徒然草「よろづのことは頼むべからず」現代語訳・解説|筆者の考えを読み取る

古文

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徒然草より、第二百十一段「よろづのことは頼むべからず」について解説をしていきます。

徒然草とは、鎌倉時代末期に兼好法師によって書かれました。
兼好法師が日常生活の中で見たり聞いたりしたことを書いた、随筆です。

今回のお話は、筆者の人生観が語られています。
筆者の考えを読み取っていきましょう。

 

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この記事では

・本文(読み仮名付き)
・品詞分解と語句解説
・現代語訳
・本文の解説

以上の内容を順番にお話していきます。

徒然草「よろづのことは頼むべからず」品詞分解・現代語訳・解説

本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳

よろづのことはたのむべからず。

語句 意味
よろづ 名詞(全て、万事、あらゆること)
格助詞
こと 名詞
係助詞
頼む マ行四段活用動詞「頼む」(あてにする、頼りにする、期待する)終止形
べから 可能の助動詞「べし」未然形
ず。 打消の助動詞「ず」終止形
※べからず 【不可能】~できない

【訳】あらゆることは頼りにすることがはきない。

 

 「全てのことは、思い通りになんていかないよ」と言っています。

 

おろかなるひとは、ふかくものをたのむゆに、うらみ、いかることあり。

語句 意味
おろかなる ナリ活用形容動詞「おろかなり」(愚かだ)連体形
名詞
は、 係助詞
深く ク活用形容詞「深し」(深い)連用形
もの 名詞
格助詞
頼む マ行四段活用動詞「頼む」連体形
ゆゑ 名詞(~ために、~によって)
に、 格助詞
恨み、 マ行上二段活用動詞「恨む」(恨み言を言う)連用形
怒る ラ行四活用動詞「怒る」(腹を立てる、怒る)連体形
こと 名詞
あり。 ラ行変格活用動詞「あり」終止形

【訳】愚かな人は、深く(=強く)物事に期待するから、(思い通りにならなかったときに)恨み言を言ったり、怒ったりすることがある。

 

ここから先は、頼りにできないものを挙げています。

 

いきおありとてたのむべからず。

語句 意味
勢ひ 名詞(権力、権勢)
あり ラ行変格活用動詞「あり」終止形
とて 格助詞
頼む マ行四段活用動詞「頼む」終止形
べから 可能の助動詞「べし」未然形
ず。 打消の助動詞「ず」終止形

【訳】権力があるからといって頼りにすることはできない。

 

ものまづほろぶ。

語句 意味
こはき ク活用形容詞「こはし」(強い)連体形
名詞(人)
まづ 副詞(真っ先に)
滅ぶ。 バ行上二段活用動詞「滅ぶ」(滅びる)終止形

【訳】強い人は真っ先に滅びる(からだ)。

 

たからおおしとてたのむべからず。

語句 意味
名詞(財産)
多し ク活用形容詞「多し」(多い)終止形
とて 格助詞
頼む マ行四段活用動詞「頼む」終止形
べから 可能の助動詞「べし」未然形
ず。 打消の助動詞「ず」終止形

【訳】財産が多いからといって頼りにすることはできない。

 

ときうしなやすし。

語句 意味
時の間 名詞(ほんのわずかな間、あっという間)
格助詞
失ひ ハ行四段活用動詞「失ふ」(なくす、失う)連用形
やすし。 ク活用補助形容詞「やすし」(~しやすい、~しがち)終止形

【訳】(財産は)あっという間に失いやすい(からだ)。

 

ざえありとてたのむべからず。

語句 意味
名詞(才能、能力)
あり ラ行変格活用動詞「あり」終止形
とて 格助詞
頼む マ行四段活用動詞「頼む」終止形
べから 可能の助動詞「べし」未然形
ず。 打消の助動詞「ず」終止形

【訳】才能があるからといって頼りにすることはできない。

 

孔子こうしときず。

語句 意味
孔子 名詞(人名。儒学者)
係助詞
名詞(時勢)
格助詞
合は ハ行四段活用動詞「合ふ」(調和する)未然形
ず。 打消の助動詞「ず」終止形

【訳】(才能がある人物とされる)孔子も時勢に調和しなかった(ために世の中に受け入れられなかったからだ)。

 

孔子は優れた人物で仁の道を伝えて回りましたが、ほとんど受け入れてもらえませんでした。
儒学を開いた人として有名ですが、評価されたのは亡くなった後のことなのです。

 

とくありとてたのむべからず。

語句 意味
名詞(人徳)
あり ラ行四段活用動詞「あり」終止形
とて 格助詞
頼む マ行四段活用動詞「頼む」終止形
べから 可能の助動詞「べし」未然形
ず。 打消の助動詞「ず」終止形

【訳】人徳があるからといって頼りにすることはできない。

 

「人徳がある」とは人柄が良く、人望があることを表します。

 

顔回がんかい不幸ふこうなりき。

語句 意味
顔回 名詞(人名。孔子の弟子。)
係助詞
不幸 名詞
なり 断定の助動詞「なり」連用形
き。 過去の助動詞「き」終止形

【訳】顔回(のように人徳のある人物)も不幸であった(からだ)。 

 

顔回は、孔子の弟子です。
優れた人で、孔子も将来を期待していました。
しかし、幼い頃は貧しく、若くして亡くなってしまうという不遇の人生と言えます。

孔子は「才」、顔回は「徳」のあるすばらしい人だったんですよね。
そんな人であっても、思い通りにはならないということですね…

 

きみちょうをもたのむべからず。

語句 意味
名詞(主君)
格助詞
名詞(寵愛。主人に気に入られること)
格助詞
係助詞
頼む マ行四段活用動詞「頼む」終止形
べから 可能の助動詞「べし」未然形
ず。 打消の助動詞「ず」終止形

【訳】主君の寵愛も頼りにすることはできない。

 

ちゅうくることすみやかなり。

語句 意味
名詞(誅罰。罪をとがめて殺す)
格助詞
受くる カ行下二段活用動詞「受く」(身に受ける)連体形
※天誅を受く 罪をとがめて殺される
こと 名詞
速やかなり。 ナリ活用形容動詞「速やかなり」(早い)終止形

【訳】(主君の怒りに触れると)誅罰を身に受けることが早い(からだ)。
⇒たちまち罪を負わされて殺されてしまう。

 

深く寵愛されているということは、逆に怒りに触れた時に真っ先に処罰されてしまうリスクがあるということですね…

 

やっこしたがりとてたのむべからず。

語句 意味
名詞(召使い)
従へ ハ行四段活用動詞「従ふ」(従う、服従する)命令形
存続の助動詞「り」終止形
とて 格助詞
頼む マ行四段活用動詞「頼む」終止形
べから 可能の助動詞「べし」未然形
ず。 打消の助動詞「ず」終止形

【訳】召使いが従っているからといって頼りにすることはできない。

 

そむき、はしることあり。

語句 意味
背き、 カ行四段活用動詞「背く」(逆らう、背く)連用形
走る ラ行四段活用動詞「走る」(逃げ去る)連体形
こと 名詞
あり。 ラ行変格活用動詞「あり」終止形

【訳】(そのような召使いであっても)逆らって逃げ去ることがある(からだ)。

 

ひとこころざしをもたのむべからず。

語句 意味
名詞
格助詞
名詞(厚意、思いやりのある心)
格助詞
係助詞
頼む マ行四段活用動詞「頼む」終止形
べから 可能の助動詞「べし」未然形
ず。 打消の助動詞「ず」終止形

【訳】人の厚意も頼りにすることはできない。

 

かならへんず。

語句 意味
必ず 副詞(きっと、必ず)
変ず。 サ行変格活用動詞「変ず」(変わる)終止形

【訳】(そのような気持ちも)必ず変わる(からだ)。

 

自分に向けられた厚意は、ずっと変わらずにいるわけではないと。
分かるけど、切ないですね…

 

やくをもたのむべからず。

語句 意味
名詞(約束)
格助詞
係助詞
頼む マ行四段活用動詞「頼む」終止形
べから 可能の助動詞「べし」未然形
ず。 打消の助動詞「ず」終止形

【訳】約束も頼りにすることはできない。

 

しんあることすくなし。

語句 意味
名詞(信頼)
ある ラ行変格活用動詞「あり」連体形
こと 名詞
少なし。 ク活用形容詞「少なし」(少ない)終止形

【訳】(その約束も)信頼できることが少ない(からだ)。

 

をもひとをもたのまざれば、なるときはよろこび、なるときはうらみず。

語句 意味
名詞(自分自身)
格助詞
係助詞
名詞(自分以外の人を指す)
格助詞
係助詞
頼ま マ行四段活用動詞「頼む」未然形
ざれ 打消の助動詞「ず」已然形
ば、 接続助詞
名詞(都合よく事が運ぶこと)
なる 断定の助動詞「なり」連体形
とき 名詞
係助詞
喜び、 バ行四段活用動詞「喜ぶ」連用形
名詞(うまくいかないこと)
なる 断定の助動詞「なり」連体形
とき 名詞
係助詞
恨み マ行上二段活用動詞「恨む」(恨み言を言う)未然形
ず。 打消の助動詞「ず」終止形

【訳】自分のことも他人のことも頼みにしなければ、(もしも物事が)都合よく運ぶときは喜び、うまくいかないときには恨むごとを言わない(で済む)。

 

「そもそもすべて期待通りに何ていかないって思っていれば、うまくいったときには素直に喜べるし、うまくいかなかったとしても恨んだりしない」と言っています。

 

左右そうひろければさわらず、前後ぜんごとおければふさがらず。

語句 意味
左右 名詞
広けれ ク活用形容詞「広し」(広い)已然形
接続助詞
障ら ラ行四段活用動詞「障る」(妨げとなる、邪魔になる)未然形
ず、 打消の助動詞「ず」終止形
前後 名詞
遠けれ ク活用形容詞「遠し」(遠い)已然形
接続助詞
塞がら ラ行四段活用動詞「塞がる」(ふさがる)未然形
ず。 打消の助動詞「ず」終止形

【訳】左右が広ければ妨げとならず、前後が遠ければふさがらない。

 

せばきときはひしげくだく。

語句 意味
狭き ク活用形容詞「狭し」(狭い)連体形
とき 名詞
係助詞
ひしげ ガ行下二段活用動詞「ひしぐ」(押しつぶす)連用形
砕く カ行下二段活用動詞「砕く」(壊す)終止形

【訳】(それに対して)狭いときは押しつぶして壊してしまう。

 

どういうことでしょうか?

道幅が広ければ、向こうから人が来てもぶつかることなくお互いが通れますよね。
また、前の人との間隔が離れていれば、詰まって道がふさがってしまうこともありません。
道幅や間隔が狭いとぶつかって、押しつぶされてゆがんだり、壊れてしまうとも言っています。
ここまでは例え話であるのがわかるでしょうか?

はい、なんとなく…

筆者の言いたいことは、次の文章から読み取ってみましょう。

 

こころもちることすこしきにしてきびしきときは、ものにさかあらそやぶる。

語句 意味
名詞
格助詞
用ゐる ワ行上一段活用動詞「用ゐる」連体形
※心を用ゐる 気を配る、配慮する
こと 名詞
少しきに ナリ活用形容動詞「少しきなり」(わずかだ、少しだ)連用形
して 接続助詞
厳しき シク活用形容詞「厳し」(厳格、容赦ない)連体形
とき 名詞
は、 係助詞
もの 名詞
格助詞
逆ひ、 ハ行四段活用動詞「逆ふ」(逆らう)連用形
争ひ ハ行四段活用動詞「争ふ」(争う)連用形
接続助詞
破る。 ラ行下二段活用動詞「破る」(傷つく)終止形

【訳】(人への)配慮がわずかで厳格なときは、物事に逆らい、争って傷ついてしまう。

 

相手への心遣いをなくして、自分のやろうとすることを厳しく貫こうとすると、相手と争うことになってしまうと言っています。

そして結果的に自分が傷つくことになるとも言っていますね。

 

ゆるくしてやらかなるときは、一毛いちもうそんぜず。

語句 意味
緩く ク活用形容詞「緩し」(ゆったりとしている)連用形
して 接続助詞
やはらかなる ナリ活用形容動詞「やはらかなり」(柔軟だ、しなやかだ)連体形
とき 名詞
は、 係助詞
一毛 名詞(一本の毛→ほんの少し)
係助詞
損ぜ ※ザ行変格活用動詞「損ず」(壊れる、傷つく)未然形
ず。 打消の助動詞「ず」終止形

【訳】ゆったりとして柔軟なときは、ほんの少しも傷つかない。

 

「自分の考えを緩くもって柔軟に対応するときは、少しも傷つくことはない」ということです。

 

ひと天地てんちれいなり。

語句 意味
名詞
係助詞
天地 名詞(天と地)
格助詞
名詞(霊妙)
なり。 断定の助動詞「なり」終止形

【訳】人は天と地の(間で)霊妙(な存在)である。

 

「霊妙」とは、はかりしれないほどに奥深くすぐれていることを表した言葉です。

 

天地てんちかぎるところなし。

語句 意味
天地 名詞
係助詞
限る ラ行四段活用動詞「限る」(限定される、区切る)連体形
ところ 名詞
なし。 ク活用形容詞「なし」終止形

【訳】天と地は限りがない(=無限に広がっている)。

 

ひとせいなんぞことならん。

語句 意味
名詞
格助詞
名詞(生まれ持った性質)
なんぞ 副詞【反語】どうして~か、いや~ない。
ことなら ナリ活用形容動詞「ことなり」(違う、異なる)未然形
ん。 推量の助動詞「ん」連体形

【訳】人が生まれ持った性質とどうして違うだろうか、いや違わないだろう。

 

 

人の生まれ持った性質は、天と地と同じだと言っていますがどういうことでしょうか?

天と地は限りなく無限に広がっていると言っていました。
つまり、天や地のように、限りなく広い心を持てということです。

 

寛大かんだいにしてきまらざるときは、喜怒きどこれにさわらずして、もののためにわづらはず。

語句 意味
寛大に ナリ活用形容動詞「寛大なり」(心がひろくゆったりとしている)連用形
して 接続助詞
きはまら ラ行四段活用動詞「きはまる」(極限に達する)未然形
ざる 打消の助動詞「ず」連体形
とき 名詞
は、 係助詞
喜怒 名詞(喜びや怒り)
これ 代名詞
格助詞
障ら ラ行四段活用動詞「障る」(邪魔する)未然形
打消の助動詞「ず」連用形
して、 接続助詞
もの 名詞(物事)
格助詞
ため 名詞
格助詞
わづらは ハ行四段活用動詞「わづらふ」(思い悩む)未然形
ず。 打消の助動詞「ず」終止形

【訳】心がひろくゆったりとしていて極限に達していないときは、喜びや怒りも邪魔せずに、物事によって思い悩まない。

 

ちょっと意味が分かりません。

最後のまとめですので、しっかりおさえましょう。
天と地のようにゆったりと限りがなく広い心を持てば、なにが起きても一喜一憂することなく、思い悩まずに穏やかに生きることができるということです。

なるほど!
わかりました。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。
今回は徒然草より「よろづのことは頼むべからず」を解説しました。

「頼むべからず」としているのは

「勢ひ」「財」→社会的な部分、外的要素

「才」「徳」→性格や人格、内的要素

「君」「奴」→主従関係

「人の志」「約」→人間関係

ということが分かりました。

また、どのように生きるのがよいかという筆者の考えについては、

100%頼りにできるものなどない。
そうした上で思い通りにいったときは素直に喜び、うまくいかなくてもそのまま受け止めればいいだけだ。
人間も天や大地の在り方と同じで、広く寛大な心を持つのがよいのではないか。

というものでした。

みなさんは、このお話を読んでどのように感じましたか?

この記事を書いた人
あずき

40代、一児の母
通信制高校の国語教員

生徒が「呪文にしか見えない」という古文・漢文に、少しでも興味を持ってもらえたらと作品についてとことん調べています。

自分の生徒には直接伝えられるけど、
聞きたくても聞けない…などと困っている方にも届けたくて、ブログを始めました。

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