徒然草「花は盛りに①花は盛りに、月は隈なきをのみ見るものかは~」現代語訳・解説

古文

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徒然草より第百三十七段「花は盛りに①花は盛りに、月は隈なきをのみ見るものかは~」について解説をしていきます。

徒然草とは、鎌倉時代末期に兼好法師によって書かれました。
兼好法師が日常生活の中で見たり聞いたりしたことを書いた、随筆です。

今回のお話は、漢詩や古今和歌集の和歌の一部が引用されています。

 

 

この記事では

・本文(読み仮名付き)
・品詞分解と語句解説
・現代語訳
・本文の解説

以上の内容を順番にお話していきます。

徒然草「花は盛りに」品詞分解・現代語訳・解説

本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳

はなさかりに、つきくまなきをのみみるるものかは。

語句 意味
名詞(ここでは桜の花を指す)
係助詞
盛りに、 ナリ活用の形容動詞「盛りなり」(盛んである)連用形
名詞
係助詞
隈なき ク活用の形容詞「隈なし」(影になるところがない)連体形
格助詞
のみ 副助詞
見る マ行上一段活用動詞「見る」連体形
もの 名詞
かは。 係助詞【反語】

【訳】桜の花は満開の時に、月は影になる所がない満月の時にだけ見るものだろうか、いやそうではない。

花は盛りに…桜が満開の様子を表している
月は隈なき…欠けることない満月を表している

 

あめむかつき、たれこめてはる行方ゆくえらぬも、なれになさふかし。

語句 意味
名詞
格助詞
対ひ ハ行四段活用動詞「対ふ」(相対する)連用形
接続助詞
名詞
格助詞
恋ひ、 ハ行上二段活用動詞「恋ふ」(思い慕う)連用形
たれこめ マ行下二段活用動詞「たれこむ」(簾を垂らして部屋に引きこもる)連用形
接続助詞
名詞
格助詞
行方 名詞
知ら ラ行四段活用動詞「知る」未然形
打消の助動詞「ず」連体形
も、 係助詞
なほ 副詞(やはり)
あはれに ナリ活用の形容動詞「あはれなり」(すばらしい)連用形
情け 名詞(風流心)
深し ク活用の形容詞「深し」終止形

【訳】雨の夜に対して月を恋しく思い、簾をおろし室内にこもって春の移り変わりを知らないのも、やはりすばらしく、風流心が深い。

 

●「雨に対ひて月を恋ひ」…平安時代の漢詩の題に「雨に対ひて月を恋ふ」がある。

●「たれこめて春の行方知らぬも」…「たれこめて春の行方も知らぬ間に 待ちし桜も 移ろひにけり」(『古今和歌集』藤原因香ふじわらのよるか)の和歌

 

たれこめて春の行方も知らぬ間に 待ちし桜も 移ろひにけり

【意味】部屋の中にこもっていて春が過ぎゆくのも知らない間に、心待ちにしていた桜も、散ってしまった。

これは病気で部屋にこもっていたときに、折り取って部屋に置いていた桜の花が散りそうになっていた様子を詠んだもの。
外で満開になっている桜を見ることができなかったことを、悔やむ気持ちが感じられる歌。

 

 

きぬべきほどのこずえりしれたるにわなどこそ、どころおおけれ。

語句 意味
咲き カ行四段活用動詞「咲く」連用形
強意の助動詞「ぬ」終止形
べき 推量の助動詞「べし」連用形
ほど 名詞(ぐらい)
格助詞
梢、 名詞(木の幹や枝の先のこと)
散り ラ行四段活用動詞「散る」(散り落ちる)連用形
しをれ ラ行下二段活用動詞「しをる」(しおれる)連用形
たる 完了の助動詞「たり」連体形
名詞
など 副詞
こそ、 係助詞 ※結び:多けれ
見どころ 名詞(見るべき価値のあるところ)
多けれ。 ク活用の形容詞「多し」已然形【係り結び】

【訳】きっと咲くに違いないぐらいの梢や、桜の花が散り落ちてしおれてしまった庭などこそ、見るべきところが多い。

 

うた詞書ことばがきにも、「花見はなみにまかれりけるに、はやぎにければ」とも、

語句 意味
名詞
格助詞
詞書 名詞(和歌が詠まれた場所や時・事情の説明や、和歌の題を示した文章のこと)
格助詞
も、 係助詞
「花 名詞
マ行上一段価値用動詞「見る」連用形
格助詞
まかれ ラ行四段活用動詞「まかる」(参る)已然形【丁寧】和歌の作者→和歌の読者への敬意
完了の助動詞「り」連用形
ける 過去の助動詞「けり」連体形
に、 接続助詞
早く 副詞(とっくに、すでに)
散り過ぎ ガ行上二段活用動詞「散り過ぐ」(すっかり散ってしまう)連用形
完了の助動詞「ぬ」連用形
けれ 過去の助動詞「けり」已然形
ば」 接続助詞
格助詞
も、 係助詞

【訳】歌の詞書にも、「花を見に参りましたが、すでにすっかり散ってしまったので。」とも、

 

さわることありてまからで」などもけるは、

語句 意味
「障る ラ行四段活用動詞「障る」(用事ができる、都合が悪くなる)連体形
こと 名詞
あり ラ行変格活用動詞「あり」連用形
接続助詞
まから ラ行四段活用動詞「まかる」未然形【丁寧】和歌の作者→和歌の読者
で」 接続助詞
など 副助詞
係助詞
書け カ行四段活用動詞「書く」連用形
存続の助動詞「り」連体形
は、 係助詞

【訳】「都合が悪くなることがあって、参りませんで。」などとも書いてあるのは、

 

はなて」とるにおとれることかは。

語句 意味
「花 名詞
格助詞
マ行上一段活用動詞「見る」連用形
て」 接続助詞
格助詞
言へ ハ行四段活用動詞「言ふ」(詠む)已然形
完了の助動詞「り」連体形
格助詞
劣れ ラ行四段活用動詞「劣る」已然形
存続の助動詞「り」連体形
こと 名詞
かは。 係助詞【反語】

【訳】「花を見て。」と詠んだ(歌)に劣っているだろうか、いや、劣っていない。

 

何を言っているのでしょうか?

筆者は桜について

  • 盛り(満開)の時だけを見るものではない
  • 家の中にこもっていて、春の去ってゆく(桜が散っていく)のを知らないでいるのも良い
  • 今にも桜が咲きそうなぐらいの梢も良い
  • 花が散り落ちてしおれている庭も見どころがある
    と言っています。

「花見に行ったけど、すでに散ってしまっていた」という歌「都合が悪くて花見に行けなかった」という歌も、「桜の見ごろ(満開の桜)を見て詠んだ歌」と比べて、劣っていることはないということですね。

 

はなり、つきかたぶくをしたならはさることなれど、

語句 意味
名詞
格助詞
散り、 ラ行四段活用動詞「散る」連用形
名詞
格助詞
傾く カ行四段活用動詞「傾く」(沈みかける)連体形
格助詞
慕ふ ハ行四段活用動詞「慕ふ」(恋しく思う)連体形
ならひ 名詞(しきたり、習慣)
係助詞
さる 連体詞(しかるべき)
こと 名詞
なれ 断定の助動詞「なり」已然形
ど、 接続助詞

【訳】花が散り、月が沈んでいくことを恋しく思う習慣は、もっともなことであるが、

 

ことにかたくななる人ぞ、「このえだ、かのえだりにけり。

語句 意味
殊に 副詞(特に)
かたくななる ナリ活用の形容動詞「かたくななり」(ものの道理や情緒を理解しない)連体形
名詞
ぞ、 係助詞 ※結び:める
「こ 代名詞
格助詞
枝、 名詞
代名詞
格助詞
名詞
散り ラ行四段活用動詞「散る」連用形
完了の助動詞「ぬ」連用形
けり。 過去の助動詞「けり」終止形

【訳】特に情緒を理解しない人は、「この枝も、あの枝も散ってしまった。

 

いまどころなし。」などはめる。

語句 意味
名詞
係助詞
見どころ 名詞(見る価値がある)
なし。」
など 副助詞
係助詞
言ふ ハ行四段活用動詞「言ふ」終止形
める。 婉曲の助動詞「めり」連体形【係り結び】

【訳】今は見どころがない。」などと言うようだ。

 

よろづのことも、はじりこそかしけれ。

語句 意味
よろづ 名詞(万事、あらゆること)
格助詞
こと 名詞
も、 係助詞
始め 名詞
終はり 名詞
こそ 係助詞 ※結び:をかしけれ
をかしけれ。 シク活用の形容詞「をかし」已然形【係り結び】

【訳】万事につけて、始めと終わりこそが趣深い。

 

男女おとこおんななさけも、ひとにあるをばいものかは。

語句 意味
男女 名詞
格助詞
情け 名詞(恋心、恋情)
も、 係助詞
ひとへに 副詞(いちずに)
あひ見る マ行上二段活用動詞「あひ見る」(契りを結ぶ)連体形
格助詞
係助詞
いふ ハ行四段活用動詞「言ふ」連体形
もの 名詞
かは。 係助詞【反語】

【訳】男女の恋心も、一途に契りを結ぶことを(良いと)言うものだろうか、いや、そうではない。

 

でやみにしさをおも、あだなるちぎりをかこち、

語句 意味
あは ハ行四段活用動詞「あふ」(結婚する)未然形
接続助詞
やみ マ行四段活用動詞「やむ」(とりやめとなる)連用形
完了の助動詞「ぬ」連用形
過去の助動詞「き」連体形
憂さ 名詞(つらさ)
格助詞
思ひ、 ハ行四段活用動詞「思ふ」連用形
あだなる ナリ活用の形容動詞「あだなり」(もろい、はかない)連体形
契り 名詞(約束)
格助詞
かこち、 タ行四段活用動詞「かこつ」(恨み言を言う)連用形

【訳】結婚せずに取りやめとなった辛さを思い、はかない約束に恨みごとを言い、

 

ながよるひとかし、とお雲居くもいおもやり、

語句 意味
長き ク活用の形容詞「長し」連体形
名詞
格助詞
独り 名詞
明かし、 サ行四段活用動詞「明かす」(夜を明かす)連用形
遠き ク活用の形容詞「遠し」連体形
雲居 名詞(はるか遠く)
格助詞
思ひやり、 ラ行四段活用動詞「思ひやる」連用形

【訳】長い夜をひとりで明かし、はるか遠く(にいる恋人)を思いやり、

 

「雲居」は物理的な遠さという意味と、身分的な遠さ(高貴な人)という意味があります。

ここでは、どちらでも理解できますね。

 

浅茅あさじ宿やどむかしをしのぶこそ、いろこのむとはいめ。

語句 意味
浅茅 名詞(荒地一面に生える丈の低い茅のこと)
格助詞
宿 名詞
格助詞
名詞
格助詞
しのぶ バ行四段活用動詞「しのぶ」(思い起こす、しのぶ)連体形
こそ、 係助詞 ※結び:め
名詞(恋愛、恋の情緒)
好む マ行四段活用動詞「好む」終止形
格助詞
係助詞
いは ハ行四段活用動詞「言ふ」未然形
め。 推量の助動詞「む」已然形【係り結び】

【訳】茅が生えて荒れた家で昔を思い起こすのを、恋の情緒を好むと言うのだろう。

 

ここでは「全て、始めと終わりが趣深い」と言っています。

恋愛については「恋愛が成就することだけが良いというわけではない」とし、

  • 結婚せずに別れてしまった辛さを思うこと
  • 別れてしまったはかない約束を恨むこと
  • 秋の夜長を独りで明かすこと
  • はるか遠くにいる人(or身分が高くて手が届かない人)に思いをはせること
  • 荒れた家で昔の恋人を思い出すことが本当の意味で恋の情緒を理解するのだ、と言っているのです。

 

つづく(望月の隈なきを千里の外まで~)

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回は徒然草より「花は盛りに①」(花は盛りに、月は隈なきをのみ見るものかは~)を解説しました。
兼好法師が言いたかったことを、少しは理解できたでしょうか?

次回は「花は盛りに」のお話を最後まで解説し、全体として兼好法師の言いたかったことをまとめます。
ぜひご覧ください。

この記事を書いた人
あずき

40代、一児の母
通信制高校の国語教員

生徒が「呪文にしか見えない」という古文・漢文に、少しでも興味を持ってもらえたらと作品についてとことん調べています。

自分の生徒には直接伝えられるけど、
聞きたくても聞けない…などと困っている方にも届けたくて、ブログを始めました。

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