徒然草「九月二十日のころ」現代語訳 主語を補い場面を理解しよう

徒然草より第三十二段「九月二十日のころ」について解説をしていきます。

徒然草は鎌倉時代の作品で、兼好法師が見聞きしたもの、感じたことなどを思うままに書き綴った作品です。

世の無常を感じて出家した兼好法師は、どうなるかわからない先のことを嘆くより、今を大切にするべきだと語っています。

今回のお話は、主語が省略されている部分が多いので、補いながら現代語訳と解説していきます。
読みながら場面を理解していきましょう。

この記事では

以上の内容を順番にお話していきます。

徒然草「九月二十日のころ」品詞分解・現代語訳・解説

本文・品詞分解（語句解説）・現代語訳

九月ながつき二十日はつかのころ、ある人ひとに誘さそはれ奉たてまつりて、

【訳】9月20日のころ、ある人にお誘いいただいて、

明あくるまで月つき見み歩ありくこと侍はべりしに、

【訳】（夜が）明けるまで月を見てまわることがございましたが、

 思おぼし出いづるところありて、案内あないせさせて入いり給たまひいぬ。

【訳】（ある人が）お思い出しになった所があって、（自分のお供に）取り次がせて（その家の中に）お入りになった。

「九月二十日」とは陰暦なので、現在では10月下旬から11月初旬頃と考えられます。

朝晩の冷えを感じ、月がはっきりと見える時期でもありますね。

ここで言う「ある人」は男性です。
立ち寄ったのは女性（その人）の家ということを、最初におさえておいてください。
登場人物を把握しながら、主語を補っていきましょう。

 荒あれたる庭にわの露つゆしげきに、

【訳】荒れている庭で露がたくさん降りていて、

わざとならぬにほひい、しめやかにうち薫かおりて、

【訳】わざわざ（たいたとも）思えない香りが、もの静かにほんのりと良い香りがして、

忍しのびたるけはひい、いとものあはわれなり。

【訳】（その人が）人目を避けてひっそりと住んでいる様子が、本当になんとなくしみじみと情緒を感じる。

 よきほどにて出い(い)で給たまひいぬれど、

【訳】（ある人は）ほど良い時間にお出になったが、

なほおことざまの優ゆうにおぼえて、物ものの隠かくれよりしばし見みゐいたるに、

【訳】（私は）やはり（その人の）事のありさまが優雅に思われて、物陰からしばらく見続けていると、

妻戸つまどをいま少すこし押おし開あけて、月つき見みる気色けしきなり。

【訳】（その人が）妻戸をさらに少し押し開けて、月を見る様子である。

やがてかけこもらましかば、口惜くちおしからまし。

【訳】もし（その人が妻戸の）掛け金をかけて部屋にこもってしまったとしたら、残念だったことだろう。

「その人」が客である「ある人」の帰った後も、すぐには部屋にこもらず、

月を眺めながら余韻を味わっています。
兼好は、その様子が素晴らしいと言っています。

あとまで見みる人ひとありとは、いかでか知しらん。

【訳】（ある人が帰った）後まで（自分を）見ている人がいるとは、（その人は）どうして知るだろうか、いや知らないだろう。

かやようのことは、ただ朝夕あさゆうの心こころづかひいによるべし。

【訳】このようなことは、ただもう常日頃の心配りによるものだろう。

見られていると気付いていてとった態度ではないということは、日ごろからそのような過ごし方をしているのだろうということですね。

「かやうのこと」とは、「その人」が客人が帰ったあとも月を眺めて余韻を味わっていることを指します。

その人ひと、ほどなく失うせにけりと聞きき侍はべりし。

【訳】ますます物事は（前もって）決めることが難しい。

この一文から、この章段は作者が過去のことを思い出し、「その人」をしのんで書かれていることが分かります。

奥ゆかしくて素敵な女性が、亡くなってしまった…と惜しんでいる気持ちが感じられます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回は徒然草より「九月二十日のころ」を解説しました。

ある人と一緒に月見をして歩き回っていた作者。
ある人が立ち寄った女性の家の様子や振る舞いは、優雅で奥ゆかしく、素晴らしいものでした。

「その人、ほどなく失せにけりと聞き侍りし。」という一文でその思いを表現しています。

古文では主語が省略されていることが多く、場面を理解するのが難しく感じがちです。
こうして丁寧に読んでいくことで、場面を理解できたのではないでしょうか？