徒然草より、第二百三十六段「丹波に出雲といふ所あり」について解説をしていきます。
徒然草とは、鎌倉時代末期に兼好法師によって書かれました。
兼好法師が日常生活の中で見たり聞いたりしたことを書いた、随筆です。
今回は、丹波の国にある出雲大神宮に行った人たちのお話です。
どんなことが描かれ、筆者は何を言いたかったのかを読み取っていきましょう。
この記事では
・品詞分解と語句解説
・現代語訳
・本文の解説
以上の内容を、順番にお話していきます。
徒然草「丹波に出雲といふ所あり」品詞分解・現代語訳・解説
本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳
丹波に出雲といふ所あり。
語句 | 意味 |
丹波 | 名詞(地名。丹波の国。現在の京都府と兵庫県の辺りの国) |
に | 格助詞 |
出雲 | 名詞(地名。丹波の国にある。出雲大神宮がある場所) |
と | 格助詞 |
いふ | ハ行四段活用動詞「いふ」連体形 |
所 | 名詞 |
あり。 | ラ行変格活用動詞「あり」終止形 |
【訳】丹波の国に出雲という所がある。
大社を移して、めでたく造れり。
語句 | 意味 |
大社 | 名詞(島根県にある出雲大社を指す) |
を | 格助詞 |
移し | サ行四段活用動詞「移す」(移動する)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
めでたく | ク活用形容詞「めでたし」(すばらしい、めでたい)連用形 |
造れ | ラ行四段活用動詞「造る」已然形 |
り。 | 存続の助動詞「り」終止形 |
【訳】出雲大社の神霊を分けて祀マツり、立派に造ってある。
島根県にある出雲大社から勧請して、この地に祀りました。
「勧請」とは、神社の神霊を分けて別の神社にも祀ることを言います。
言い方はアレですけど、ラーメン屋さんの暖簾分けみたいですね。
しだのなにがしとかや領る所なれば、
語句 | 意味 |
しだのなにがし | 名詞(しだの誰それ。) |
と | 格助詞 |
か | 係助詞【疑問】 |
や | 間投助詞 |
(いふ人) | 省略されている |
領る | ラ行四段活用動詞「領る」(治める)連体形 |
所 | 名詞 |
なれ | 断定の助動詞「なり」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
【訳】しだの誰それとかいう人が治めているところであるので、
秋のころ、聖海上人、そのほかも、人あまた誘ひて、
語句 | 意味 |
秋 | 名詞 |
の | 格助詞 |
ころ、 | 名詞 |
聖海上人、 | 名詞(人名) |
そ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
ほか | 名詞 |
も、 | 係助詞 |
人 | 名詞 |
あまた | 副詞(たくさん) |
誘ひ | ハ行四段活用動詞「誘ふ」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
【訳】秋ごろ、聖海上人、その他にも、人をたくさん誘って、
「いざ給へ、出雲拝みに。
語句 | 意味 |
いざ | 感動詞(さあ) |
給へ、 | ハ行四段活用動詞「給ふ」(いらっしゃる)命令形 【尊敬】しだのなにがし→聖海上人、その他の人々への敬意 |
出雲 | 名詞 |
拝み | マ行四段活用動詞「拝む」(参拝する)連用形 |
に。 | 格助詞 |
【訳】「さあいらっしゃい、出雲大社の参拝に。
かいもちひ召させん。」とて、
語句 | 意味 |
かいもちひ | 名詞(ぼたもち) |
召さ | サ行四段活用動詞「召す」(召し上がる)未然形 【尊敬】しだのなにがし→聖海上人、その他の人々への敬意 |
せ | 使役の助動詞「す」未来 |
ん。」 | 意志の助動詞「ん」終止形 |
とて、 | 格助詞 |
【訳】ぼたもちをごちそうしましょう。」と言って、
「召させん」は直訳すると「召し上がらせましょう」ですが、ここでは「ごちそうしましょう」と訳しました。
具しもて行きたるに、おのおの拝みて、
語句 | 意味 |
具し | 作業四段活用動詞「具す」(連れて行く)連用形 |
もて | 接頭語(動詞の語調を整える) |
行き | カ行四段活用動詞「行く」連用形 |
たる | 完了の助動詞「たり」連体形 |
に、 | 接続助詞 |
おのおの | 副詞(それぞれ) |
拝み | マ行四段活用動詞「拝む」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
【訳】(上人たちを)連れて行ったところ、それぞれが(出雲大社を)拝んで、
ゆゆしく信おこしたり。
語句 | 意味 |
ゆゆしく | シク活用形容詞「ゆゆし」(非常に)連用形 |
信 | 名詞(信仰心) |
おこし | サ行四段活用動詞「おこす」(起こす)連用形 |
たり。 | 完了の助動詞「たり」終止形 |
【訳】非常に信仰心を起こした。
御前なる獅子、狛犬、背きて、後ろさまに立ちたりければ、
語句 | 意味 |
御前 | 名詞(神仏の前、ここでは社殿の前) |
なる | 存在の助動詞「なり」連体形 |
獅子、 | 名詞(拝殿に向かって右側に置かれる魔除けの像) |
狛犬、 | 名詞(拝殿に向かって左側に置かれる魔除けの像) |
背き | カ行四段活用動詞「背く」(背を向ける)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
後ろさま | 名詞(後ろ向き) |
に | 格助詞 |
立ち | タ行四段活用動詞「立つ」連用形 |
たり | 存続の助動詞「たり」連用形 |
けれ | 過去の助動詞「けり」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
【訳】社殿の前にある獅子・狛犬が、背を向けて、後ろ向きに立っていたので、
上人いみじく感じて、「あなめでたや。
語句 | 意味 |
上人 | 名詞(聖海上人のこと) |
いみじく | シク活用形容詞「いみじ」(非常に)連用形 |
感じ | サ行変格活用動詞「感ず」(感動する)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
「あな | 感動詞(ああ) |
めでた | ク活用形容詞「めでたし」(すばらしい)語幹 |
や。 | 間投助詞 |
【訳】上人は非常に感動して、「ああ素晴らしいなあ。
この獅子の立ちやう、いとめづらし。
語句 | 意味 |
こ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
獅子 | 名詞 |
の | 格助詞 |
立ちやう、 | 名詞(立ち方) |
いと | 副詞(非常に) |
めづらし。 | シク活用形容詞「めづらし」(珍しい)終止形 |
【訳】この獅子の立ち方は、非常に珍しい。
深きゆゑあらん。」と涙ぐみて、
語句 | 意味 |
深き | ク活用形容詞「深し」(深い)連体形 |
ゆゑ | 名詞(わけ、理由) |
あら | ラ行変格活用動詞「あり」未然形 |
ん。」 | 推量の助動詞「ん」終止形 |
と | 格助詞 |
涙ぐみ | マ行四段活用動詞「涙ぐむ」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
【訳】深いわけがあるのだろう。」と涙ぐんで、
「いかに殿ばら、殊勝のことは御覧じとがめずや。
語句 | 意味 |
「いかに | 感動詞(なんと) |
殿ばら、 | 名詞(皆さん) |
殊勝 | 名詞(心打たれること) |
の | 格助詞 |
こと | 名詞 |
は | 係助詞 |
御覧じとがめ | マ行下二段活用動詞「御覧じとがむ」(見てお気づきになる)未然形 【尊敬】聖海上人→その他の人々への敬意 |
ず | 打消の助動詞「ず」終止形 |
や。 | 係助詞【疑問】 |
【訳】「なんと皆さん、心打たれることを見てお気づきになりませんか。
むげなり。」と言へば、
語句 | 意味 |
むげなり。」 | ナリ活用形容動詞「むげなり」(あまりにひどい)終止形 |
と | 格助詞 |
言へ | ハ行四段活用動詞「言ふ」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
【訳】あまりにひどいです。」と言うので、
おのおのあやしみて、「まことに他に異なりけり。
語句 | 意味 |
おのおの | 副詞(それぞれ) |
あやしみ | マ行四段活用動詞「あやしむ」(不思議に思う)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
「まことに | 副詞(本当に) |
他 | 名詞 |
に | 格助詞 |
異なり | ナリ活用形容動詞「異なり」(違う)連用形 |
けり。 | 詠嘆の助動詞「けり」終止形 |
【訳】それぞれ不思議がって、「本当に他と違うなあ。
都のつとに語らん。」など言ふに、
語句 | 意味 |
都 | 名詞 |
の | 格助詞 |
つと | 名詞(土産) |
に | 格助詞 |
語ら | ラ行四段活用動詞「語る」(話す、語る)未然形 |
ん。」 | 意志の助動詞「ん」終止形 |
など | 副助詞 |
言ふ | ハ行四段活用動詞「言ふ」連体形 |
に、 | 接続助詞 |
【訳】都への土産に語ろう。」などと言うと、
上人なほゆかしがりて、
語句 | 意味 |
上人 | 名詞 |
なほ | 副詞(ますます、いっそう) |
ゆかしがり | ラ行四段活用動詞「ゆかしがる」(知りたがる)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
【訳】上人はますます知りたがって、
おとなしくもの知りぬべき顔したる神官を呼びて、
語句 | 意味 |
おとなしく | シク活用形容詞「おとなし」(年配の)連用形 |
もの | 名詞(物事) |
知り | ラ行四段活用動詞「知る」連用形 |
ぬ | 強意の助動詞「ぬ」終止形 |
べき | 当然の助動詞「べし」連体形 |
※ぬべし | 【推量】~に違いない |
顔 | 名詞 |
し | サ行変格活用動詞「す」連用形 |
たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
神官 | 名詞(神に仕える人、神主) |
を | 格助詞 |
呼び | バ行四段活用動詞「呼ぶ」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
【訳】年配の物事を知っているに違いない顔をしている神官を呼んで、
「この御社の獅子の立てられやう、
語句 | 意味 |
「こ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
御社 | 名詞 |
の | 格助詞 |
獅子 | 名詞 |
の | 格助詞 |
立て | タ行下二段活用動詞「立つ」未然形 |
られ | 尊敬の助動詞「らる」連用形 聖海上人→御社への敬意 |
やう、 | 名詞(~の仕方) |
【訳】「この御社の獅子のお立てになるやり方は、
定めて習ひあることに侍らん。
語句 | 意味 |
定めて | 副詞(きっと) |
習ひ | 名詞(言い伝え、由緒) |
ある | ラ行変格活用動詞「あり」連体形 |
こと | 名詞 |
に | 断定の助動詞「なり」連用毛営 |
侍ら | ラ行四段活用動詞「侍り」(あります)未然形【丁寧】聖海上人→神官への敬意 |
ん。 | 推量の助動詞「ん」終止形 |
【訳】きっと由緒があることでしょう。
ちと承らばや。」と言はれければ、
語句 | 意味 |
ちと | 副詞(少し) |
承ら | ラ行四段活用動詞「承る」(お聞きする)未然形【謙譲】聖海上人→神官への敬意 |
ばや。」 | 終助詞【願望】 |
と | 格助詞 |
言は | ハ行四段活用動詞「言ふ」未然形 |
れ | 尊敬の助動詞「る」連用形 筆者→聖海上人への敬意 |
けれ | 過去の助動詞「けり」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
【訳】ちょっとお聞きしたい。」とおっしゃったなったところ、
「そのことに候ふ。
語句 | 意味 |
そ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
こと | 名詞 |
に | 断定の助動詞「なり」連用形 |
候ふ。 | ハ行四段活用動詞「候ふ」(~でございます)終止形【丁寧】神官→聖海上人への敬意 |
【訳】「そのことでございます。
さがなき童部どものつかまつりける、
語句 | 意味 |
さがなき | ク活用形容詞「さがなし」(いたずらだ)連体形 |
童部ども | 名詞(子どもたち) |
の | 格助詞 |
つかまつり | ラ行四段活用動詞「つかまつる」(いたす)連用形【謙譲】神官→聖海上人への敬意 |
ける、 | 過去の助動詞「けり」連体形 |
【訳】いたずらな子どもたちがいたしまして、
奇怪に候ふことなり。」とて、
語句 | 意味 |
奇怪に | ナリ活用形容動詞「奇怪なり」(けしからんことだ)連用形 |
候ふ | ハ行四段活用動詞「候ふ」連体形 【丁寧】神官→聖海上人 |
こと | 名詞 |
なり。」 | 断定の助動詞「なり」終止形 |
とて、 | 格助詞 |
【訳】けしからんことでございます。」と言って、
さし寄りて、すゑ直していにければ、
語句 | 意味 |
さし寄り | ラ行四段活用動詞「さし寄る」(近寄る)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
すゑ直し | ワ行下二段活用動詞「すう」(置く、据える)連用形+サ行四段活用動詞「直す」連用形 |
て | 接続助詞 |
いに | ナ行変格活用動詞「いぬ」(立ち去る)連用形 |
けれ | 過去の助動詞「けり」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
【訳】(神官が獅子・狛犬に)近寄って、置き直して立ち去ったので、
上人の感涙いたづらになりにけり。
語句 | 意味 |
上人 | 名詞 |
の | 格助詞 |
感涙 | 名詞 |
いたづらに | ナリ活用形容動詞「いたづらなり」(無意味だ、無駄だ)連用形 |
なり | ラ行四段活用動詞「なり」連用形 |
に | 完了の助動詞「ぬ」連用形 |
けり。 | 過去の助動詞「けり」終止形 |
※にけり | ~てしまった |
【訳】上人の感涙は無駄になってしまった。
なんだかな~っていうお話でしたね。
そもそも獅子や狛犬って、子どもや年配の神官さんが簡単に動かせるものなのでしょうか?
色々ツッコミたいこともあったかもしれませんが、これは徒然草によくある「こんなことってあるよね」というものを冷めた目で語っているお話です。
「奥山に猫またといふものありて」もそんな感じでしたね。
「奥山に~」のお話でも「僧」でしたし、今回の「上人」も、「修行を積んだ優れた僧」です。
そんな人の「やらかしちゃった話」というのが、当時の人にとっても面白かったのかもしれませんね。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は徒然草より「丹波に出雲といふ所あり」を解説しました。
最後のオチの部分を読んで、「なんじゃそりゃ!?」と思った方も少なくないでしょう。
これは有名な出雲大社だからと言って、なんでもかんでも「さすが出雲大社だ!」とありがたがるのは違うよということを言っています。
すっかり雰囲気に飲まれてしまった、聖海上人でした。
みなさんは、そのような経験はありませんか?
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