平家物語より「木曽の最期③義仲の最期と兼平の自害」について解説をしていきます。
平家物語とは、鎌倉時代前期に成立した文学作品です。
前回は、今井四郎が義仲に自害を遂げさせるために、たった一騎で五十騎相手に立ち向かったという場面でした。
これまでの話
今回はその後、義仲と兼平がどうなったのかについて語られています。
この記事では
・本文(読み仮名付き)
・品詞分解と語句解説
・現代語訳
・本文の解説
以上の内容を順番にお話していきます。
平家物語「木曽の最期③義仲の最期と兼平の自害」品詞分解・現代語訳・解説
本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳
木曽殿はただ一騎、粟津の松原へ駆け給ふが、
語句 | 意味 |
木曽殿 | 名詞 |
は | 係助詞 |
ただ | 副詞 |
一騎、 | 名詞 |
粟津 | 名詞 |
の | 格助詞 |
松原 | 名詞 |
へ | 格助詞 |
駆け | カ行下二段活用動詞「駆ける」(馬を走らせる)連用形 |
給ふ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連体形【尊敬】作者→木曽殿への敬意 |
が、 | 接続助詞 |
【訳】木曽殿はただ一騎で、粟津の松原へ馬を走らせなさったが、
正月二十一日、入相ばかりのことなるに、薄氷は張つたりけり、
語句 | 意味 |
正月 | 名詞(一月) |
二十一日、 | 名詞 |
入相 | 名詞(太陽が沈むころ、夕方) |
ばかり | 副助詞(~ぐらい) |
の | 格助詞 |
こと | 名詞 |
なる | 断定の助動詞「なり」連体形 |
に、 | 接続助詞 |
薄氷 | 名詞 |
は | 係助詞 |
張つ | ラ行四段活用動詞「張る」連用形 促音便 |
たり | 存続の助動詞「たり」連用形 |
けり、 | 過去の助動詞「けり」終止形 |
【訳】一月二十一日の、夕方ぐらいのことであるので、(田の表面に)薄氷が張っていて、
深田ありとも知らずして、馬をざつとうち入れたれば、馬の頭も見えざりけり。
語句 | 意味 |
深田 | 名詞(泥の深い田) |
あり | ラ行変格活用動詞「あり」終止形 |
と | 格助詞 |
も | 係助詞 |
知ら | ラ行四段活用動詞「知る」(わかる、気付く)未然形 |
ず | 打消の助動詞「ず」連用形 |
して、 | 接続助詞 |
馬 | 名詞 |
を | 格助詞 |
ざっと | 副詞(さっと) |
うち入れ | ラ行下二段活用動詞「うち入る」(駆け入る)連用形 |
たれ | 完了の助動詞「たり」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
馬 | 名詞 |
の | 格助詞 |
頭 | 名詞 |
も | 係助詞 |
見え | ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」未然形 |
ざり | 打消の助動詞「ず」連用形 |
けり。 | 過去の助動詞「けり」終止形 |
【訳】泥の深い田があるとも気付かなくて、馬をさっと駆け入れたので、(田に沈んでしまって)馬の頭も見えなくなった。
馬の頭が見えなくなるほど、深い田んぼにはまってしまったのですね。
どうなるのでしょうか…
あふれどもあふれども、打てども打てども働かず。
語句 | 意味 |
あふれ | ラ行四段活用動詞「あふる」(鐙で馬の腹を蹴る)已然形 |
ども | 接続助詞 |
あふれ | ラ行四段活用動詞「あふる」已然形 |
ども、 | 接続助詞 |
打て | タ行四段活用動詞「打つ」(馬を打つ)已然形 |
ども | 接続助詞 |
打て | タ行四段活用動詞「打つ」已然形 |
ども | 接続助詞 |
働か | カ行四段活用動詞「働く」(動く)未然形 |
ず。 | 打消の助動詞「ず」終止形 |
【訳】鐙で馬の腹を蹴っても蹴っても、(鞭で)馬を打っても打っても動かない。
抜け出そうと必死で馬を動かそうとしたのですね。
その努力も空しく、馬は動きませんでした…
今井が行方のおぼつかなさに、振り仰ぎ給へる内甲を、
語句 | 意味 |
今井 | 名詞 |
が | 格助詞 |
行方 | 名詞 |
の | 格助詞 |
おぼつかなさ | 名詞(気がかりであること) |
に、 | 格助詞 |
振り仰ぎ | ガ行四段活用動詞「振り仰ぐ」(上を向く)連用形 |
給へ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」已然形【尊敬】作者→木曽殿への敬意 |
る | 完了の助動詞「り」連体形 |
内甲 | 名詞(かぶとの内側、顔面のことを指す) |
を、 | 格助詞 |
【訳】今井の行方が気がかりで、上を向きなさった顔面を、
三浦の石田次郎為久、追つかかつてよつぴいてひようふつと射る。
語句 | 意味 |
三浦 | 名詞 |
の | 格助詞 |
石田次郎為久、 | 名詞 |
追つかかつ | ラ行四段活用動詞「追ひかかる」の促音便(後を追って攻める)連用形 |
て | 接続助詞 |
よつぴい | カ行四段活用動詞「よつぴく」(弓を十分に引きしぼる)連用形※「よくひく」の促音便 |
て | 接続助詞 |
ひようふつと | 副詞(矢が風を切って飛び、ぷすりと当たること) |
射る。 | ヤ行上一段活用動詞「射る」終止形 |
【訳】三浦の石田次郎為久が、後を追って攻め弓を十分に引きしぼって矢がひゅっと飛び、ぷすりと射る。
痛手なれば、真向を馬の頭に当てて、うつぶし給へるところに、
語句 | 意味 |
痛手 | 名詞(深い傷、致命傷) |
なれ | 断定の助動詞「なり」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
真向 | 名詞(かぶとの正面) |
を | 格助詞 |
馬 | 名詞 |
の | 格助詞 |
頭 | 名詞 |
に | 格助詞 |
当て | タ行下二段活用動詞「当つ」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
うつぶし | サ行四段活用動詞「うつぶす」(うつ伏せになる)連用形 |
給へ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」已然形【尊敬】作者→木曽殿への敬意 |
る | 完了の助動詞「り」連体形 |
ところ | 名詞 |
に、 | 格助詞 |
【訳】深い傷なので、かぶとの正面を馬の頭に当てて、うつ伏せになられたところに、
石田が郎等二人落ち合うて、つひに木曽殿の首をば取つてんげり。
語句 | 意味 |
石田 | 名詞 |
が | 格助詞 |
郎等 | 名詞(家来) |
二人 | 名詞 |
落ち合う | ア行四段活用動詞「落ち合う」(出会う、来合わす)連用形のウ音便 |
て、 | 接続助詞 |
つひに | 副詞(とうとう) |
木曽殿 | 名詞 |
の | 格助詞 |
首 | 名詞 |
を | 格助詞 |
ば | 係助詞 |
取つ | ラ行四段活用動詞「取る」連用形 |
てんげり。 | 【造語】完了の助動詞「つ」連用形「て」+過去の助動詞「けり」終止形(~てしまった) |
【訳】石田の家来が二人が来合わせて、とうとう木曽殿の首をとってしまった。
義仲が討ち取られたということですね。
そうです。これが義仲の最期ということになります。
太刀の先に貫き、高くさし上げ、大音声をあげて、
語句 | 意味 |
太刀 | 名詞 |
の | 格助詞 |
先 | 名詞 |
に | 格助詞 |
貫き、 | カ行四段活用動詞「貫く」連用形 |
高く | ク活用の形容詞「高し」連用形 |
さし上げ、 | ガ行下二段活用動詞「さし上ぐ」(高く持ち上げる)連用形 |
大音声 | 名詞(大きな声) |
を | 格助詞 |
あげ | ガ行下二段活用動詞「あぐ」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
【訳】太刀の先に(木曽殿の首を)貫き、高く持ち上げ、大きな声をあげて、
「この日ごろ日本国に聞こえさせ給ひつる木曽殿をば、三浦の石田次郎為久が討ち奉つたるぞや。」
語句 | 意味 |
「こ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
日ごろ | 名詞 |
※この日ごろ | この頃、近頃 |
日本国 | 名詞 |
に | 格助詞 |
聞こえ | ヤ行下二段活用動詞「聞こゆ」(評判になる)未然形 |
させ | 尊敬の助動詞「す」連用形 |
給ひ | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」連用形【尊敬】石田→木曽殿への敬意 |
つる | 完了の助動詞「つ」連体形 |
木曽殿 | 名詞 |
を | 格助詞 |
ば、 | 係助詞 |
三浦 | 名詞 |
の | 格助詞 |
石田次郎為久 | 名詞 |
が | 格助詞 |
討ち | タ行四段活用動詞「討つ」連用形 |
奉つ | ラ行四段活用補助動詞「奉る」連用形「奉り」の促音便【謙譲】石田→木曾殿への敬意 |
たる | 完了の助動詞「たり」連体形 |
ぞ | 終助詞 |
や。」 | 間投助詞 |
※ぞや | ~だなあ、~ことだ |
【訳】「近頃日本国で評判になっていらっしゃる木曽殿を、三浦の石田次郎為久が討ち取り申し上げたことだ。」
周囲に、高らかに勝利を宣言したのでした。
と名のりければ、今井四郎いくさしけるが、これを聞き、
語句 | 意味 |
と | 格助詞 |
名のり | ラ行四段活用動詞「名のる」(戦場で大声で申し述べる)連用形 |
けれ | 過去の助動詞「けり」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
今井四郎 | 名詞 |
いくさ | 名詞(戦い) |
し | サ行変格活用動詞「す」連用形 |
ける | 過去の助動詞「けり」連体形 |
が、 | 接続助詞 |
これ | 代名詞 |
を | 格助詞 |
聞き、 | カ行四段活用動詞「聞く」連用形 |
【訳】と大声で申し述べたので、今井四郎は(まだ敵と)戦いをしていたが、これを聞いて、
一騎で奮闘していた兼平は、この声を耳にします。
「今は誰をかばはんとてか、いくさをもすべき。
語句 | 意味 |
「今 | 名詞 |
は | 係助詞 |
誰 | 代名詞 |
を | 格助詞 |
かばは | ハ行四段活用補助動詞「かばふ」(かばう、助け守る)未然形 |
ん | 意志の助動詞「ん(む)」終止形 |
とて | 格助詞 |
か、 | 係助詞【反語】※結び:べき |
いくさ | 名詞 |
を | 格助詞 |
も | 係助詞 |
す | サ行変格活用動詞「す」終止形 |
べき。 | 意志の助動詞「べし」連体形【係り結び】 |
【訳】「今は誰をかばおうとして戦いをしようか、いやしない。
これを見給へ、東国の殿ばら、日本一の剛の者の自害する手本。」
語句 | 意味 |
これ | 代名詞 |
を | 格助詞 |
見 | マ行上一段活用動詞「見る」連用形 |
給へ、 | ハ行四段活用補助動詞「給ふ」命令形【尊敬】今井四郎→東国の殿ばらへの敬意 |
東国 | 名詞 |
の | 格助詞 |
殿ばら、 | 名詞(皆さん、方々) |
日本一 | 名詞 |
の | 格助詞 |
剛 | 名詞 |
の | 格助詞 |
者 | 名詞 |
※剛の者 | 勇者、強い勇敢な者 |
の | 格助詞 |
自害する | サ行変格活用動詞「自害す」連体形 |
手本。」 | 名詞 |
【訳】これをご覧なされ、東国の方々、日本一の勇者が自害する手本(である)。」
とて、太刀タチの先を口に含み、馬より逆さまに飛び落ち、貫かつてぞ失せにける。
語句 | 意味 |
とて、 | 格助詞 |
太刀 | 名詞(長くて大きい刀) |
の | 格助詞 |
先 | 名詞 |
を | 格助詞 |
口 | 名詞 |
に | 格助詞 |
含み、 | マ行四段活用動詞「含む」(口に入れる)連用形 |
馬 | 名詞 |
より | 格助詞 |
逆さまに | ナリ活用の形容動詞「逆さまなり」連用形 |
飛び落ち、 | タ行上二段活用動詞「飛び落つ」連用形 |
貫かつ | ラ行四段活用動詞「貫かる」連用形「貫かり」の促音便 |
て | 接続助詞 |
ぞ | 係助詞 ※結び:ける |
失せ | サ行下二段活用動詞「失す」(死ぬ)連用形 |
に | 完了の助動詞「ぬ」連用形 |
ける。 | 過去の助動詞「けり」連体形【係り結び】 |
【訳】と言って、太刀の先を口に入れ、馬から逆さまに飛び落ち、(首を)貫いて死んでしまった。
兼平は長い太刀に全身を貫かれて、自害を遂げました。
衝撃的なシーンですね。
誰かに討ち取られたのではなく、自害したということを明確にしたかったのでしょう。
さてこそ粟津のいくさはなかりけれ。
語句 | 意味 |
さて | 副詞(そうして) |
こそ | 係助詞 ※結び:けれ |
粟津 | 名詞 |
の | 格助詞 |
いくさ | 名詞(合戦) |
は | 係助詞 |
なかり | ク活用の形容詞「なし」連用形 |
けれ。 | 過去の助動詞「けり」已然形 |
【訳】そのような次第で粟津の合戦はなかったのだった。
兼平たちは戦っていたのに、「いくさはなかりけれ」とはどういう意味ですか?
義仲があっさりと亡くなり、兼平も自害したために「粟津の戦い」と呼べるほどの戦いではなかったという意味です。
「二人の死をもって粟津の戦いは終わった」と訳す解釈もあります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は平家物語より「木曽の最期③義仲の最期と兼平の自害」を解説しました。
義仲は田んぼにうっかりはまって亡くなるという、残念な最期でした。
それに対して兼平は、自ら豪快で勇ましい最期を遂げます。
主君である義仲の最期の方が、残念なように感じられます。
もとは横暴な振る舞いをして、頼朝を敵に回してしまった義仲。
しかしこの「木曽の最期」における義仲は、つねに兼平を思いやっていました。
最期に深田にはまったのも、兼平を心配に思った時のことでした。
二人の強い絆を感じさせられる最期、とも言えるのではないでしょうか。
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