はじめに
今回は『枕草子』の「この草子、目に見え心に思ふことを」の後半部分を解説をします。
成立:平安時代中期
作者:清少納言
ジャンル:随筆
内容:宮仕えをしていた時の宮中での出来事や、人間模様、季節の自然などを鋭い感性で描いている。「をかし」の文学と言われる。
今回のお話についても、原文ではわかりにくかった言い回しが「そういうことか!」となりますので、読んでみてください。
枕草子「この草子、目に見え心に思ふことを②」現代語訳・解説

おほかた、これは、世の中にをかしきこと、人のめでたしなど思ふべき、
だいたい、これは、世の中で面白いこと、人がすばらしいなどと思うはずのことを、
| おほかた、 | 副詞(だいたい) |
| これ | 代名詞 |
| は、 | 係助詞 |
| 世の中 | 名詞 |
| に | 格助詞 |
| をかしき |
シク活用の形容詞「をかし」(滑稽だ、面白い)連体形
|
| こと、 | 名詞 |
| 人 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| めでたし |
ク活用の形容詞「めでたし」(すばらしい)終止形
|
| など | 副助詞 |
| 思ふ | ハ行四段活用補助動詞「思ふ」終止形 |
| べき、 |
当然の助動詞「べし」(~はずだ)連体形
|
なほえり出でて、歌などをも、木・草・鳥・虫をも、言ひ出だしたらばこそ、
さらに選び出して、和歌などをも、木・草・鳥・虫のことをも書き出しているのならば、
| なほ | 副詞(さらに) |
| えり出で |
ダ行下二段活用動詞「えり出づ」(選び出す)連用形
|
| て、 | 接続助詞 |
| 歌 | 名詞(和歌) |
| など | 副助詞 |
| を | 格助詞 |
| も、 | 係助詞 |
| 木・ | 名詞 |
| 草・ | 名詞 |
| 鳥・ | 名詞 |
| 虫 | 名詞 |
| を | 格助詞 |
| も、 | 係助詞 |
| 言ひ出だし |
サ行四段活用動詞「言ひ出だす」(口に出す、言いだす)連用形
|
| たら | 存続の助動詞「たり」未然形 |
| ば | 接続助詞 |
| こそ、 | 係助詞 ※結び:め |
「思ふほどよりはわろし。心見えなり。」とそしられめ、
「思うほどより良くない。心が見え透ている。」と非難されるだろうが、
| 「思ふ | ハ行四段活用動詞「思ふ」連体形 |
| ほど | 名詞 |
| より | 格助詞 |
| は | 係助詞 |
| わろし。 |
ク活用の形容詞「わろし」(良くない)終止形
|
| 心見えなり。」 |
ナリ活用の形容動詞「心見えなり」(心が見え透いている ※世間受けを狙っているのが見え見えだということを指す)終止形
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| と | 格助詞 |
| そしら |
ラ行四段活用動詞「そしる」(非難する)未然形
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| れ | 受身の助動詞「る」未然形 |
| め、 | 推量の助動詞「む」已然形 【係り結び】 |

どういうことですか?

もしも私がね、世間の人が「面白いと思うこと」や「すばらしいと思うこと」を狙って枕草子を書いていたのだとしたら、それを読んだ人たちが、「思ったより良くないね。世間受けを狙ったのが見え見えだよ~」と非難されることもあるだろうね~ってことよ。
ただ心ひとつに、おのづから思ふことを、たはぶれに書きつけたれば、
ただ自分の心の中だけに、自然と思うことを、気の向くままに書き留めてあるので、
| ただ | 副詞 |
| 心一つ | 名詞(自分の心の中だけ) |
| に、 | 格助詞 |
| おのづから | 副詞(自然と) |
| 思ふ | ハ行四段活用動詞「思ふ」連体形 |
| こと | 名詞 |
| を、 | 格助詞 |
| たはぶれ |
名詞(ふざけること、冗談 ※軽い気持ちでちょっと書いたというニュアンス)
|
| に | 格助詞 |
| 書きつけ |
カ行下二段活用動詞「書きつく」(書きつける、書き留める)連用形
|
| たれ |
存続の助動詞「たり」(~てある ※過去に書いてきたことが形として残っているという状態)已然形
|
| ば、 | 接続助詞 |
ものに立ちまじり、人なみなみなるべき耳をも聞くべきものかはと思ひしに、
ほかの草子に交じり、世間並みの評判を聞くはずがあろうか、いや、(聞くはずは)ないと思ったけれども、
| もの | 名詞(ここでは他の草子を指す) |
| に | 格助詞 |
| 立ちまじり、 |
ラ行四段活用動詞「立ちまじる」(交じる)連用形
|
| 人なみなみなる |
ナリ活用の形容動詞「人なみなみなる」(世間並みである)連体形
|
| べき | 当然の助動詞「べし」連体形 |
| 耳 | 名詞(評判、噂) |
| を | 格助詞 |
| も | 係助詞 |
| 聞く | カ行四段活用動詞「聞く」終止形 |
| べき | 当然の助動詞「べし」連体形 |
| もの | 名詞 |
| かは | 【反語】終助詞 |
| と | 格助詞 |
| 思ひ | ハ行四段活用動詞「思ふ」連用形 |
| し | 過去の助動詞「き」連体形 |
| に、 |
【逆接確定条件】接続助詞(~けれども)
|

自分の思ったことを軽い気持ちで書いただけだから、人に読まれて世間の人から評価を受けるなんて思ってなかったのよ。

本当ですか…?
「はづかしき。」なんどもぞ、見る人はし給ふなれば、いとあやしうぞあるや。
「すばらしい。」などと、(この草子を)見る人はおっしゃるそうなので、たいそう不思議なことよ。
| 「はづかしき。」 |
シク活用の形容詞「はづかし」(こちらが恥ずかしくなるほど素晴らしい、立派だ)連体形
|
| なんど | 副助詞(など) |
| も | 係助詞 |
| ぞ、 | 係助詞 |
| 見る | マ行上一段活用動詞「見る」連体形 |
| 人 | 名詞 |
| は | 係助詞 |
| し |
サ行変格活用動詞「す」(ここでは「言う」として解釈)連用形
|
| 給ふ |
ハ行四段活用補助動詞「給ふ」終止形【尊敬】作者→見る人への敬意
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| なれ | 伝聞の助動詞「なり」已然形 |
| ば、 | 接続助詞 |
| いと | 副詞 |
| あやしう |
シク活用の形容詞「あやし」(不思議だ)連用形「あやしく」のウ音便
|
| ぞ、 | 係助詞 ※結び:ある |
| ある |
ラ行変格活用動詞「あり」連体形【係り結び】
|
| や。 | 【詠嘆】間投助詞(~ことよ) |

「軽い気持ちで書いたものなのに、みんながすごいって褒めてくれるのよ~」って自慢しているように聞こえるのは、私だけでしょうか?

私も「不思議だわ~」って言いながら鼻の穴がフカフカして、嬉しそうにしている姿を想像していました。
それが「清少納言!!」って勝手に思っていましたよ。
げに、そもことわり、人のにくむをよしと言ひ、ほむるをもあしと言ふ人は、心のほどこそおしはからるれ。
なるほど、それももっともなことよ、人が非難するものを良いと言い、褒めるものを悪いと言う人は、心の様子が推し量られる。
| げに、 | 副詞(実際に、なるほど) |
| そ | 代名詞(それ) |
| も | 係助詞 |
| ことわり、 |
ナリ活用の形容詞「ことわりなり」(もっともだ)の語幹 ※語幹で言い切ることにより、詠嘆や感動を表す。ここでは「~なことよ」と訳した
|
| 人 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| にくむ |
マ行四段活用動詞「にくむ」(非難する)連体形
|
| を | 格助詞 |
| よし | ク活用の形容詞「よし」(良い)終止形 |
| と | 格助詞 |
| 言ひ、 | ハ行四段活用動詞「言ふ」連用形 |
| ほむる |
マ行下二段活用動詞「ほむ」(褒める)連体形
|
| を | 格助詞 |
| も | 係助詞 |
| あし |
シク活用の形容詞「あし」(悪い)終止形
|
| と | 格助詞 |
| 言ふ | ハ行四段活用動詞「言ふ」連体形 |
| 人 | 名詞 |
| は、 | 係助詞 |
| 心 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| ほど | 名詞(様子) |
| こそ | 係助詞 ※結び:るれ |
| おしはから |
ラ行四段活用動詞「おしはかる」(推し量る)未然形
|
| るれ。 | 自発の助動詞「る」已然形【係り結び】 |

世間の人が「あれはよくない」と非難するものを「すばらしい!」って言ったり、人々が褒めているものを「あれはダメよ」と言う人は、世間の人の逆張りをしようっていう本心が透けて見えちゃうわよね。

この『枕草子』を褒めてくれた人は、逆張りかもしれないから本当はどう思っているかわからないって言っているとも取れますが、私には逆張りする浅はかな人に毒舌パンチを決めているように聞こえますが…

おほほほほほほほ!!!!!!!
ただ、人に見えけむぞ、ねたき。
ただ、(この草子が)人に見られただろうことが、悔しい。
| ただ、 | 副詞 |
| 人 | 名詞 |
| に | 格助詞 |
| 見え |
マ行下二段活用動詞「見ゆ」(見られる)連用形
|
| けむ |
過去推量の助動詞「けむ」(~ただろう)連体形
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| ぞ、 | 係助詞 ※結び:ねたき |
| ねたき。 |
ク活用の形容詞「ねたし」(憎らしい、悔しい)連体形
|
左中将、まだ伊勢守と聞こえしとき、里におはしたりしに、
左中将が、まだ伊勢守と申し上げたとき、(私の)自宅にいらっしゃったとき、
| 左中将、 |
名詞(人名。源経房のこと。清少納言とは家を行き来する親しい関係であった。)
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| まだ | 副詞 |
| 伊勢守 |
名詞(役職名。伊勢の国を治める長官)
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| と | 格助詞 |
| 聞こえ |
ヤ行下二段活用動詞「聞こゆ」(申し上げる)連用形 【謙譲】作者→左中将への敬意
|
| し | 過去の助動詞「き」連体形 |
| とき、 | 名詞 |
| 里 | 名詞(自宅) |
| に | 格助詞 |
| おはし |
サ行四段活用動詞「おはす」(いらっしゃる)連用形【尊敬】作者→左中将への敬意
|
| たり | 完了の助動詞「たり」連用形 |
| し | 過去の助動詞「き」連体形 |
| に、 | 接続助詞 |
藤原道長の義理の弟です。定子の父である道隆とは、政治的にはライバル関係にあった。
しかし、清少納言とは実家に行くほどの仲であり、定子サロンの伝言係などもつとめていた。
経房の兄の源俊賢が、定子の兄である藤原伊周と親しくしていたことからも、定子へのツテはあったと考えられる。
端の方なりし畳をさし出でしものは、この草子載りて出でにけり。
端の方にあった敷物を差し出したひょうしに、この草子が載って出てしまった。
| 端 | 名詞 |
| の | 格助詞 |
| 方 | 名詞 |
| なり | 存在の助動詞「なり」連用形 |
| し | 過去の助動詞「き」連体形 |
| 畳 |
名詞(イグサなどで織られた薄い敷物のこと)
|
| を | 格助詞 |
| さし出で |
ダ行下二段活用動詞「さし出づ」(差し出す)連用形
|
| し | 過去の助動詞「き」連体形 |
| ものは、 |
名詞「もの」+係助詞「は」(~したひょうしに)
|
| こ | 代名詞 |
| の | 格助詞 |
| 草子 | 名詞 |
| 載り | ラ行四段活用動詞「載る」連用形 |
| て | 接続助詞 |
| 出で |
ダ行下二段活用動詞「出づ」(出る)連用形
|
| に | 完了の助動詞「ぬ」連用形 |
| けり。 |
過去の助動詞「けり」終止形 ※にけり(~てしまった)
|
惑ひ取り入れしかど、やがて持ておはして、いと久しくありてぞ返りたりし。
慌てふためいて取り込んだけれども、(左中将が)そのまま(その草子を)持っていらっしゃって、大変長い時間が経って戻ってきた。
| 惑ひ |
ハ行四段活用動詞「惑ふ」(慌てふためく、うろたえる)連用形
|
| 取り入れ |
ラ行下二段活用動詞「取り入る」(取り入れる、取り込む)連用形
|
| しか | 過去の助動詞「き」已然形 |
| ど、 | 【逆接】接続助詞 |
| やがて | 副詞(そのまま) |
| 持ておはし |
サ行四段活用動詞「持ておはす」(持っていらっしゃる)連用形【尊敬】作者→左中将への敬意
|
| て、 | 接続助詞 |
| いと | 副詞(大変、とても) |
| 久しく |
シク活用の形容詞「久し」(長い)連用形
|
| あり | ラ行変格活用動詞「あり」(経過する、経つ)連用形 |
| て、 | 接続助詞 |
| ぞ | 係助詞 ※結び:し |
| 返り |
ラ行四段活用動詞「返る」(戻る)連用形
|
| たり | 完了の助動詞「たり」連用形 |
| し。 | 過去の助動詞「き」連体形【係り結び】 |
それよりありきそめたるなめり、とぞ本に。
それから(この草子が)出回り始めたようだと、もとの本にあった。
| それ | 代名詞 |
| より | 格助詞 |
| ありきそめ |
マ行下二段活用動詞「ありきそむ」(出回り始める)連用形
|
| たる | 完了の助動詞「たり」連体形 |
| な |
断定の助動詞「なり」連体形「なる」の撥音便「なん」の「ん」が無表記になっている
|
| めり、 | 推定の助動詞「めり」終止形 |
| と | 格助詞 |
| ぞ | 係助詞 |
| 本 | 名詞(原本、もとの本) |
| に | 格助詞 |
| (ある)。 | 省略 【係り結び】 |

いきなり「もとの本にあった」ってどういうことですか!?

清少納言が書いた「原本」を書き写した人が、「もとの本にそう書いてあったよ」と言っているというのが、一般的な解釈です。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
2回に分けて、『枕草子』の「この草子、目に見え心に思ふことを」を解説してきました。
『枕草子』の締めくくりとなるこの章は、執筆のきっかえが描かれていました。
「人に見せるつもりはなかった」「大した内容ではない」と謙遜しつつも、自らの才能や主君との絆、作品が絶賛された喜びがにじみ出ているのではないでしょうか。
定子様から紙を賜った特別な思い出と、予期せぬ流出への言い訳という謙虚な姿勢を装っていますが、清少納言の「ドヤ顔」が思い浮かぶような内容。
私は、この「THE 清少納言」という内容が大好きです。
みなさんはどのように感じましたか?


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