平家物語より「木曽の最期②兼平の最後の戦い」について解説をしていきます。
平家物語とは、鎌倉時代前期に成立した文学作品です。
前回は、今井四郎が戦況を冷静に判断し、主君に自害を勧めました。
前回の話:平家物語「木曽の最期①義仲と兼平の別れ」
今回はそれを受け入れた義仲と別れた後、今井四郎兼平の勇ましい戦いの様子が語られています。
この記事では
・本文(読み仮名付き)
・品詞分解と語句解説
・現代語訳
・本文の解説
以上の内容を順番にお話していきます。
平家物語「木曽の最期②兼平の最後の戦い」品詞分解・現代語訳・解説
本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳
今井四郎ただ一騎、五十騎ばかりが中へ駆け入り、
語句 | 意味 |
今井四郎、 | 名詞(兼平。義仲の養育役だった人物の子) |
ただ | 副詞(ただ) |
一騎、 | 名詞 |
五十騎 | 名詞 |
ばかり | 副助詞(~ほど) |
が | 格助詞 |
中 | 名詞 |
へ | 格助詞 |
駆け入り、 | ラ行四段活用動詞「駆け入る」(馬を走らせて突入する)連用形 |
【訳】今井四郎はたった一騎で、五十騎ほどの中へ突入して行き、
前回、新しい敵が五十騎ばかり出てきたとありました。
それに対して義仲は粟津の松原へと向かったので、対するのは兼平ただ一人です。
たった一人でそこへ突っ込んで行ったのですね!
鎧ふんばり立ち上がり、大音声あげて名のりけるは、
語句 | 意味 |
鎧 | 名詞(馬具。馬に乗る時に足をかけるもの) |
ふんばり | ラ行四段活用動詞「ふんばる」連用形 ※「ふみはる」の音便 |
立ち上がり、 | ラ行四段活用動詞「立ち上がる」連用形 |
大音声 | 名詞(大きな声) |
あげ | ガ行下二段活用動詞「あぐ」(声をあげる)連用形 |
て | 接続助詞 |
名のり | ラ行四段活用動詞「名のる」連用形 |
ける | 過去の助動詞「けり」連体形 |
は、 | 係助詞 |
【訳】鐙を踏ん張って立ち上がり、大きな声をあげて名乗ったことには、
すでに敵に囲まれている状態ですね…。
そこで名乗りをあげて、自分の存在を知らしめています。
「日ごろは音にも聞きつらん、今は目にも見給へ。
語句 | 意味 |
「日ごろ | 名詞(ふだん) |
は | 係助詞 |
音 | 名詞(噂、評判) |
に | 格助詞 |
も | 係助詞 |
聞き | カ行四段活用動詞「聞く」連用形 |
つ | 強意の助動詞「つ」終止形 |
らん、 | 現在推量の助動詞「らむ」終止形 |
今 | 名詞 |
は | 係助詞 |
目 | 名詞 |
に | 格助詞 |
も | 係助詞 |
見 | マ行上一段活用動詞「見る」連用形 |
給へ。 | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」命令形【尊敬】今井四郎→敵への敬意 |
【訳】「普段は噂でもきっと聞いていただろう、今は自分の目で見なされ。
木曽殿の御めのと子、今井四郎兼平、生年三十三にまかりなる。
語句 | 意味 |
木曽殿 | 名詞 |
の | 格助詞 |
御めのと子、 | 名詞(義仲を育てた人の子ども) |
今井四郎兼平、 | 名詞 |
生年 | 名詞(年齢) |
三十三 | 名詞 |
に | 格助詞 |
まかりなる。 | ラ行四段活用動詞「まかりなる」(「なる」の謙譲語)終止形【謙譲】今井四郎→敵 |
【訳】木曽殿の乳母後、今井四郎兼平、年齢は33歳になり申す。
めのと子とは何ですか?
めのと子とは、貴族や武家の子どもを養う後見人を言います。
義仲の親は早くに亡くなり、代わって育てていたのが兼平の父だったのです。
幼い頃から義仲と兼平は一緒に育ちました。
兼平はこのとき33歳とのことですが、義仲は何歳だったのですか?
義仲は31歳でした。
主君とめのと子は、実の兄弟よりも強い絆で結ばれてました。
さる者ありとは、鎌倉殿までも知ろし召されたるらんぞ。
語句 | 意味 |
さる | 連体詞(そういう) |
者 | 名詞 |
あり | ラ行変格活用動詞「あり」終止形 |
と | 格助詞 |
は、 | 係助詞 |
鎌倉殿 | 名詞(源頼朝を指す) |
まで | 副助詞 |
も | 係助詞 |
知ろし召さ | サ行四段活用動詞「知ろし召す」(「知る」の尊敬語)未然形【尊敬】今井四郎→鎌倉殿への敬意 |
れ | 尊敬の助動詞「る」連用形 |
たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
らん | 現在推量の助動詞「らむ」連体形 |
ぞ。 | 終助詞 |
【訳】そういう者がいると、鎌倉殿までもご存知であろうぞ。
「さる者」とは単に「そういう者」というだけではなく、「大した者」という意味が含まれています。
兼平討つて見参に入れよ。」
語句 | 意味 |
兼平 | 名詞 |
討つ | タ行四段活用動詞「討つ」連用形 |
て | 接続助詞 |
見参 | 名詞(お目にかかること) |
に | 格助詞 |
入れよ。」 | ラ行下二段活用動詞「入る」命令形 |
【訳】兼平を討って(その首を鎌倉殿に)ご覧に入れよ。
「見参に入れよ」で「御覧に入れよ、お目にかけよ」という意味になります。
「やれるものならやってみろ!」と挑発的なことを言っています。
なぜ負けることが明らかなのに、このような態度をとるのでしょうか?
この時の兼平は、主君である義仲の名誉を守りたい一心でした。
名誉を守るとは、義仲に自害を遂げさせることです。
松原に到着するまでの時間稼ぎをするために、自分に敵の注目を集めようとしたのですね。
自分が有名な人物だとあおることで、敵が義仲から自分に意識をむけるようにしたのです。
とて、射残したる八筋の矢を、さしつめ引きつめ、さんざんに射る。
語句 | 意味 |
とて、 | 格助詞 |
射残し | サ行四段活用動詞「射残す」連用形 |
たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
八筋 | 名詞(八本) |
の | 格助詞 |
矢 | 名詞 |
を、 | 格助詞 |
さしつめ | マ行下二段活用動詞「さしつむ」(矢を次々つがえる)連用形 |
引きつめ、 | マ行下二段活用動詞「引きつむ」(続けざまに弓を引く)連用形 |
さんざんに | ナリ活用の形容動詞「さんざんなり」(激しい様子)連用形 |
射る。 | ヤ行上一段活用動詞「射る」終止形 |
【訳】と言って、射残している八本の矢を、つがえては弓を引き、激しく射る。
死生は知らず、やにはに、敵八騎射落とす。
語句 | 意味 |
死生 | 名詞(生き死に) |
は | 係助詞 |
知ら | ラ行四段活用動詞「知る」(わかる)未然形 |
ず、 | 打消の助動詞「ず」連用形 |
やにはに、 | 副詞(即座に) |
敵 | 名詞 |
八騎 | 名詞(八騎) |
射落とす。 | サ行四段活用動詞「射落とす」終止形 |
【訳】(射られた者の)生き死には分からないが、即座に敵を八騎射落とした。
八本の矢を討って、八騎を射落としたということは全て命中したということですね。
その後打ち物抜いて、あれに馳せ合ひ、これに馳せ合ひ、切つて回るに、面を合はする者ぞなき。
語句 | 意味 |
そ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
後 | 名詞 |
打ち物 | 名詞(太刀のこと) |
抜い | カ行四段活用動詞「抜く」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
あれ | 代名詞 |
に | 格助詞 |
馳せ合ひ | ハ行四段活用動詞「馳せ合ふ」(馬を走らせて敵と向かい合う)連用形 |
これ | 代名詞 |
に | 格助詞 |
馳せ合ひ、 | ハ行四段活用動詞「馳せ合ふ」(馬を走らせて敵と向かい合う)連用形 |
切つ | ラ行四段活用動詞「切る」連用形 |
て | 接続助詞 |
回る | ラ行四段活用動詞「回る」連体形 |
に、 | 格助詞 |
面 | 名詞 |
を | 格助詞 |
合はする | サ行下二段活用動詞「合はす」 |
※面を合わす | 【連語】正面から立ち向かう |
者 | 名詞 |
ぞ | 係助詞 ※結び:なき |
なき。 | ク活用の形容詞「なし」連体形【係り結び】 |
【訳】その後は太刀を抜いて、あちらに馬を走らせて敵と戦い、こちらに馬を走らせて敵と戦い、斬って回るが、正面から立ち向かう者はいない。
手元にあった矢を全て打ったので、次は太刀で敵を倒したのですね。
分捕りあまたしたりけり。
語句 | 意味 |
分捕り | 名詞(敵の首を取ること) |
あまた | 副詞(たくさん) |
し | サ行変格活用動詞「す」連用形 |
たり | 完了の助動詞「たり」連用形 |
けり。 | 過去の助動詞「けり」終止形 |
【訳】敵の首をたくさん取った。
ただ、「射取れや。」とて、中に取り込め、
語句 | 意味 |
ただ、 | 副詞 |
「射取れ | ラ行四段活用動詞「射取る」(矢で討ち取る)命令形 |
や。」 | 間投助詞 |
とて、 | 格助詞 |
中 | 名詞 |
に | 格助詞 |
取り込め、 | マ行下二段活用動詞「取り込む」(取り囲む)連用形 |
【訳】(敵は)ただ「射殺せ!」と言って、(兼平を)中に取り囲んで、
兼平の気迫に圧倒されて近づけずにいる敵は、遠くから矢を放って攻撃をしかけます。
雨の降るやうに射けれども、鎧よければ裏かかず、あき間を射ねば手も負はず。
語句 | 意味 |
雨 | 名詞 |
の | 格助詞 |
降る | ラ行四段活用動詞「降る」連体形 |
やうに | 比況の助動詞「やうなり」連用形 |
射 | ワ行上一段活用動詞「射る」連用形 |
けれ | 過去の助動詞「けり」已然形 |
ども、 | 接続助詞 |
鎧 | 名詞 |
よけれ | ク活用の形容詞「よし」已然形 |
ば | 接続助詞 |
裏かか | カ行四段活用動詞「裏かく」(裏まで通る)未然形 |
ず、 | 打消の助動詞「ず」連用形 |
あき間 | 名詞(隙間) |
を | 格助詞 |
射 | ワ行上一段活用動詞「射る」未然形 |
ね | 打消の助動詞「ず」已然形 |
ば | 接続助詞 |
手 | 名詞(痛手) |
も | 係助詞 |
負は | ハ行四段活用動詞「負ふ」未然形 |
ず。 | 打消の助動詞「ず」終止形 |
【訳】雨が降るように矢を射たが、鎧が良いので裏まで通らず、(敵は鎧の)隙間を射なかったので、痛手も負わない。
ここでの「鎧」は馬具の「あぶみ」ではなく、防具である「よろい」であることを押さえましょう。
たくさんの敵が、兼平に向けて矢を放ったのですね。
主君である義仲への思いが、強く感じられます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は平家物語より「木曽の最期②兼平の最後の戦い」を解説しました。
義仲と別れた兼平が、たった一人で敵に挑み、勇ましく戦った場面でした。
とても迫力のある場面でしたね。
義仲に自害を遂げさせるために、自分は高らかに名乗り、敵の注目を集めました。
主君を思う兼平の気持ちに、ジーンと来るものがあります。
次はいよいよ二人の最期の場面になりますので、注目してください。
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