はじめに
今回も前回に引き続き、『枕草子』の「大納言殿参り給ひて」の解説をします。
大納言殿参り給ひて②またの夜は~ 現代語訳・解説

またの夜は、夜の御殿に参らせ給ひぬ。
次の日の晩は、(中宮様が)夜の御殿に参上なさった。
| またの夜 | 名詞(次の日の晩、翌晩) |
| は、 | 係助詞 |
| 夜の御殿 | 名詞(清涼殿にある帝の寝室のこと) |
| に | 格助詞 |
| 参ら |
ラ行四段活用動詞「参る」未然形 【謙譲】筆者→帝への敬意
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| せ |
尊敬の助動詞「す」連用形 筆者→中宮への敬意
|
| 給ひ |
ハ行四段活用動詞「給ふ」連用形 【尊敬】筆者→中宮への敬意
|
| ぬ。 | 完了の助動詞「ぬ」終止形 |
夜中ばかりに、廊に出でて人呼べば、
夜中ごろに、(私が)渡り廊下に出て人を呼ぶと、
| 夜中 | 名詞 |
| ばかり | 副助詞(ほど、ばかり、ぐらい) |
| に、 | 格助詞 |
| 廊 | 名詞(渡り廊下) |
| に、 | 格助詞 |
| 出で |
ダ行下二段活用動詞「出づ」(出る)連用形
|
| て | 接続助詞 |
| 人 | 名詞 |
| 呼べ |
バ行四段活用動詞「呼ぶ」(※ここでは、筆者が夜の御殿に中宮を送り届けたあとに自分の局に戻るために下女を呼んだことを表している)已然形
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| ば、 | 接続助詞 |
「下るるか。いで、送らむ。」とのたまへば、
(大納言殿が)「(自分の局へと)退出するのか。よし、(私が)送ろう。」とおっしゃるので、
| 「下るる |
ラ行上二段活用動詞「下る」(退出する)連体形
|
| か。 | 【疑問】係助詞 |
| いで、 |
感動詞(どれ、よし ※ここでは自分が行動しようと決めたときに用いる)
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| 送ら | ラ行四段活用動詞「送る」未然形 |
| む。」 | 意志の助動詞「む」終止形 |
| と | 格助詞 |
| のたまへ |
ハ行四段活用動詞「のたまふ」(おっしゃる)已然形 【尊敬】筆者→大納言への敬意
|
| ば、 | 接続助詞 |
裳、唐衣は屏風にうちかけて行くに、
裳と唐衣は屏風にさっと掛けて行くと、
| 裳、 |
名詞(平安時代の女性が正装の時に身に付ける引き裾)
|
| 唐衣 |
名詞(宮中の女性が正装の時に一番上に羽織った短い上衣)
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| は | 係助詞 |
| 屏風 |
名詞(部屋の仕切りや装飾として用いられた道具)
|
| に | 格助詞 |
| うちかけ |
カ行下二段活用動詞「うちかく」(さっと掛ける)連用形
|
| て | 接続助詞 |
| 行く | カ行四段活用動詞「行く」連体形 |
| に、 | 接続助詞 |

これは、どういう状況なのでしょうか?

自分の部屋に戻ろうと、下女を呼んだ筆者ですが、まさかの大納言様が「送っていくよ」と言ってくださいました。
そこで、お待たせするのはしのびないという思いがあったのでしょう。
また、あとは自室に戻るだけなので正装に戻す必要もなかったのかもしれませんね。
そこで、すぐに大納言のもとへ行ったというわけです。
月のいみじう明かく、御直衣のいと白う見ゆるに、
月がたいへん明るく、(大納言殿の)御直衣がとても白く見えるのに加えて、
| 月 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| いみじう |
シク活用の形容詞「いみじ」(たいへん、はなはだしい)連用形「いみじく」のウ音便
|
| 明かく、 | ク活用の形容詞「明かし」(明るい)連用形 |
| 御直衣 | 接頭辞「御」+名詞(貴族の平服。やや短い上着。本来は正装ではないので、宮中では着用できないが、帝のお許しがあればOKとされていた) |
| の | 格助詞 |
| いと | 副詞(とても、たいへん) |
| 白う |
ク活用の形容詞「白し」(白い)連用形「白く」のウ音便
|
| 見ゆる | ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」(見える)連体形 |
| に、 | 【添加】接続助詞(~に加えて、~のうえ) |
指貫を長う踏みしだきて、袖をひかへて、
指貫の裾を長く踏みつけて、(私の)袖を引っ張って、
| 指貫 | 名詞(裾の回りに紐が通してある袴のひとつ) |
| を | 格助詞 |
| 長う |
ク活用の形容詞「長し」(長い)連用形「長く」のウ音便
|
| 踏みしだき |
カ行四段活用動詞「踏みしだく」(踏みつける)連用形
|
| て、 | 接続助詞 |
| 袖 | 名詞 |
| を | 格助詞 |
| ひかへ |
ハ行下二段活用動詞「ひかふ」(引っ張る、つかむ)連用形
|
| て、 | 接続助詞 |

「指貫を長う踏みしだく」とは、指貫の裾の紐を絞らずに長くしていて、その裾を無造作に踏んでいる様子を表しています。
「倒るな。」と言ひて、おはするままに、
「倒れるな。」と言って、いらっしゃるあいだに、
| 「倒る |
ラ行下二段活用動詞「倒る」(倒れる)終止形
|
| な。」 | 【禁止】終助詞 |
| と | 格助詞 |
| 言ひ | ハ行四段活用動詞「言ふ」連用形 |
| て、 | 接続助詞 |
| おはする |
サ行変格活用動詞「おはす」(いらっしゃる)連体形 【尊敬】筆者→大納言への敬意
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| まま | 名詞(あいだ) |
| に、 | 格助詞 |
「遊子なほ残りの月に行く。」と誦し給へる、またいみじうめでたし。
「遊子なほ残りの月に行く。」と朗詠なさったのも、またたいへんすばらしい。
| 「遊子 | 名詞(旅人) |
| なほ | 副詞(やはり) |
| 残り | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| 月 | 名詞 |
| に | 格助詞 |
| 行く。」 | カ行四段活用動詞「行く」終止形 |
| と | 格助詞 |
| 誦し | サ行変格活用動詞「誦す」(吟じる、朗詠する)連用形 |
| 給へ |
ハ行四段活用補助動詞「給ふ」已然形 【尊敬】筆者→大納言への敬意
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| る、 | 完了の助動詞「り」連体形 |
| また | 副詞 |
| いみじう |
シク活用の形容詞「いみじ」(たいへん、はなはだしい)連用形「いみじく」のウ音便
|
| めでたし。 | ク活用の形容詞「めでたし」(すばらしい)終止形 |

「遊子なほ残りの月に行く。」は、「旅人はやはり残月の光の中を歩き続ける」という意味です。
『和漢朗詠集』の「佳人尽く晨粧(しんそう)を飾る、魏宮に鐘動く。遊子なほ残月に行く、函谷に鶏鳴く。」という漢詩の一部です。
「かやうのこと、めで給ふ。」とては、笑ひ給へど、
(大納言殿は私に)「あなたはこのようなことを、お褒めになる。」とおっしゃってはお笑いになるけれども、
| 「かやう |
ナリ活用の形容動詞「かやうなり」の語幹(このような)
|
| の | 格助詞 |
| こと、 | 名詞 |
| めで | ダ行下二段活用動詞「めづ」(褒める)連用形 |
| 給ふ。」 |
ハ行四段活用補助動詞「給ふ」終止形 【尊敬】大納言→筆者への敬意
|
| とて | 格助詞 |
| は、 | 係助詞 |
| 笑ひ |
ハ行四段活用動詞「笑ふ」(笑う)連用形
|
| 給へ |
ハ行四段活用補助動詞「給ふ」已然形 【尊敬】筆者→大納言への敬意
|
| ど、 | 接続助詞 |
いかでか、なほをかしきものをば。
どうしてやはり趣のあるものを素晴らしいと褒め申さずにいられようか、いや、いられない。
| いかで | 副詞(どうして) |
| か、 | 【反語】係助詞 結び:省略されている |
| なほ | 副詞(やはり) |
| をかしき | シク活用の形容詞「をかし」(趣がある)連体形 |
| もの | 名詞 |
| を | 格助詞 |
| ば。 | 係助詞 |

ここは「なほをかしきものをば」のあとに「めで聞こえざらむ」などが省略されていると考えて現代語訳をしましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は前半と後半にわけて、「大納言殿参り給ひて」を解説しました。
前後半を通して見えてくるのは、大納言殿(藤原伊周)の類まれなる知性とセンス、そしてそれを完璧に理解し愛でる清少納言の卓越した感性です。
単に古典知識を鼻にかけるのではなく、「いま、この瞬間」の空気や景色に合わせて知識を最高のエンターテインメントに変える—それこそが大納言殿の粋なところですね。
そして、その一瞬のひらめきや言葉の裏にある風流さを逃さずキャッチし、「すばらしい!」「やっぱり褒めずにはいられない!」と心を躍らせる清少納言。
また眠ってしまった帝を中宮と笑いあう様子や、自分のことをベタ褒めする清少納言を笑って受け流す様子からは、大納言殿の人懐っこい魅力と、落ち着いた心の広さがうかがえます。
二人のやり取りは、千年の時を超えた今読んでも色あせない「知的な会話のハイセンスさ」に満ちているとは思いませんか?
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