徒然草より第百三十七段「花は盛りに②望月の隈なきを~」について解説をしていきます。
前回の「花は盛りに①花は盛りに、月は隈なきをのみ見るものかは~」は、桜や月、男女の恋愛に関する兼好法師の考えが分かる内容となっていました。
今回のお話は、その続きと最終的に兼好法師が言いたかったことをまとめていきます。
また、漢詩や古今和歌集の和歌の一部が引用されているので、その点も解説をします。
この記事では
・品詞分解と語句解説
・現代語訳
・本文の解説
以上の内容を順番にお話していきます。
徒然草「花は盛りに②望月の隈なきを~」品詞分解・現代語訳・解説
本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳
これまでのお話(花は盛りに、月は隈なきをのみ見るものかは~)
望月の隈なきを千里の外までながめたるよりも、
語句 | 意味 |
望月 | 名詞(満月) |
の | 格助詞 |
隈なき | ク活用の形容詞「くまなし」(陰りがない)連体形 |
を | 格助詞 |
千里 | 名詞(はるか遠く) |
の | 格助詞 |
外 | 名詞(別の場所) |
まで | 副助詞 |
ながめ | マ行下二段活用動詞「ながむ」(眺める、見やる)連用形 |
たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
より | 格助詞 |
も、 | 係助詞 |
【訳】満月であって、かげりがない月をはるか遠くまで眺めているよりも、
ここで兼好法師は漢詩の一節を引用しています。
兼好法師は、和歌や俳句だけでなく、漢詩も好みました。
徒然草のほかの章段でも、漢詩が引用されていることがあります。
「三五夜中の新月の色、二千里の外の故人の心」『和漢朗詠集』白居易
【意味】十五夜(三×五=十五)の新月の色を見て、二千里も遠く離れた旧友に思いをはせる
…遠くにいる親友を思って詠んだ
暁近くなりて待ち出でたるが、
語句 | 意味 |
暁 | 名詞(夜明け前) |
近く | ク活用の形容詞「近し」連用形 |
なり | ラ行四段活用動詞「なる」連用形 |
て | 接続助詞 |
待ち出で | ダ行下二段活用動詞「待ち出づ」(待ち受けて出会う)連用形 |
たる | 完了の助動詞「たり」連体形 |
(月) | 省略されている |
が、 | 格助詞 |
【訳】夜明け前が近くなって待ちに待ってようやく出た月が、
いと心深う、青みたるやうにて、
語句 | 意味 |
いと | 副詞(非常に) |
心深う、 | ク活用の形容詞「心深し」(風情がある)連用形「心深く」のウ音便 |
青み | マ行四段活用動詞「青む」(青みを帯びる)連用形 |
たる | 存続の助動詞「たり」連用形 |
やうに | 比況の助動詞「やうなり」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
【訳】非常に風情があって、青みを帯びているようで、
深き山の杉の梢に見えたる、木の間の影、
語句 | 意味 |
深き | ク活用の形容詞「深し」連体形 |
山 | 名詞 |
の | 格助詞 |
杉 | 名詞 |
の | 格助詞 |
梢 | 名詞 |
に | 格助詞 |
見え | ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」連用形 |
たる、 | 存続の助動詞「たり」連体形 |
木 | 名詞 |
の | 格助詞 |
間 | 名詞 |
の | 格助詞 |
影、 | 名詞(月の光) |
【訳】深い山の杉の梢に見えている、木の間の月や光や、
うちしぐれたる群雲隠れのほど、またなくあはれなり。
語句 | 意味 |
うちしぐれ | ラ行下二段活用動詞「うちしぐる」(時雨が降る)連用形 |
たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
群雲 | 名詞(一群の雲) |
隠れ | ラ行下二段活用動詞「隠る」(隠れる)連用形 |
の | 格助詞 |
ほど、 | 名詞(様子) |
またなく | ク活用の形容詞「またなし」(この上ない)連用形 |
あはれなり。 | ナリ活用の形容動詞「あはれなり」終止形 |
【訳】時雨が降っている一群の雲に隠れる(月の)様子は、この上なくすばらしい。
今度は月の様子ですね。
満月も良いけれど、そうではなく雲に隠れた月もまたすばらしいと言っています。
椎柴、白樫などの濡れたるやうなる葉の上にきらめきたるこそ、
語句 | 意味 |
椎柴、 | 名詞(椎の木のこと) |
白樫 | 名詞(葉の裏が白い樫の一種) |
など | 副助詞 |
の | 格助詞 |
濡れ | ラ行下二段活用動詞「濡る」連用形 |
たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
やうなる | 比況の助動詞「やうなり」連体形 |
葉 | 名詞 |
の | 格助詞 |
上 | 名詞 |
に | 格助詞 |
きらめき | カ行四段活用動詞「きらめく」(美しく光輝く)連用形 |
たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
こそ、 | 係助詞 ※結び:おぼゆれ |
【訳】樫の木や白樫などが濡れているような葉の上に(月が)美しく光輝いているのは、
身にしみて、心あらむ友もがなと、都恋しうおぼゆれ。
語句 | 意味 |
身 | 名詞 |
に | 格助詞 |
しみ | マ行四段活用動詞「しむ」(深くしみるように感じる)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
心 | 名詞(本質、道理) |
あら | ラ行変格活用動詞「あり」未然形 |
む | 婉曲の助動詞「む」連体形 |
友 | 名詞 |
もがな | 終助詞【願望】(~があったらなぁ、~がいればいいなぁ) |
と、 | 格助詞 |
都 | 名詞 |
恋しう | シク活用の形容詞「恋し」(恋しい)連用形「恋しく」のウ音便 |
おぼゆれ。 | ヤ行下二段活用動詞「おぼゆ」(思われる)已然形【係り結び】 |
【訳】身にしみて、情緒や風流を理解する友人がいればなぁと、都が恋しく思われる。
すべて、月、花をば、さのみ目にて見るものかは。
語句 | 意味 |
すべて、 | 名詞(総じて) |
月、 | 名詞 |
花 | 名詞 |
を | 格助詞 |
ば、 | 係助詞 |
さ | 副詞(そのように) |
のみ | 副助詞(~だけ) |
目 | 名詞 |
にて | 格助詞 |
見る | マ行上一段活用動詞「見る」連体形 |
もの | 名詞 |
かは。 | 係助詞【反語】 |
【訳】総じて、月や花をそのように目だけで見るものか、いやそうではない。
春は家を立ちさらでも、月の夜は閨のうちながらも思へるこそ、
語句 | 意味 |
春 | 名詞 |
は | 係助詞 |
家 | 名詞 |
を | 格助詞 |
立ち去ら | ラ行四段活用動詞「立ち去る」未然形 |
で | 接続助詞 |
も、 | 係助詞 |
月 | 名詞 |
の | 格助詞 |
夜 | 名詞 |
は | 係助詞 |
閨 | 名詞(寝室) |
の | 格助詞 |
内 | 名詞(中) |
ながら | 接続詞(~しながら) |
も | 係助詞 |
思へ | ハ行四段活用動詞「思ふ」已然形 |
る | 存続の助動詞「り」連体形 |
こそ、 | 係助詞 ※結び:をかしけれ |
【訳】春は家を出なくても、月の夜は寝室の中にいながらも(花や月を)思っているのは、
いと頼もしう、をかしけれ。
語句 | 意味 |
いと | 副詞(大変) |
頼もしう、 | シク活用の形容詞「たのもし」(期待が持てる)連用形「頼もしく」のウ音便 |
をかしけれ。 | シク活用の形容詞「をかし」已然形 |
【訳】大変期待が持てて、趣深い。
言っている意味が分かりません。
春は家から出なくても感じられるし、月の夜は寝室の中にいても心で思うのも楽しいもので、趣深いと言っているのです。
よき人は、ひとへに好けるさまにも見えず、
語句 | 意味 |
よき | ク活用の形容詞「よし」(教養がある)連体形 |
人 | 名詞 |
は、 | 係助詞 |
ひとへに | 副詞(一途に) |
好け | カ行四段活用動詞「好く」(風流に熱中する)已然形 |
る | 存続の助動詞「り」連体形 |
さま | 名詞 |
に | 格助詞 |
も | 係助詞 |
見え | ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」(見える)未然形 |
ず、 | 打消の助動詞「ず」連用形 |
【訳】教養がある人は、一途に風流に熱中している様子にも見えないで、
興ずるさまも等閑なり。
語句 | 意味 |
興ずる | サ行変格活用動詞「興ず」(おもしろがる、楽しむ)連体形 |
さま | 名詞 |
も | 係助詞 |
等閑なり。 | ナリ活用の形容動詞「等閑なり」(ほどほどだ、あっさりしている)終止形 |
【訳】情緒を楽しむ様子もあっさりしている。
片田舎の人こそ、色濃く万はもて興ずれ。
語句 | 意味 |
片田舎 | 名詞(田舎の中でも特に田舎の地域) |
の | 格助詞 |
人 | 名詞 |
こそ、 | 係助詞 ※結び:もて興ずれ |
色濃く | ク活用の形容詞「色濃し」(しつこい)連用形 |
万 | 名詞(あらゆること) |
は | 係助詞 |
もて興ずれ。 | サ行変格活用動詞「もて興ず」(おもしろがる)已然形【係り結び】 |
【訳】片田舎の人は、しつこくあらゆることをおもしろがる。
花の本にはねぢ寄り立ち寄り、あからめもせずまもりて、
語句 | 意味 |
花 | 名詞(桜の花を指す) |
の | 格助詞 |
本 | 名詞(かたわら) |
に | 格助詞 |
は、 | 係助詞 |
ねぢ寄り | ラ行四段活用動詞「ねぢ寄る」(にじり寄る)連用形 |
立ち寄り、 | ラ行四段活用動詞「立ち寄る」(近寄る)連用形 |
あからめ | 名詞(わき見) |
も | 係助詞 |
せ | サ行変格活用動詞「す」未然形 |
ず | 打消の助動詞「ず」連用形 |
まもり | ラ行四段活用動詞「「まもる」(見つめる)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
【訳】桜の花のかたわらに、にじり寄り、近寄り、わき見もしないで見つめて、
酒飲み、連歌して、果ては、大きなる枝、心なく折り取りぬ。
語句 | 意味 |
酒 | 名詞 |
飲み、 | マ行四段活用動詞「飲む」 |
連歌 | 名詞 |
し | サ行変格活用動詞「す」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
果ては、 | 副詞(ついには、最後には) |
大きなる | ナリ活用形容動詞「大きなり」(大きい)連体形 |
枝、 | 名詞 |
心なく | ク活用形容詞「心なし」(思慮分別がない)連用形 |
折り取り | ラ行四段活用動詞「折り取る」連用形 |
ぬ。 | 完了の助動詞「ぬ」終止形 |
【訳】酒を飲み、連歌をして、最後には大きな枝を、分別なく折り取ってしまう。
泉には手・足さしひたして、雪にはおりたちて跡つけなど、
語句 | 意味 |
泉 | 名詞 |
に | 格助詞 |
は | 係助詞 |
手・ | 名詞 |
足 | 名詞 |
さしひたし | サ行四段活用動詞「さしひたす」(水などにつける)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
雪 | 名詞 |
に | 格助詞 |
は | 係助詞 |
おりたち | タ行四段活用動詞「おりたつ」(下り立つ)連用形 |
て | 接続助詞 |
跡 | 名詞(足跡) |
つけ | カ行下二段活用動詞「つく」(つける)連用形 |
など、 | 副助詞 |
【訳】泉には手足をつけて、雪には下り立って足跡をつけるなど、
万の物、よそながら見る事なし。
語句 | 意味 |
万 | 名詞(あらゆること) |
の | 格助詞 |
物、 | 名詞 |
よそながら | 副詞(離れた所にいながら) |
見る | マ行上一段活用動詞「見る」連体形 |
事 | 名詞 |
なし。 | ク活用の形容詞「なし」終止形 |
【訳】あらゆる物を、離れたにいながら見ることがない。
兼好法師が言いたかったこと
桜…満開だけが良いのではない
・まだ咲いていない梢にも良さはある。
・満開を見れなかった悔やしさを感じるもの良い。
・桜が散ってしまった庭にも見どころがある。
月…満月だけが良いのではない
男女の仲…全て始めと終わりが趣深い
恋愛…恋愛が成就することだけが良いというわけではない
・結婚せずに別れてしまった辛さを思うこと
・別れてしまったはかない約束を恨むこと
・秋の夜長を独りで明かすこと
・はるか遠くにいる人(or身分が高くて手が届かない人)に思いをはせること
・荒れた家で昔の恋人を思い出すこと
→これらのことが、本当の意味で恋の情緒を理解するのだ
教養のある人(風流を理解する人)
・少し離れた所から、さりげなく眺める
⇔片田舎の人
・近寄って直接的に楽しむ
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回も徒然草より「花は盛りに」を解説しました。
最終的には「田舎者は、なんでもかんでも近くに寄って、ガッツリべったり楽しまないと気が済まないんだよなぁ…」と苦言を呈しているようです。
兼好法師の言いたいことは、理解できましたか?
他のお話も是非読んでみてください。
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