「さては、扇のにはあらで、くらげのななり。」と聞こゆれば、
「さては、 | 接続詞(それでは、それなら |
扇 | 名詞 |
の | 格助詞 |
に | 【断定】助動詞「なり」連用形 |
は | 係助詞 |
あら | ラ行変格活用動詞「あり」未然形 |
で、 | 【打消接続】接続助詞(~ないで、~なくて) |
くらげ | 名詞 |
の | 格助詞 |
ななり。」 | 【断定】助動詞「なり」連体形「なる」+【伝聞推定】助動詞「なり」 →撥音便化「なんなり」の「ん」を表記しない形(~であるようだ) |
と | 格助詞 |
聞こゆれ | ヤ行下二段活用動詞「聞こゆ」已然形(申し上げる) 【謙譲】作者→隆家 |
ば、 | 【偶然的条件】接続助詞(~と、~たところ) |
【訳】(清少納言は)それなら、扇の(骨)ではなくて、くらげの(骨)であるようですね。」と申し上げたところ、
ここも主語が省略されていますが、このセリフは作者である清少納言のものです。
「くらげの骨=見たこともないもの」という、うまい表現をしたのでした。
「これは隆家が言にしてむ。」とて、笑ひ給ふ。
「これ | 代名詞 |
は | 係助詞 |
隆家 | 名詞 |
が | 格助詞 |
言 | 名詞(言葉※ここでは「言ったこと」と訳) |
に | 格助詞 |
し | サ行変格活用動詞「す」 |
て | 【強意】助動詞「つ」未然形 |
む。」 | 【意志】助動詞「む」終止形 |
と | 格助詞 |
て、 | 接続助詞 ※とて(~と言って) |
笑ひ | ハ行四段活用動詞「笑ふ」連用形 |
給ふ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」終止形 【尊敬】作者→隆家 |
【訳】(中納言は)「これは隆家が言ったことにしてしまおう。」と笑いなさる。
かやうのことこそは、かたはらいたきことのうちに入れつべけれど、
かやう | ナリ活用形容動詞「かやうなり」語幹(このようだ) |
の | 格助詞 |
こと | 名詞 |
こそ | 【強意】係助詞 |
は、 | 係助詞 |
かたはらいたき | ク活用形容詞「かたはらいたし」連体形(きまりが悪い) |
こと | 名詞 |
の | 格助詞 |
うち | 名詞(中) |
に | 格助詞 |
入れ | ラ行下二段活用動詞「入る」連用形(含める、加える) |
つ | 【強意】助動詞「つ」終止形 |
べけれ | 【当然】助動詞「べし」已然形 |
ど、 | 【逆接確定条件】接続助詞(~けれども、~が) |
【訳】このようなことは、きまりが悪いことの中に含めるべきだけれども、
先ほど同様に形容動詞の語幹用法が使われています。
ここも連体修飾語として「〇〇の△△」と訳します。
「一つな落としそ。」と言へば、いかがはせむ。
「一つ | 名詞 |
な | 副詞 |
落とし | サ行四段活用動詞「落とす」連用形 |
そ | 終助詞【やわらかい禁止】(~な、~ないでくれ) |
と | 格助詞 |
言へ | ハ行四段活用動詞「言ふ」已然形 |
ば、 | 接続助詞【原因・理由】 |
いかが | 副詞 |
は | 係助詞【強意】 |
せ | サ行変格活用動詞「す」未然形 |
む。 | 【意志】助動詞「む」連体形 |
【訳】(人々が)「一つも落とさないでくれ。」と言うので、どうしようか。いやどうすることもできない。
反語:どうしようか、いやどうすることもできない。
自分としてはきまりが悪いから、枕草子に書かない方がいいと思ったんだけど、みんなが「一つも書き漏らさないで」って言うから、書くしかないの。と言い訳をしているような感じですね。
「かようのこと」ってなんのこと?
中納言 隆家と清少納言のやりとりを簡単にまとめると、以下の通りです。
見たこともないすばらしい骨を見つけたので、定子様に扇にしてプレゼントしようと思ってるんです。
でもね、みんな見たこともないっていうくらいすばらしい骨だから、ふさわしい紙を探してるんだ!(ドヤッ!)
そんなにすばらしい骨ってくらげの骨なんじゃないですか?
(誰も見たことないって言うし、存在しないくらげの骨みたんだもん)
うまいこと言うね~、これは俺が言ったことにしよう!アッハッハッハ!
つまり作者である清少納言は、隆家とのやり取りが面白かった&嬉しかったのでしょう。
でもそれを枕草子に書いたら自慢みたいで、感じが悪い。
「でもみんなが言うから、書いちゃうね」と言い訳をしているのが、最後の一文(「一つな落としそ。」と言へば、いかがはせむ。)になります。
清少納言はどんな人物?
このお話を読むと、清少納言は自慢したがりの人だったのかなと思いますよね。
枕草子には他にもこのような自慢しちゃうお話もありますが、
噂話をしていたら後ろに本人がいて、気まずかった~という話
初めての宮仕えで緊張で泣きそうになった話
などもあります。
感じたことを素直に表現する女性だったのではないでしょうか。
それを巧みに表現する技術・知識・センスがあったのです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は枕草子より「中納言参り給ひて」を取り上げて解説をしました。
一見すると単なる自慢話のようにも感じられるお話。
確かに、清少納言は現代まで残る作品を生みだした優秀な人物でした。
しかし、現代の私たちを同じような失敗をしたり、気まずい経験もしているのです。
そう思うとなんだかよくわからなかった古文も、身近に感じられる気がしませんか?
このお話で古文に少しでも興味を持ってくれたら嬉しいです。
コメント
最初の一文の奉らせたまふ、の、たまふ、のところ敬語だと思うんですけどその説明がないです
コメントありがとうございます。
ご指摘の通り、敬語の種類と敬意の方向が書かれていなかったので、追加しました。
今後ともよろしくお願いいたします。