今回は枕草子より「ふと心劣りとかするものは」について現代語訳・解説をしていきます。
枕草子とは、平安時代中期の作品です。
作者である清少納言は、中宮定子に仕えた女房でした。
そこで見聞きしたことや、日々感じることなどをつづっています。
このお話は、清少納言が「幻滅すること」として言葉遣いについて語られています。
清少納言の考えを、読み取っていきましょう。
この記事では
・品詞分解と語句解説
・現代語訳
・本文の解説
以上の内容を順番にお話していきます。
枕草子「ふと心劣りとかするものは」品詞分解・現代語訳・解説
本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳
ふと心劣りとかするものは、
語句 | 意味 |
ふと | 副詞(不意に) |
心劣り | 名詞(幻滅) |
と | 格助詞 |
か | 係助詞 |
する | サ行変格活用動詞「す」連体形 |
もの | 名詞 |
は、 | 係助詞 |
【訳】不意に幻滅することは、
男も女も、言葉の文字いやしう使ひたるこそ、
語句 | 意味 |
男 | 名詞 |
も | 係助詞 |
女 | 名詞 |
も、 | 係助詞 |
言葉 | 名詞(話し言葉) |
の | 格助詞 |
文字 | 名詞(言葉) |
いやしう | シク活用の形容詞「いやし」(下品だ)の連用形「いやしく」のウ音便 |
使ひ | ハ行四段活用動詞「使ふ」連用形 |
たる | 完了の助動詞「たり」連体形 |
こそ、 | 係助詞 ※結び:わろけれ |
【訳】男も女も、話すときの言葉を下品に使った時が、
よろづのことよりまさりてわろけれ。
語句 | 意味 |
よろづのこと | 名詞(あらゆること、様々なこと) |
より | 格助詞 |
まさり | ラ行四段活用動詞「まさる」(上である)連用形 |
て | 接続助詞 |
わろけれ。 | ク活用の形容詞「わろし」(良くない)已然形【係り結び】 |
【訳】あらゆることにもまして良くない。
ただ文字一つに、あやしう、あてにもいやしうもなるは、いかなるにかあらむ。
語句 | 意味 |
ただ | 副詞(たった、わずかに) |
文字一つ | 名詞 |
に、 | 格助詞 |
あやしう、 | シク活用の形容詞「あやし」(不思議だ、奇妙だ)連用形「あやしく」のウ音便 |
あてに | ナリ活用の形容動詞「あてなり」(上品だ)連用形 |
も | 係助詞 |
いやしう | シク活用の形容詞「いやし」(下品だ)連用形「いやしく」のウ音便 |
も | 係助詞 |
なる | ラ行四段活用動詞「なる」連体形 |
は、 | 係助詞 |
いかなる | ナリ活用の形容動詞「いかなり」(どのようだ)連体形 |
に | 断定の助動詞「なり」連用形 |
か | 【疑問】係助詞 ※結び:む |
あら | ラ行変格活用動詞「あり」未然形 |
む。 | 推量の助動詞「む」連体形【係り結び】 |
【訳】たった言葉一つで、不思議なことに、上品にも下品にもなるのは、どういうことなのだろうか。
さるは、かう思ふ人、ことにすぐれてもあらじかし。
語句 | 意味 |
さるは、 | 接続詞(そうは言うものの) |
かう | 副詞(このように) |
思ふ | ハ行四段活用動詞「思ふ」連体形 |
人、 | 名詞 |
ことに | 副詞(特に) |
すぐれ | ラ行下二段活用動詞「すぐる」(優れる、ひいでる)連用形 |
て | 接続助詞 |
も | 係助詞 |
あら | ラ行変格活用動詞「あり」未然形 |
じ | 打消推量の助動詞「じ」(~ないだろう、~まい)終止形 |
かし。 | 【念押し】終助詞(~ね、~よ) |
【訳】そうは言うものの、このように思う人が、特に優れているというわけでもないだろうよ。
「かう思ふ人」とは誰のことですか?
これは作者である清少納言を指しています。
謙遜している感じがします。
いづれをよしあしと知るにかは。
語句 | 意味 |
いづれ | 代名詞(どちら) |
を | 格助詞 |
よし | ク活用の形容詞「よし」(良い)終止形 |
あし | シク活用の形容詞「あし」(悪い)終止形 |
と | 格助詞 |
知る | ラ行四段活用動詞「知る」(認識する、理解する)未然形 |
に | 断定の助動詞「なり」連用形 |
かは。 | 【疑問】係助詞(~か、~だろうか) |
【訳】どちらを良い悪いと判断するのだろうか。
「知る」は「認識する、理解する」という意味がありますが、ここでは「よしあし」という言葉から「判断する」と訳しました。
されど、人をば知らじ、ただ心地にさおぼゆるなり。
語句 | 意味 |
されど、 | 接続詞(しかし) |
人 | 名詞(他の人、他人) |
を | 格助詞 |
ば | 係助詞 |
知ら | ラ行四段活用動詞「知る」(気にする、かまう)未然形 |
じ、 | 打消意志の助動詞「じ」(~しないようにしよう、~まい)終止形 |
ただ | 副詞 |
心地 | 名詞(気持ち) |
に | 格助詞 |
さ | 副詞(そのように、そう) |
おぼゆる | ヤ行下二段活用動詞「おぼゆ」(思われる、感じられる)連体形 |
なり。 | 断定の助動詞「なり」終止形 |
【訳】しかし、ほかの人のことは気にしないようにして、ただ(自分の)気持ちがそのように思われるのだ。
清少納言が「ふと心劣りとかする」と感じる言葉遣いは、感覚的なものであることがわかりますね。
いやしきことも、わろきことも、さと知りながらことさらに言ひたるは、あしうもあらず。
語句 | 意味 |
いやしき | シク活用の形容詞「いやし」連体形 |
こと | 名詞 |
も、 | 係助詞 |
わろき | ク活用の形容詞「わろし」連体形 |
こと | 名詞 |
も、 | 係助詞 |
さ | 副詞(そう) |
と | 格助詞 |
知り | ラ行四段活用動詞「知る」連用形 |
ながら | 接続助詞 |
ことさらに | ナリ活用の形容動詞「ことさらなり」(意図的だ)連用形 |
言ひ | ハ行四段活用動詞「言ふ」連用形 |
たる | 完了の助動詞「たり」連体形 |
は、 | 係助詞 |
あしう | シク活用の形容詞「あし」連用形「あしく」のウ音便 |
も | 係助詞 |
あら | ラ行変格活用動詞「あり」未然形 |
ず。 | 打消の助動詞「ず」終止形 |
【訳】下品な言葉も、良くない言葉も、意図的に言ったのは、悪くもない。
話し言葉は良くない言葉とは思うが、本人が意図的に使い分けているのはアリだと認めています。
わがもてつけたるを、つつみなく言ひたるは、あさましきわざなり。
語句 | 意味 |
わ | 代名詞(私、自分) |
が | 格助詞 |
もてつけ | カ行下二段活用動詞「もてつく」(身につける)連用形 |
たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
を、 | 格助詞 |
つつみなく | ク活用の形容詞「つつみなし」(隠すことがない)連用形 |
言ひ | ハ行四段活用動詞「言ふ」連用形 |
たる | 完了の助動詞「たり」連体形 |
は、 | 係助詞 |
あさましき | シク活用の形容詞「あさまし」(あきれるばかりだ)連体形 |
わざ | 名詞(行為) |
なり。 | 断定の助動詞「なり」終止形 |
【訳】自分が身につけている言葉を、隠すことなく言ったのは、あきれる行為である。
また、さもあるまじき老いたる人、男などの、わざとつくろひ、鄙びたるは、にくし。
語句 | 意味 |
また、 | 接続詞 |
さ | 副詞(そのように) |
も | 係助詞 |
ある | ラ行変格活用動詞「あり」連体形 |
まじき | 打消当然の助動詞「まじ」(~はずがない、~べきではない)連体形 |
老い | ヤ行上二段活用動詞「老ゆ」(年をとる、老いる)連用形 |
たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
人、 | 名詞 |
男 | 名詞 |
など | 副助詞 |
の、 | 格助詞 |
わざと | 副詞(取り立てて、特別に) |
つくろひ、 | ハ行四段活用動詞「つくろふ」(取り繕う)連用形 |
鄙び | バ行上二段活用動詞「鄙ぶ」(田舎じみる)連用形 |
たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
は、 | 係助詞 |
にくし。 | ク活用の形容詞「にくし」(感じが悪い、みっともない)終止形 |
【訳】また、そのような言葉を使うべきではない年をとっている人や、男などが、取り立てて(言葉を)取り繕い、田舎じみているのは、みっともない。
「さ」とは「そのような言葉」のことです。
「そのような言葉」とは何のことか、分かりますか?
「いやしきこと」や「わろきこと」です。
そうですね!
まさなきことも、あやしきことも、大人なるは、まのもなく言ひたるを、
語句 | 意味 |
まさなき | ク活用の形容詞「まさなし」(良くない、正しくない)連体形 |
こと | 名詞 |
も、 | 係助詞 |
あやしき | シク活用の形容詞「あやし」(みっともない)連体形 |
こと | 名詞 |
も、 | 係助詞 |
大人 | 名詞(年配の女性) |
なる | 断定の助動詞「なり」連体形 |
は | 係助詞 |
まのもなく | ク活用の形容詞「まのもなし」連用形 |
言ひ | ハ行四段活用動詞「言ふ」連用形 |
たる | 完了の助動詞「たり」連体形 |
を、 | 格助詞 |
【訳】良くない言葉も、みっともない言葉も、年配の女性が、遠慮なく言っているのを、
「まのもなし」という言葉は岩波文庫(『枕草子』池田亀鑑校訂)には「語義未詳」と書かれています。
前後の内容から推測するしかないのですが、「遠慮なく」と訳しました。
「大人なるは」については、清少納言が宮中で目にする年配の女房たちを指しています。
若き人は、いみじうかたはらいたきことに消え入りたるこそ、さるべきことなれ。
語句 | 意味 |
若き | ク活用の形容詞「若し」連体形 |
人 | 名詞 |
は、 | 係助詞 |
いみじう | シク活用の形容詞「いみじ」(たいへん)連用形「いみじく」のウ音便 |
かたはらいたき | ク活用の形容詞「かたはらいたし」(きまりが悪い、いたたまれない)連体形 |
こと | 名詞 |
に | 格助詞 |
消え入り | ラ行四段活用動詞「消え入る」(恥ずかしさに身の置き所がない)連用形 |
たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
こそ、 | 係助詞 ※結び:なれ |
さるべき | 連体詞(そうなるのが当然な) |
こと | 名詞 |
なれ。 | 断定の助動詞「なり」已然形【係り結び】 |
【訳】若い人は、たいへんいたたまれないことだと思って恥ずかしさに身の置き所がなくなっているのは、当然のことである。
何事を言ひても、「そのことさせむとす」「言はむとす」「何とせむとす」といふ「と」文字を失ひて、
語句 | 意味 |
何事 | 名詞(どんなこと) |
を | 格助詞 |
言ひ | ハ行四段活用動詞「言ふ」連用形 |
ても、 | 【連語】接続助詞「て」+係助詞「も」(~ても) |
「そ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
こと | 名詞 |
さ | 副詞 |
せ | サ行変格活用動詞「す」未然形 |
む | 意志の助動詞「む」終止形 |
と | 格助詞 |
す」 | サ行変格活用動詞「す」終止形 |
「言は | ハ行四段活用動詞「言ふ」未然形 |
む | 意志の助動詞「む」終止形 |
と | 格助詞 |
す」 | サ行変格活用動詞「す」終止形 |
「何 | 「代名詞 |
と | 格助詞 |
せ | サ行変格活用動詞「す」未然形 |
む | 意志の助動詞「む」終止形 |
と | 格助詞 |
す」 | サ行変格活用動詞「す」終止形 |
と | 格助詞 |
いふ | ハ行四段活用動詞「いふ」連体形 |
「と」文字 | 「と」の文字 |
を | 格助詞 |
失ひ | ハ行四段活用動詞「失ふ」(なくす)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
【訳】どんなことを言っても、「そのことさせむとす」「言はむとす」「何とせむとす」という「と」の文字をなくして、
ただ「言はむずる」「里へ出でむずる」など言へば、やがていとわろし。
語句 | 意味 |
ただ | 副詞 |
「言は | ハ行四段活用動詞「言ふ」未然形 |
むずる」 | 意志の助動詞「むず」連体形 |
「里 | 名詞 |
へ | 格助詞 |
出で | ダ行下二段活用動詞「出づ」未然形 |
むずる」 | 意志の助動詞「むず」連体形 |
など | 副助詞 |
言へ | ハ行四段活用動詞「言ふ」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
やがて | 副詞(そのうち、いずれ) |
いと | 副詞(とても) |
わろし。 | ク活用の形容詞「わろし」終止形 |
【訳】ただ「言はむずる」「里へ出でむずる」などと言うと、そのうちとても良くない(言葉になる)。
ここでは「」の中の文章の意味は、訳していません。
大切なのは、「むとす」という表現を「むずる」と「と抜き言葉」にしているのを良くないとしている、という作者の主張です。
まいて、文に書いては言ふべきにもあらず。
語句 | 意味 |
まいて、 | 副詞(まして) |
文 | 名詞(文書) |
に | 格助詞 |
書い | カ行四段活用動詞「書く」連用形「書き」のイ音便 |
て | 接続助詞 |
は | 係助詞 |
言ふ | ハ行四段活用動詞「言ふ」終止形 |
べき | 当然の助動詞「べし」連体形 |
に | 断定の助動詞「なり」連用形 |
も | 係助詞 |
あら | ラ行変格活用動詞「あり」未然形 |
ず。 | 打消の助動詞「ず」終止形 |
【訳】まして、文書に書いては(良くないことは)言うまでもない。
物語などこそ、あしう書きなしつれば、言ふかひなく、作り人さへいとほしけれ。
語句 | 意味 |
物語 | 名詞 |
など | 副助詞 |
こそ、 | 係助詞 結び:いとほしけれ |
あしう | シク活用の形容詞「あし」連用形「あしく」のウ音便 |
書きなし | サ行四段活用動詞「書きなす」(~のように書く)連用形 |
つれ | 完了の助動詞「つ」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
言ふかひなく、 | ク活用の形容詞「言ふかひなし」(どうしようもなくて)連用形 |
作り人 | 名詞(作者) |
さへ | 副助詞(~まで) |
いとほしけれ。 | シク活用の形容詞「いとほし」(気の毒だ、かわいそうだ)已然形【係り結び】 |
【訳】物語などは、(言葉を)悪く書いてあると、作者までかわいそうに思われる。
話し言葉については、良くない言葉遣いにも多少の理解はあったものの、書き言葉については「良くない」ときっぱりと言っています。
「ひてつ車に」と言ひし人もありき。
語句 | 意味 |
「ひてつ車 | 名詞(「ひとつ車」の訛り) |
に」 | 格助詞 |
と | 格助詞 |
言ひ | ハ行四段活用動詞「言ふ」連用形 |
し | 過去の助動詞「き」連体形 |
人 | 名詞 |
も | 係助詞 |
あり | ラ行変格活用動詞「あり」連用形 |
き。 | 過去の助動詞「き」終止形 |
【訳】「ひてつ車に」と言った人もいた。
「求む」といふことを「みとむ」なんどは、みな言ふめり。
語句 | 意味 |
「求む」 | マ行下二段活用動詞「求む」終止形 |
と | 格助詞 |
いふ | ハ行四段活用動詞「いふ」連体形 |
こと | 名詞 |
を | 格助詞 |
「みとむ」 | マ行下二段活用動詞「みとむ」終止形 |
なんど | 副助詞(など) |
は、 | 係助詞 |
みな | 名詞 |
言ふ | ハ行四段活用動詞「言ふ」終止形 |
めり。 | 婉曲の助動詞「めり」(~のようだ)終止形 |
【訳】「求む」という言葉を「みとむ」など(と言うの)は、みんな言うようだ。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は枕草子より「ふと心劣りとかするものは」を解説しました。
言葉の乱れについて清少納言の考え方がわかりました。
私はこういう所が嫌だと思っているし、気になっちゃうけど、キリがないわ。
言葉は変化していくものだと思うから、どうぞ皆さんご自由に。
でも、私は気にしていくわ。
皆さんも文章を書くときには、きちんとした文章を書いた方がいいと思うなぁ。
残念な人だって思われちゃうかもしれないから。
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