徒然草より第百八十九段「今日はそのことをなさんと思へど」について解説をしていきます。
徒然草とは、鎌倉時代末期に兼好法師によって書かれました。
兼好法師が日常生活の中で見たり聞いたりしたことを書いた、随筆です。
今回のお話は、兼好の人生についての考えが語られています。
理屈っぽさが感じられるかもしれません。
作者の主張を理解していきましょう。
この記事では
・本文(読み仮名付き)
・品詞分解と語句解説
・現代語訳
・本文の解説
以上の内容を順番にお話していきます。
徒然草「今日はそのことをなさんと思へど」品詞分解・現代語訳・解説
本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳
今日はそのことをなさんと思へど、
語句 | 意味 |
今日 | 名詞 |
は | 係助詞 |
そ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
こと | 名詞 |
を | 格助詞 |
なさ | サ行四段活用動詞「なす」(未然形 |
ん | 意志の助動詞「む(ん)」終止形 |
と | 格助詞 |
思へ | ハ行四段活用動詞「思ふ」已然形 |
ど、 | 接続助詞 |
【訳】今日はそのことをしようと思うけれども、
あらぬ急ぎまづ出で来キてまぎれ暮らし、
語句 | 意味 |
あらぬ | 連体詞(それとは違った。別の。) |
急ぎ | 名詞(急用) |
まづ | 副詞(先に) |
出で来 | カ行変格活用動詞「出で来」(出て来る)連用形 |
て | 接続助詞 |
まぎれ暮らし、 | サ行四段活用動詞「まぎれ暮らす」(他のことに気をとられて一日を過ごす)連用形 |
【訳】それとは違った急用が先に出てきて(その急用に)気をとられて一日を過ごし、
やろうと思っていたことが、急用が入ってできなくなって、気付いたら一日が終わってしまった…なんてこと、ありますね。
待つ人は障りありて、頼めぬ人は来たり。
語句 | 意味 |
待つ | タ行四段活用動詞「待つ」連体形 |
人 | 名詞 |
は | 係助詞 |
障り | 名詞(障害、邪魔が入る) |
あり | ラ行変格活用動詞「あり」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
頼め | マ行下二段活用動詞「頼む」(期待する)未然形 |
ぬ | 打消の助動詞「ず」連体形 |
人 | 名詞 |
は | 係助詞 |
来 | カ行変格活用動詞「来ク」連用形 |
たり。 | 完了の助動詞「たり」終止形 |
【訳】(来ることを)待っている人は邪魔が入って(来ることがなく)、(来ることを)期待していない人は来てしまう。
頼みたる方のことは違ひて、
語句 | 意味 |
頼み | マ行下二段活用動詞「頼む」(頼りにする、あてにする、期待する)未然形 |
たる | 存続の助動詞「たり」連体形 |
方 | 名詞(方面) |
の | 格助詞 |
こと | 名詞 |
は | 係助詞 |
違ひ | ハ行四段活用動詞「違ふ」(食い違う)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
【訳】期待している方面のことは食い違って(うまくいかず)、
思ひ寄らぬ道ばかりはかなひぬ。
語句 | 意味 |
思ひ寄ら | ラ行四段活用動詞「思ひ寄る」(考えが及ぶ。思い当たる。)未然形 |
ぬ | 打消の助動詞「ず」連体形 |
道 | 名詞(その方面) |
ばかり | 副助詞(~だけ) |
は | 係助詞 |
かなひ | ハ行四段活用動詞「かなふ」(思い通りになる)連用形 |
ぬ。 | 完了の助動詞「ぬ」終止形 |
【訳】思いもよらないことだけは思い通りになってしまう。
だからと言って、思い通りにならないことだけが、実現してしまうとは言っていません。
人生は期待通りにいかないことがよくあるものだという、兼好の思い分かります。
未然形につく…打消(~ない)連用形につく…完了(~てしまう)
煩はしかりつることは、ことなくて、
語句 | 意味 |
煩はしかり | シク活用の形容詞「煩はし」(面倒だ)連用形 |
つる | 完了の助動詞「つ」連体形 |
こと | 名詞 |
は、 | 係助詞 |
ことなく | ク活用の形容詞「ことなし」(何も支障がない。無事である。)連用形 |
て、 | 接続助詞 |
【訳】面倒だと思っていたことは、何も支障がなく、
易かるべきことは、いと心苦し。
語句 | 意味 |
易かる | ク活用の形容詞「易し」(簡単だ。難しくない。)連体形 |
べき | 当然の助動詞「べし」連体形 |
こと | 名詞 |
は、 | 係助詞 |
いと | 副詞(たいそう) |
心苦し。 | シク活用の形容詞「心苦し」(面倒でつらい)終止形 |
【訳】簡単なはずだと思っていたことは、たいそう面倒でつらい。
日々に過ぎゆくさま、かねて思ひつるには似ず。
語句 | 意味 |
日々 | 名詞(毎日) |
に | 格助詞 |
過ぎゆく | カ行四段活用動詞「過ぎゆく」(過ぎて行く)連体形 |
さま、 | 名詞(様子) |
かねて | 副詞(前もって。あらかじめ。) |
思ひ | ハ行四段活用動詞「思ふ」(考える。願う。)連用形 |
つる | 完了の助動詞「つ」連体形 |
に | 格助詞 |
は | 係助詞 |
似 | ナ行上一段活用動詞「似る」(同じように見える)未然形 |
ず。 | 打消の助動詞「ず」終止形 |
【訳】毎日が過ぎている様子は、前もって考えていたこととは同じようには見えない。
一年のうちもかくのごとし。
語句 | 意味 |
一年 | 名詞 |
の | 格助詞 |
うち | 名詞(間) |
も | 係助詞 |
かく | 副詞(このように) |
の | 格助詞 |
ごとし。 | 比況の助動詞「ごとし」終止形 |
【訳】一年の間もこのようである。
一生の間もまたしかなり。
語句 | 意味 |
一生 | 名詞 |
の | 格助詞 |
間 | 名詞 |
も | 係助詞 |
また | 副詞(やはり。同じように。) |
しか | 副詞(そう) |
なり。 | 断定の助動詞「なり」終止形 |
【訳】一生の間もやはりそうである。
かねてのあらまし、みな違いゆくかと思ふに、
語句 | 意味 |
かねて | 副詞(前もって。あらかじめ。) |
の | 格助詞 |
あらまし、 | 名詞(予想。期待。) |
みな | 名詞(全て) |
違ひゆく | カ行四段活用動詞「違ひゆく」連体形 |
か | 係助詞 |
と | 格助詞 |
思ふ | ハ行四段活用動詞「思ふ」連体形 |
に、 | 接続助詞 |
【訳】前もっての期待が、全て違っていくかと思うと、
おのづから違はぬこともあれば、
語句 | 意味 |
おのづから | 副詞(たまたま) |
違は | ハ行四段活用動詞「違ふ」未然形 |
ぬ | 打消の助動詞「ぬ」連体形 |
こと | 名詞 |
も | 係助詞 |
あれ | ラ行変格活用動詞「あり」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
【訳】たまたま違わないこともあるので、
いよいよものは定め難し。
語句 | 意味 |
いよいよ | 副詞(ますます) |
もの | 名詞(物事) |
は | 係助詞 |
定め難し。 | ク活用の形容詞「定め難し」(決めることが難しい)終止形 |
【訳】ますます物事は(前もって)決めることが難しい。
「物事はどうなるかわからない」
「しかし思い通りにならないことだけではない」
→すべては予測不能ということですね。
不定と心得ぬるのみ、まことにて違はず。
語句 | 意味 |
不定 | 名詞(不確実) |
と | 格助詞 |
心得 | ア行下二段活用動詞「心得」(理解する)連用形 |
ぬる | 完了の助動詞「ぬ」連体形 |
のみ、 | 副助詞(~だけ) |
まこと | 名詞(真実) |
に | 断定の助動詞「なり」連用形 |
て | 接続助詞 |
違は | ハ行四段活用動詞「違ふ」(間違える)未然形 |
ず。 | 打消の助動詞「ず」終止形 |
【訳】(物事は全て)不確実だと理解しておくだけが、真実であって間違いがない。
この一文が作者の結論です。
「わからないと心得ていることが真実であって間違いがない」
つまりは「どうなるかわからないということだけが、確実なことである」ということです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は徒然草より「今日はそのことをなさんと思へど」を解説しました。
兼好法師の人生観が垣間見れるお話でした。
どうなるかわからない日々の中で、期待しすぎることもなく、「全ては期待通りにならない」とあきらめることもないのです。
「人生は、どうなるかわからないから面白い」と言っているのではないでしょうか。
みなさんは、このお話を読んでどのように感じましたか?
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