徒然草より第五十一段「亀山殿の御池に」について解説をしていきます。
徒然草とは、鎌倉時代末期に兼好法師によって書かれた随筆です。
兼好法師が日常生活の中で見たり聞いたりしたことを、書いています。
今回のお話は、ある時、後嵯峨上皇が亀山御所の池に水車を造らせるというお話です。
依頼を受けた大井の土民が作った水車と、その後に宇治の里人が作った水車との違いにも注目しましょう。
この記事では
・本文(読み仮名付き)
・品詞分解と語句解説
・現代語訳
・本文の解説
以上の内容を順番にお話していきます。
徒然草「亀山殿の御池に」品詞分解・現代語訳・解説
本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳
亀山殿の御池に、大井川の水をまかせられんとて、
語句 | 意味 |
亀山殿 | 名詞(亀山御所。後嵯峨上皇が設置した。天皇の隠れ家としての意味もあった。) |
の | 格助詞 |
御池 | 名詞 |
に、 | 格助詞 |
大井川 | 名詞(京都府を流れ、淀川に合流する川。大堰川のこと。) |
の | 格助詞 |
水 | 名詞 |
を | 格助詞 |
まかせ | サ行下二段活用動詞「まかす」(池などに水を引き入れる)未然形 |
られ | 尊敬の助動詞「らる」未然形【尊敬】作者→後嵯峨上皇への敬意 |
ん | 意志の助動詞「む(ん)」終止形 |
とて、 | 格助詞 |
【訳】亀山御所のお池に、大井川の水を引き入れなさろうとして、
ここでは、主語が省略されています。
敬語表現と「亀山殿」という言葉から、ここでの主語は「後嵯峨上皇」とわかります。
大井の土民に仰せて、
語句 | 意味 |
大井 | 名詞 |
の | 格助詞 |
土民 | 名詞(その土地に住む住民。百姓、人々。) |
に | 格助詞 |
仰せ | サ行下二段活用動詞「仰す」(お命じになる)連用形【尊敬】作者→後嵯峨上皇への敬意 |
て、 | 接続助詞 |
【訳】大井川周辺に住む住民にお命じになり、
水車を造らせられけり。
語句 | 意味 |
水車 | 名詞(田に水をくみ上げる装置) |
を | 格助詞 |
造ら | ラ行四段活用動詞「造る」未然形 |
せ | 使役の助動詞「す」未然形 |
られ | 尊敬の助動詞「らる」連用形 |
けり。 | 過去の助動詞「けり」終止形 |
【訳】水車を造らせなさった。
多くの銭を賜ひて、数日に営み出だして、掛けたりけるに、
語句 | 意味 |
多く | ク活用の形容詞「多し」連用形 |
の | 格助詞 |
銭 | 名詞(お金) |
を | 格助詞 |
賜ひ | ハ行四段活用動詞「賜ふ」(お与えになる)連用形【尊敬】作者→後嵯峨上皇への敬意 |
て、 | 接続助詞 |
数日 | 名詞 |
に | 格助詞 |
営み出だし | サ行四段活用動詞「営み出だす」(作り出す)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
掛け | カ行下二段活用動詞「掛く」(設置する)連用形 |
たり | 完了の助動詞「たり」連用形 |
ける | 過去の助動詞「けり」連体形 |
に、 | 接続助詞 |
【訳】多くのお金をお与えになって、数日で作り出して、(水車を)設置したが、
「掛く」はかける、渡すなど多くの意味があります。
ここでは「設置する」と訳しました。
「数日で」と言うのは、どのように捉えるといいのでしょうか?
私たちの感覚だと「数日で」は短い日数に感じられますね。
しかし、ここでは「たくさんの日数」という意味になります。
おほかた廻らざりければ、とかく直しけれども、
語句 | 意味 |
おほかた | 副詞全く~ない |
廻ら | ラ行四段動詞「廻る」(回る)未然形 |
ざり | 打消の助動詞「ず」連用形 |
けれ | 過去の助動詞「けり」已然形 |
ば、 | 接続助詞→已然形+「ば」【順接確定条件】~ので |
とかく | 副詞(色々と) |
直し | サ行四段活用動詞「直す」連用形 |
けれ | 過去の助動詞「けり」已然形 |
ども、 | 接続助詞→已然形+「ども」【逆接確定条件】~けれども、~だが |
【訳】全く回らなかったので、いろいろと直したけれども、
つひに回らで、いたづらに立てりけり。
語句 | 意味 |
つひに | 副詞(結局、とうとう) |
回ら | |
で、 | 接続助詞(~ないで) |
いたづらに | ナリ活用の形容動詞「いたづらなり」(役に立たない)連用形 |
立て | タ行四段活用動詞「立つ」已然形 |
り | 存続の助動詞「り」連用形 |
けり。 | 過去の助動詞「けり」終止形 |
【訳】とうとう(水車は)回らないで、役に立たないで立っていた。
「役に立たないのに立っている」という、皮肉を込めたダジャレのようですね。
さて、宇治の里人を召して、こしらへさせられければ、
語句 | 意味 |
さて、 | 接続詞(そこで) |
宇治 | 名詞 |
の | 格助詞 |
里人 | 名詞(その土地の住民) |
を | 格助詞 |
召し | サ行四段動詞「召す」連用形【尊敬】作者→後嵯峨上皇への敬意 |
て、 | 接続助詞 |
こしらへ | ハ行下二段動詞「こしらふ」(つくる)未然形 |
させ | 使役の助動詞「さす」未然形 |
られ | 尊敬の助動詞「らる」連用形 |
けれ | 過去の助動詞「けり」已然形 |
ば、 | 接続助詞→已然形+「ば」【順接確定条件】~ので |
【訳】そこで、宇治の住民をお呼びになって、造らせなさったので、
宇治の里人って一体何者ですか!?
古くから「柳、橋、水車」が和歌や絵画に描かれていれば「宇治」と言われていました。
宇治は水車の名所であり、宇治の住民は水車を造る技術を持っていたということです。
やすらかに結ひて参らせたりけるが、
語句 | 意味 |
やすらかに | ナリ活用形容動詞「やすらかなり」(簡単に) |
結ひ | ハ行四段動詞「結ふ」(組み立てる)連用形 |
て | 接続助詞 |
参らせ | サ行下二段動詞「参らす」(献上する)連用形【謙譲】作者→後嵯峨上皇への敬意 |
たり | 完了の助動詞「たり」連用形 |
ける | 過去の助動詞「けり」連体形→「水車」が省略されている |
が、 | 格助詞 |
【訳】簡単に組み立てて献上した水車が、
思ふやうに廻りて、水を汲み入るること、めでたかりけり。
語句 | 意味 |
思ふ | ハ行四段動詞「思ふ」連体形 |
やうに | 比況の助動詞「やうなり」連用形 |
廻り | ラ行四段活用動詞「廻る」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
水 | 名詞 |
を | 格助詞 |
汲み入るる | ラ行下二段動詞「汲み入る」(汲み入れる)連体形 |
こと、 | 名詞 |
めでたかり | ク活用形容詞「めでたし」(見事だ)連用形 |
けり。 | 過去の助動詞「けり」終止形 |
【訳】思いのままに回って、水を汲み入れることが、見事であった。
よろづに、その道を知れる者は、やんごとなきものなり。
語句 | 意味 |
よろづに、 | 副詞(何事につけても) |
そ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
道 | 名詞 |
を | 格助詞 |
知れ | ラ行四段活用動詞「知る」已然形 |
る | 存続の助動詞「り」連体形 |
者 | 名詞 |
は、 | 係助詞 |
やんごとなき | ク活用の形容詞「やんごとなし」(大切だ)連体形 |
もの | 名詞 |
なり。 | 断定の助動詞「なり」終止形 |
【訳】何事につけても、その道を知っている者は、大切なものである。
「大井の土民」と「宇治の里人」の比較
それでは本文の内容を確認していきましょう。
「大井の土民」と「宇治の里人」がそれぞれ水車を作る、出来上がったものは下記の通りです。
水車 | 大井の土民 | 宇治の里人 |
作る | ・たくさんのお金をかけた
・日数をかけた |
簡単に組み立てた |
結果 | ・全く回らない
・色々と直してはみたが、とうとう回らない |
思いのままに回った |
評価 | 役に立たないで立っていた | 見事だった |
大井の土民は、お金と日数をかけたものの水車は回りませんでした。
それに対して宇治の土民は、いともたやすく作りあげ、見事に水を汲み上げました。
このことから、作者が言いたかったことはどのようなことだったのでしょうか。
筆者が主張したいことは何か?
この話を通じて、筆者が主張したいことは、この一文に込められています。
「よろづに、その道を知れる者は、やんごとなきものなり。」
意味は、何事につけても、その道を知っている者(専門家)は大切なものである ということです。
後嵯峨上皇は大井川の水を汲み入れたかったので、大井川の住民(大井の土民)に水車を作らせました。
多くのお金を渡し、日数をかけて作り上げたものは役に立たない水車。
そこで結局、水車造りが得意な宇治の住民(宇治の里人)を呼んで作らせたのです。
すると、簡単に組み立て、思いのままに回り、見事に水を汲み上げたのでした。
私には、筆者が後嵯峨上皇を批判しているように感じられます。
確かに、最初から上皇が宇治の里人に造らせるという決断をしていれば、無駄なお金も時間もかけずに済みましたからね。
徒然草には後嵯峨上皇が何度か登場します。
皮肉やユーモアが含まれているのが、徒然草の特徴でもありますので、後嵯峨上皇への皮肉も込められていたのかもしれませんね。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は徒然草より「亀山殿の御池に」のお話を紹介しました。
大井の土民と宇治の里人が水車を造る様子を比較し、「よろづに、その道を知れる者は、やんごとなきものなり。」という一文に筆者の主張が込められていることがわかりました。
また徒然草の性質から、そこには後嵯峨上皇への皮肉も込められていたとも考えられます。
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