徒然草より第三十一段「雪のおもしろう降りたりし朝」について解説をしていきます。
徒然草とは、鎌倉時代末期に兼好法師によって書かれた随筆です。
兼好法師が日常生活の中で見たり聞いたりしたことを、書いています。
今回のお話は、雪が美しく降った日にある人に手紙を送り、それに対する返事がどのようなものであったかということが語られています。
そこから兼好のある人に対する思いを感じ取ってみましょう。
この記事では
・本文(読み仮名付き)
・品詞分解と語句解説
・現代語訳
・本文の解説
以上の内容を順番にお話していきます。
徒然草「雪のおもしろう降りたりし朝」品詞分解・現代語訳・解説
本文・品詞分解(語句解説)・現代語訳
雪のおもしろう降りたりし朝、
語句 | 意味 |
雪 | 名詞 |
の | 格助詞 |
おもしろう | ク活用形容詞「おもしろし」(趣深い)連用形「おもしろく」のウ音便 |
降り | ラ行四段活用動詞「降る」連用形 |
たり | 存続の助動詞「たり」連用形 |
し | 過去の助動詞「き」連体形 |
朝、 | 名詞 |
【訳】雪が趣深く降っていた朝、
人のがり言ふべきことありて、文をやるとて、
語句 | 意味 |
人 | 名詞 |
の | 格助詞 |
がり | 名詞(~のもとへ、~のところへ) |
言ふ | ハ行四段活用動詞「言ふ」終止形 |
べき | 当然の助動詞「べし」連体形 |
こと | 名詞 |
あり | ラ行変格活用動詞「あり」連用形 |
て、 | 接続助詞 |
文 | 名詞(手紙) |
を | 格助詞 |
やる | ラ行四段活用動詞「やる」(送る)終止形 |
とて、 | 格助詞 |
【訳】ある人に言うべきことがあって、手紙を送ろうと思って
雪のこと何とも言はざりし返り事に、
語句 | 意味 |
雪 | 名詞 |
の | 格助詞 |
こと | 名詞 |
何 | 代名詞 |
と | 格助詞 |
も | 係助詞 |
言は | ハ行四段活用動詞「言ふ」未然形 |
ざり | 打消の助動詞「ず」連用形 |
し | 過去の助動詞「き」連体形 |
返り事 | 名詞(返事) |
に、 | 格助詞 |
【訳】雪のことは何も言わなかった(その手紙の)返事に、
次からの「」は、ある人からの返事の内容となります。
「この雪いかが見ると、一筆のたまはせぬほどの、
語句 | 意味 |
「こ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
雪 | 名詞 |
いかが | 副詞(どのように) |
見る | マ行上一段活用動詞「見る」連体形 |
と、 | 格助詞 |
一筆 | 名詞(一言) |
のたまはす | 尊敬の動詞(おっしゃる) |
ぬ | 打消の助動詞「ず」連体形 |
ほど | 名詞 |
の、 | 格助詞 |
【訳】「この雪をどのように見るかと、一言おっしゃらないぐらいの、
ひがひがしからん人の仰せらるること、聞き入るべきかは。
語句 | 意味 |
ひがひがしから | シク活用形容詞「ひがひがし」(ひねくれている人、風流を理解しない人)未然形 |
ん | 婉曲の助動詞「む(ん)」連体形 |
人 | 名詞 |
の | 格助詞 |
仰せ | サ行下二段活用動詞「仰す」未然形【尊敬】ある人→作者への敬意 |
らるる | 尊敬の助動詞「らる」連体形 |
こと、 | 名詞 |
聞き入る | ラ行下二段活用動詞「聞き入る」(聞き入れる)終止形 |
べき | 可能の助動詞「べし」連体形 |
かは。 | 係助詞【反語】 |
【訳】風流を理解しないような人のおっしゃられることを、聞き入れることができましょうか。いやできません。
①自動詞:ラ行四段活用(ら/り/る/る/れ/れ)…じっと聞く、聞き入る
②他動詞:ラ行下二段活用(れ/れ/る/るる/るれ/れよ)…聞いて承知する、聞き入れるここでは②である
かへすがへす口惜しき御心なり。」
語句 | 意味 |
かへすがへす | 副詞(本当に) |
口惜しき | シク活用形容詞「口惜し」(残念だ、がっかりだ)連体形 |
御心 | 名詞(作者の心を指して言っている) |
なり。」 | 断定の助動詞「なり」終止形 |
【訳】本当にがっかりするお心です。」
作者の方が身分が高かったことがうかがえる。
手紙の内容は、どういうことを言っているのでしょうか?
「きれいな雪が降ったのに、手紙で全く触れないなんてひねくれた人ね」と言っています。
そこには「前置きもなく、いきなり自分のいいたいことだけ言ってくるなんて失礼な人ね」という意味も感じられます。
雪について触れないからといって、話を聞き入れられないと突き返すのはきついですね。
兼好はどう思ったのか、続きを読んでいきましょう。
と言ひたりしこそ、をかしかりしか。
語句 | 意味 |
と | 格助詞 |
言ひ | ハ行四段活用動詞「言ふ」連用形 |
たり | 完了の助動詞「たり」連用形 |
し | 過去の助動詞「き」連体形 |
こそ、 | 係助詞【強意】 ※結び:しか |
をかしかり | シク活用形容詞「をかし」(趣がある、興味深い)連用形 |
しか。 | 過去の助動詞「き」已然形【係り結び】 |
【訳】と言っていたのは、趣深いことであった。
「をかしかりしか」と言っていますね。
そんな返事を送ってきた人のことを、「趣深い人」と言っています。
怒られてしまったとか、うるさいなとかではなく「趣深い」とは不思議です。
「ある人」とは女性であったと言われています。
景色の美しさに目を向けられる趣深い人である、と好意的に受け止めているようですね。
今は亡き人なれば、かばかりのことも忘れ難し。
語句 | 意味 |
今 | 名詞 |
は | 係助詞 |
亡き | ク活用の形容詞「亡し」(亡くなっている)連体形 |
人 | 名詞 |
なれ | 断定の助動詞「なり」已然形 |
ば、 | 接続助詞 |
かばかり | 副詞(これだけ) |
の | 格助詞 |
こと | 名詞 |
も | 係助詞 |
忘れ難し。 | ク活用の形容詞「忘れ難し」終止形 |
【訳】今は亡くなっている人であるので、これだけのことも忘れ難い。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は徒然草より「雪のおもしろう降りたりし朝」を解説しました。
亡くなった人を思い出す、一つのエピソードでした。
とても短い文章ですが、兼好法師の故人を思う気持ちが感じられる文章でしたね。
季節の美しさ風流を大事にする心がすばらしい、美しさに目を向ける人を魅力的に感じるという兼好法師の思想がわかるお話でもありました。
「をかし」「ひがひがし」など風流を理解すること、そうでないことを表現する言葉も知ることができたのではないでしょうか。
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