今鏡「用光と白波」現代語訳と解説

古文

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今回は『今鏡』より「用光もちみつ白波しらなみ」についてです。

本文、現代語訳、品詞分解とその語句の意味はもちろん、内容をわかりやすく解説します。

大事なポイントもしっかり押さえていきます。

これで授業の予習はバッチリです!

まずはざっくり内容を押さえたいという方は、「あずき的 超現代語訳」から読むことをオススメします。

では、本文の内容をみていきましょう。

「用光と白波」原文・現代語訳

『今鏡」から「用光と白波」の原文と現代語訳をご紹介します。

「用光と白波」原文(漢字のふりがなは現代仮名遣いで表記)

用光もちみつが、相撲すまい使つかいに西にしくにくだりけるに、吉備国きびのくにのほどにて、おき白波しらなみて、ここにていのちえぬべくえければ、褐衣かちかぶりなどうるはしくして、屋形やかたうえでてりけるに、白波しらなみふねせければ、そのとき用光もちみつ篳篥ひちりきだして、うらみたるこえに、えならずきすましたりければ、白波しらなみども、おのおのかなしみのこころおこりて、かづけものどもをさへして、はなれてりにけりとなむ。

さほどのことわりもなき武士もののふさへ、なさけかくばかり、かせけむもありがたく、またむかし白波しらなみは、なほかかるなさけなむありける。

 

「用光と白波」現代語訳

用光が相撲の使いとして西海道の諸国へ下向した時に、吉備国の辺りで、海賊が出てきて、(用光は)ここで命も絶えてしまうに違いないと思われたので、褐衣、冠などをきちんとして、船の屋形の上に出て座っていたところ、海賊の船が漕いで近寄ってきたので、その時、用光は篳篥を取り出して、悲しみ嘆くような音色で何とも言えないほど素晴らしく心を集中して吹いたので、海賊たちはそれぞれ悲しく思う気持ちが生じて、褒美の品々まで渡して船を漕いで遠ざかって立ち去ったと。

それほど物事の道理をわきまえない武士(海賊)でさえも、(用光に)情けをかけてしまうほど、(用光が篳篥を)吹いて聞かせたとかいうこともめったになく、また昔の海賊は、やはりこのような風流を理解する心があったのだ。

 

「用光と白波」品詞分解と単語・語句の解説

古語 品詞・意味
用光 名詞/和邇部用光わにべのもちみつ。篳篥の名手。
格助詞
相撲の使ひ

名詞/相撲の節の為に諸国から相撲人(力士)を集める使者。
左右近衛府の官人があたった。
※相撲の節…毎年7月に天皇が相撲観覧をする行事

格助詞
西の国 名詞/西海道の諸国。
大宰府が統括していた、今の九州地方全域を指す。
格助詞
下り ラ行四段動詞「下る」連用形/都から地方へ行く
ける 助動詞【過去】「けり」連体形
格助詞
吉備国 現在の岡山県と広島県東部を含む国
格助詞
ほど 名詞/辺り
にて 格助詞/~で
沖つ白波 名詞/本来の意味は「海に立つ白い波」。
また「白波」には「盗賊の別称」という意味がある。
「沖つ(海の)」とあるので「海賊」の意味となる。
立ち カ変動詞「立ち」連用形/出てくる
接続助詞
ここ 代名詞
にて 格助詞
名詞
係助詞
絶え 下二段動詞「絶ゆ」連用形/絶える
助動詞【強意】「ぬ」終止形
べく 助動詞【推量】「べし」連用形
※「ぬべし」…きっと~だろう、~してしまうに違いない
見え ヤ行下二段動詞「見ゆ」連用形/思われる
けれ 助動詞【過去】「けり」已然形
接続助詞
※已然形+ば…【順接確定条件】~ので、~から
褐色 名詞/貴族の衣服の一種
名詞/頭にかぶるもの
など 副助詞
うるはしく シク活用形容詞「うるはし」連用形/きちんとしている
サ変動詞「す」連用形
接続助詞
屋形 名詞/船の屋形
格助詞
名詞
格助詞
出で ダ行下二段動詞「出づ」連用形
接続助詞
居り ラ変動詞「居り」連用形/座っている
ける 助動詞【過去】「けり」連体形
接続助詞
白波 名詞/海賊
格助詞
名詞
漕ぎ寄せ サ行下二段動詞「漕ぎ寄す」連用形/漕いで近づける
けれ 助動詞【過去】「けり」已然形
接続助詞
※已然形+ば…【順接確定条件】~ので、~から
代名詞
格助詞
名詞 
用光 名詞
篳篥 名詞/雅楽や神楽などに使用する縦笛。オーボエに近い構造をしている。
取り出だし サ行四段動詞「取り出だす」連用形/取り出す
接続助詞
うらみ マ行上二段動詞「うらむ」連用形/悲しむ、嘆く
たる 助動詞【存続】「たり」連体形
楽器の音色
格助詞
副詞
なら ラ行四段動詞「なる」未然形
助動詞【打消】「ず」連用形
※えならず…何とも言えないほど素晴らしい
吹きすまし サ行四段動詞「吹きすます」連用形/心を集中して吹く
たり 助動詞【完了】「たり」連用形
けれ 助動詞【過去】「けり」已然形
接続助詞
※已然形+ば…【順接確定条件】~ので、~から
白波ども 名詞/海賊たち
おのおの 副詞/それぞれ
悲しみの心 名詞/悲しく思う気持ち
おこり ラ行四段動詞「起こる」連用形/生じる
接続助詞
かづけ物ども 名詞/かづけ物…褒美の品+ども…複数を表す接尾語→褒美の品々
格助詞
さへ 副助詞/その上~までも
サ変動詞「す」連用形
接続助詞
漕ぎ離れ ラ行下二段動詞「漕ぎ離る」連用形/船を漕いで遠ざかる
接続助詞
去り ラ行四段動詞「去る」連用形/立ち去る
助動詞【完了】「ぬ」連用形
けり 助動詞【過去】「けり」終止形
格助詞
なむ 係助詞【強調】
(言ひける) 結び(連体形)の省略
副詞/このように
ほど 名詞/様子
※さほど…そんなに~ない 
格助詞
名詞/物事の道理 
係助詞
なき ク活用形容詞「なし」連体形/ない
武士 名詞/武士。ここでは海賊を指している。
さへ 副助詞/~でさえも
情け 名詞/思いやり、情け
かく カ行下二段動詞「かく」終止形/かける
ばかり 副助詞/~ほど
吹き カ行四段動詞「吹く」連用形/笛を吹く
聞か カ行四段動詞「聞く」未然形/聞く
助動詞【使役】「す」連用形
けむ 助動詞【過去伝聞】「けむ」/~だとか言う
係助詞
ありがたく ク活用形容詞「ありがたし」連用形/滅多にない
また 接続詞
名詞
格助詞
白波 名詞/海賊
係助詞
なほ 副詞/やはり
かかる ラ変動詞「かかり」連体形/このようである
※副詞「かく」+ラ変動詞「あり」=「かくあり」→「かかり」
情け 名詞/風流を理解する心
なむ 係助詞【強調】
あり ラ変動詞「あり」連体形/ある
ける 助動詞【過去】「けり」連体形※係り結び

いかがでしたでしょうか?

言葉が難しかったり、主語の省略により「???」となったところはありませんでしたか?

次はちょっとくだけた、私の解釈を入れた現代語訳をご紹介します。

あずき的 超現代語訳

和邇部用光っていう人が、天皇が相撲観覧するって言うから全国から選りすぐりの力士を参加させるために、京都から西の国へ向かっていたの。

そしたら吉備国のあたりで海賊が出てきて。
ほらこの辺って土佐日記でもあったけどさ、海賊の出没スポットとしても有名なわけ。
案の定、出ちゃったって感じ。

そこで「詰んだ~」と思った用光は、「最期に篳篥の吹き納めをしよう…」と覚悟を決めた。
服装を整えて船の上で篳篥を吹く。
人生最後の舞台は船の屋形。観客は海賊たち。

篳篥の音って、清少納言は「くつわむしの声みたい」とか言ったりして日本人の好みには合わないって言われたりもした。
雅楽とか神楽に使われる楽器なのに。

そんな篳篥を吹き続けて来た用光。
最期の舞台では、ここで自分の命が終わることを恨むような、嘆きのような悲痛な音色…
自分の命を懸けて演奏したわけ。

そしたら海賊たちは、その用光の篳篥があまりに悲しい叫びのように聞こえて、悲しい気持ちになったんだって。
最終的に海賊たちは「良い演奏聞かせてくれてありがとね」と言ったかどうかはわからないけど、用光に褒美まで渡して去っていったとさ。

本来は道理なんてのもなく、はちゃめちゃな海賊。
彼らが情けをかけちゃうほど、用光の演奏は素晴らしかったんだよね。
用光がこんなに素晴らしい演奏をしたっていうのも、これまで聞いたことがなかった。
とにかくすごかったんだって。

それで結局何を言いたいかって言うと、用光の篳篥のすばらしさを感じ取ることができた海賊が素晴らしいよねって話。
もちろん、海賊を改心させるほどの篳篥の技術を持った用光がすごいってことも言ってはいるんだけど。

昔の海賊はそんな風流を理解できたのよ。
いい時代だったよね。
王朝文化、最高!!

ってな感じ。

 

 

では続いて、この作品で問われるポイントについてしっかりと確認していきましょう。

ポイント

「用光と白波」において聞かれるポイントを確認しましょう。

 

1. 船が海賊に襲われた用光は、どのような気持ちで「褐衣、冠などうるはしくして」篳篥を吹いたのか?

「ここで自分の命が終わってしまう」と死を覚悟したんですよね。

そうですね。

用光は、死ぬ前に身なりを正して篳篥の吹き納めをしようという気持ちだったということがわかります。

 

 

2.海賊たちは用光に「かづけ物」をくれたのはなぜか?

 

用光の篳篥に感動したならば、命を助けるだけで良かった気がしますね。

それだけじゃ足りなくて、「こんな素晴らしい演奏、タダで聞いては申し訳ない」という気持ちだったということでしょうか?

そうですね。

用光の篳篥の演奏があまりにも素晴らしくて心が打たれたんですね。
そこで命を助けるだけでなく、褒美の品まで与えたのでした。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか?

「用光と白波」が載っている『今鏡』は、平安時代末期に成立した、歴史物語です。
150歳超えの老婆から聞いた話を書いたという、形式をとっています。

内容は叙情的で貴族の華麗な生活を中心としていて、政治的な話や社会的な話は意識的に深入りしなかったそうです。
そこには王朝文化の華やかな時代を「あの時代は良かったよね」と描く意図がありました。

「用光の篳篥の演奏の素晴らしいのはもちろんだけど、昔の海賊はそれを感じ取ることができたんだぞ」

これが最後の段落で語られていることでした。

「昔のあの時代は良かったよね」と語る人がいるのは、いつの世も同じということでしょうか。

この記事を書いた人
あずき

40代、一児の母
通信制高校の国語教員

生徒が「呪文にしか見えない」という古文・漢文に、少しでも興味を持ってもらえたらと作品についてとことん調べています。

自分の生徒には直接伝えられるけど、
聞きたくても聞けない…などと困っている方にも届けたくて、ブログを始めました。

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