなり」(どういうわけだ)連体形
こと 名詞
ぞ。」 終助詞
と 格助詞
あやしがり ラ行四段活用動詞「あやしがる」(不思議に思う)連用形
て 接続助詞
騒ぐ。 ガ行四段活用動詞「騒ぐ」終止形

【訳】「これはどういうわけだ。」と不思議に思って、騒いだ。

 

「まことに、まことに、ありつる鉢はちを忘わすれて、取とり出いでずなりぬる、それが仕業しわざにや。」

語句 意味
「まことに、 感動詞(そういえば、そうそう)
まことに、 感動詞
ありつる 連体詞(先ほどの)
鉢 名詞
を 格助詞
忘れ ラ行下二段活用動詞「忘る」連用形
て、 接続助詞
取り出で ダ行下二段活用動詞「取り出づ」未然形
ず 打消の助動詞「ず」連用形
なり ラ行四段活用動詞「なり」連用形
ぬる、 完了の助動詞「ぬ」連体形
それ 名詞
が 格助詞
仕業 名詞(せい)
に 断定の助動詞「なり」連用形
や。」 係助詞【疑問】

【訳】「そういえば、そうだった、先ほどの鉢を忘れて、取り出さなかったが、そのせいであろうか。」

 

など言いふうほどに、この鉢はち、倉くらより漏もり出いでて、

語句 意味
など 副助詞
言ふ ハ行四段活用動詞「言ふ」連体形
ほど 名詞
に、 格助詞
こ 代名詞
の 格助詞
鉢、 名詞
倉 名詞
より 格助詞
漏り出で ダ行下二段活用動詞「漏り出づ」(こぼれ出る)連用形
て、 接続助詞

【訳】などと言っている間に、この鉢は倉からこぼれ出て、

 

この鉢はちに倉くら乗のりて、ただ上のぼりに、空そらざまに一いち、二丈にじょうばかり上のぼる。

語句 意味
こ 代名詞
の 格助詞
鉢 名詞
に 格助詞
倉 名詞
乗り ラ行四段活用動詞「乗る」連用形
て、 接続助詞
ただ 副詞(ひたすら)
上り ラ行四段活用動詞「上る」連用形
に、 格助詞
空ざま 名詞(空の方)
に 格助詞
一、二丈 名詞(長さの単位。一丈=3m)
ばかり 副助詞(ほど)
上る。 ラ行四段活用動詞「上る」終止形

【訳】この鉢に倉が乗って、ひたすら上っていくと、一、二丈ほど上がった。

 

さて飛とび行ゆくほどに、人々ひとびと見みののしり、あさみ騒さわぎ合あひいたり。

語句 意味
さて 副詞(そのまま)
飛び行く カ行四段活用動詞「飛び行く」(飛んで行く)連体形
ほど 名詞
に、 格助詞
人々 名詞
見ののしり、 ラ行四段活用動詞「見ののしる」(見て大声で騒ぐ)連用形
あさみ マ行四段活用動詞「あさむ」(驚きあきれる)連用形
騒ぎ合ひ ハ行四段活用動詞「騒ぎ合ふ」(互いに慌てふためく)連用形
たり。 存続の助動詞「たり」終止形

【訳】そのまま(鉢が倉を乗せて)飛んでいくと、人々は(それを)見て大声で騒ぎ、驚き呆れて慌てふためき合っている。

 

倉くらの主ぬしも、さらにすべきやようもなければ、

語句 意味
倉 名詞
の 格助詞
主 名詞(主人)
も、 係助詞
さらに 副詞(今さら)
す サ行変格活用動詞「す」終止形
べき 可能の助動詞「べし」連体形
やう 名詞(方法、手段)
も 係助詞
なけれ ク活用形容詞「なし」已然形
ば、 接続助詞

【訳】倉の主人も、今さらどうすることもできないので、

すべきやうなし…「どうすることもできない」と訳

 

「この倉くらの行かかむん所ところを見みむん。」とて、後しりに立たちて行ゆく。

語句 意味
「こ 代名詞
の 格助詞
倉 名詞
の 格助詞
行か カ行四段活用動詞「行く」未然形
む 婉曲の助動詞「む」連体形
所 名詞
を 格助詞
見 マ行上一段活用動詞「見る」未然形
む。」 意志の助動詞「む」終止形
とて、 格助詞
後 名詞(後ろ、あと)
に 格助詞
立ち タ行四段活用動詞「立つ」連用形
て 接続助詞
行く。 カ行四段活用動詞「行く」終止形

【訳】「この倉が行くようなところを見よう。」と言って、ついて行く。

この倉がどこにいくのか、見届けようということですね。

 

そのわたりの人々ひとびともみな走はしりけり。

語句 意味
そ 代名詞
の 格助詞
わたり 名詞(辺り)
の 格助詞
人々 名詞
も 係助詞
みな 名詞(全員)
走り ラ行四段活用動詞「走る」連用形
けり。 過去の助動詞「けり」終止形

【訳】その辺にいる人々も全員走っ(てついていっ)た。

 

さて見みれば、やようやよう飛とびて、河内こうちの国くにに、

語句 意味
さて 副詞(そうして、そこで)
見れ マ行上一段活用動詞「見る」已然形
ば、 接続助詞
やうやう 副詞(静かに、そろそろと)
飛び バ行四段活用動詞「飛ぶ」連用形
て、 接続助詞
河内国 名詞(地名。現在の大阪府のあたり)
に、 格助詞

【訳】そうして見ていると、そろそろと飛んで、河内国に(ある)、

 

この聖ひじりの行おこなふう山やまの中なかに飛とび行ゆきて、聖ひじりの坊ぼうの傍かたわらに、どうと落おちぬ。

語句 意味
こ 代名詞
の 格助詞
聖 名詞
の 格助詞
行ふ ハ行四段活用動詞「行ふ」連体形
山 名詞
の 格助詞
中 名詞
に 格助詞
飛び行き カ行四段活用動詞「飛び行く」連用形
て、 接続助詞
聖 名詞
の 格助詞
坊 名詞(僧の住む所を指す)
の 格助詞
傍ら 名詞(わき)
に、 格助詞
どうと 副詞(ドシンと)
落ち タ行上一段活用動詞「落つ」連用形
ぬ。 完了の助動詞「ぬ」終止形

【訳】この聖が修行をする山の中に飛んで行って、聖の坊のわきに、ドシンと落ちた。

この後、どうなったのでしょうか?

倉の持ち主は、倉を返してくれと聖に頼みます。
しかし聖は、倉は返せないが、倉の中の俵は返すと答えました。
そして、鉢に俵を乗せると、俵は飛んで持ち主のもとへ全て帰りました。
信貴山縁起絵巻には、倉の持ち主の屋敷の人が、戻ってきたたくさんの米俵を見て「びっくり仰天」な様子が描かれています。

表情だけでなく、両手を広げて「オーマイガー!」という感じがとても面白いですね。

今回のお話は『信貴山縁起絵巻』の一巻、「飛倉ノ巻」と同様のお話です。

 

信貴山縁起絵巻
日本最古の絵画資料
成立:平安時代後期
内容:命蓮みょうれんという僧の、不思議な話について描かれている

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回は宇治拾遺物語より「空を飛ぶ倉」を解説しました。
不思議な力を持つ聖のお話でした。
「新貴山縁起絵巻」を見ながらお話を読むと、より楽しめると思います。
一人一人の表情まで、じっくり見るのがオススメです。
ぜひ、見てみてください。

この記事を書いた人
あずき

40代、一児の母
通信制高校の国語教員

生徒が「呪文にしか見えない」という古文・漢文に、少しでも興味を持ってもらえたらと作品についてとことん調べています。

自分の生徒には直接伝えられるけど、
聞きたくても聞けない…などと困っている方にも届けたくて、ブログを始めました。

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